26層 覚醒イベントだってよ(俺は除く)
一面がガラスのような材質の空間、そこで待ち構えていたあまりに視認性の悪い巨大な蜂に“ナマクラ”で殴りかかる。
転移による奇襲返しは予想だにしていなかったのか、命中。カーンッと金属を棒で殴ったような音と感触がしただけ。
ダメージが入ったようには見えない。
「かってーな」
空中からの攻撃だったため回避できないと踏んだのか、針のついたケツで横薙ぎしてきた。
当然転移で回避。
床に手を置いて一か八か、スキルを発動。
「【土龍】」
——地面から龍を生やすなら、この床だって地面判定でもおかしくない。そうであってくれなきゃ火力が足りん。
そう考えての賭けだったわけだが、どうやら勝ったらしい。床からガラスの龍が伸びて巨大蜂に噛みついた。
今。
カスダメもならない“ナマクラ”の代わりに“塵舞”を取り出し、スイッチを起動。
ガラスの龍の効果時間が切れて、この世で最も美しいガラスのうんこになった瞬間。
「らぁ!」
一閃。
そう呼ぶにはあまりに豪快で不格好。
使い手の俺ですら踏ん張れず、剣ごといった体当たりが炸裂した。
そのままかったい外皮を割り、親玉が床に伏した。
薄黒い霧になるまで見届けようとしていたら、グイッと襟を引っ張られる。
「おー、どうしたリアリー。発情期か?」
いくら俺といえど、そこまでストライクゾーンは広くない。代わりにエサ……あ、そういえばよく分からん液体があったな。あれを飲ませてみる。
最初はビックリした様子のリアリーだったが、次第に光り始めた。なんか進化キャンセルみたく中断とかできなさそうだし、放っておいて倒れたままの親玉を見やる。
少しすると、ガラスの外皮から何かが飛び出した。
“塵舞”の平たい部分で受ける。
「ぬっ……!?」
速度が乗っていて鋭い。武器が貫通してまた土手っ腹に風穴が空きそうだと思い、咄嗟に後方へ跳んで威力を逃した。
出てきたものが一度退く。
それは、手のひらサイズの蜂。頭上に光の王冠、ドレスのような衣装を着ていなければ、地上の大きめの蜂と言われても気付かないだろう。
「女王様ってわけか。面白ぇ!」
剣は当てられる自信が無いので持ち変える。
虫の階層だから買っておいた装備が役に立つとは。
右手にハエたたき、左手に殺虫剤。ゴーグルと虫取りカゴも装着。
本当なら凝ってタンクトップの半ズボンがよかったのだが、蜂相手に肌を晒すのは本能的に嫌なのでやめておく。
小さい分速くなった女王の猛攻が始まった。
地上の蜂にたかられたことはないが、某島作りゲームの蜂のように、あれよりより殺意マシマシで殺しにくる感じだ。正直速くてほとんど目で追えていないが、それでもこないだのクジラほどじゃなかった。
強敵との死闘がしっかり経験として積み重なっているのを実感する。
「当たんねぇよなぁ! 俺も俺も!」
こちらは躱せるし、向こうはそも的が小さい上速いので俺も当てられない。猛攻を凌ぐこと数分。
無限のようなスカシ合いの末——パクン。
「え」
リアリーが、女王さん食べちゃった。
さっき光ってたけど特に変化は見られない。心なしか肌ツヤ? がいい気もするがそれだけだ。
リアリーの口から薄黒い霧が出て、倒せたことも確認できた。
俺は肩を竦めてリアリーの頭をポンと撫でる。
「どうせなら美少女になる展開だろうが」
ガジり。
「いてててぇ……!」
リアリーに手を噛まれてしまった。
俺が文句言いたくなるのも理解してほしいものだ。こういうのはモン娘がヒロインになるパターンだろうに。
「はぁ……いつになったら俺にベタ惚れな美少女ヒロインが降ってくるんだろうなー」
リアリーに引き続き噛まれながら、この最上階の奥にあった宝箱の方へ歩いていく。




