26層 人と蟻をダメにする絨毯
仰々しく設置された宝箱。
言い方を変えれば、女王が守るほどの代物のはず。
ゆっくりと開封、中からは二人乗れるかどうかといった大きさの絨毯が入っていた。
「飛べねぇかなー」
試しに座ってみるかと思って、触れるとそれは光を発しながら俺の何かと繋がった。そんな感覚があった。
座るとゆっくり動き始めた。
ポタポタと赤い液体が床に落ちる。
それと同時に軽い脱力感を感じたような気がした。怪我した時に感じるあれだ。
察して液体を指につけて舐めると、案の定鉄分の味がした。
「人様の血を無断使用してやがる。まあいっか、金取られるわけでもないんだし」
普段はふわふわと浮いていて、乗ると普段歩く時と同じような感覚で自然と進めた。なにこれこわい。
まあ使う機会は少ないが、空中に転移した際の足場にはなるだろう。
枕に仕舞おうと手をかける寸前に、リアリーが当たり前のように絨毯が入っていた空の宝箱を乗せた。
「……」
何をしているのかと様子を見ていると、リアリーはそのまま宝箱の中に入って目を閉じたのである。
「あのだな、リアリーには悪いがお前を連れて行くことはできないんだよ。物理的に。ダンジョンのルールでなー」
モンスターはその階層以外に行けない。無理やり連れていこうとしたら薄黒い霧となって元の階で復活する。
そのため、いくらリアリーが快適な寝床を見つけても、電動……血動絨毯に乗せて連れ帰るわけにはいかない。うちのアパートペット禁止だし。
「そういうわけだからあばよ」
そう言って俺はこの最上階にあったのぼり階段を上った。確かに上ったはずだ。
「んー? もしかしてこれ下りてる?」
転移のマーキングをすると、ここは先程いた場所より深いところにあるような感覚のフィードバックがあった。相変わらず絨毯に乗った宝箱で眠っているリアリーだが、この感じだとそろそろ次の階に入るだろう。
——あ、ちゃんとマッピングしてないな。また今度やろ。
俺はリアリーの入った宝箱に蓋をし、そこにぐでーと覆い被さるようにくつろぐ。階段が長いのだ。まだまだかかりそうなので、絨毯を操作する片手間でスマホゲーを開始した。
「やべぇ、この移動方法快適すぎ……文明の発展が人間の体を衰退させるってのは本当だったんだなー」
数十分して、27層に到着した。
速度的には、今の俺が小走りするのと大差なかったはず。
27層の異次元の緑化具合を見て、念の為虫除けスプレーを補充しようと思って1層へ転移した。
折角できた収納スペースだし、と枕を宝箱に入れようとして——
「おー、リアリーさんや。なかなか出しゃばりだな」
まだ、普通に寝こけているのである。
おかしいな。他のモンスターは別の階層に連れて行けないのに。こいつだけ特別なのだろうか。
「…………ん、よく分からん! まあいいや、バレなきゃええべってことで!」
考えるのを放棄して退出手続きに向かった。
ほら、地上に出れば消えるかもだし。




