25層 ここに来てぶどう味
振替休日も終わり、何やら道が軽く破壊されて大変そうな中、いつも通り学校を終えて帰宅。
そろそろ新しいスライムを飲みたいと思ってダンジョンへやってきた。
「25層かー。果たしてダンジョンはどこまであるのやら」
心なしか長めの階段を降りきると、そこは熱帯雨林のようなジメッとした森林エリアだった。
ここが無人島だと言われても、へーそうなんだで終わるくらいには違和感が無い。
熱帯雨林も無人島も行ったことないからイメージだけど。
「ヤシの木か? 初めて見た、てい」
ヤシの実が落ちてくるのを期待して、背丈のある木を蹴ってみた。球体が落ちてきた。それはポヨンといったユルい音を鳴らして弾力を感じさせるように揺れた。
とてもヤシの実とは思えない、透き通るような紫の液体に近い何か。
――まあうん。スライムでしかない。
例のごとく食欲促進ダンスをお見舞いして俺を誘惑してくる。
俺ほどにもなると、一切我慢せず素人では目で追えない速度でスライムを口に入れる。
「んうま!」
ブドウ味。
それも果実的なあれではなく、グミとかで感じるモニュッとした味わいがあった。
こいつはよく分かってるな。果物のブドウだと少しクドさがあるのだが、ブドウのグミはヤミツキになる味なのだ。紫というのもあって、見た目はかなり毒々しいが、スライムなだけあってめっちゃ美味い。毒も無さげだし。
「結論、これよこれ!」
こうなってくるとアレンジレシピに挑戦すべきかもな。ほとんどグミだが、食感はゼリーとグミの中間。
大量にかき集めてスライムを混ぜ、熱したらいい感じにゼリーっぽくならないだろうか。
正式な退出手続きをせず、転移で行きつけのホームセンターへ。業務用の大きい鍋とお玉、それから携帯ガスコンロ、そしてコンビニで氷を購入した。
人目のつかないところで枕に仕舞ってダンジョンへ転移。
「てれててっててー♪」
マッピング片手にスライムを鍋に押し込んでいく。
若干鍋の方が溶けている気がしないでもないが、穴が空いたりはしてないのでセーフ。
鍋いっぱいになったので一度立ち止まった。
コンロを設置して点火。
その上に鍋を置く。
「おーおー。出てくるなー」
熱から逃がれようとスライムが必死に抵抗する。
もちろんそんなの無視し、お玉で押し込んでかき混ぜる。
十分ほどでスライムが弱ってきたのか抵抗していた力が無くなってきた。
あまりやりすぎると討伐して薄黒い霧になってしまう。火を消して鍋を冷ます。コンビニで買っておいた氷を地面に置いてその上に鍋、余った氷を鍋の中にいれた。
少しずつ冷えて固まっていく過程を眺め、生唾を飲む。スライムというファンタジー生物だからか変化は早く、少し待つと、それこそゼリーのようなプルプルで透明なものになった。
「いただきます!」
いざ実食。
味そのものは文句のつけようがないレベルだから下手にそこの調整はしていない。
メインは食感をいじる挑戦だ。
スプーンは無いので手でちぎって口に入れた。
「ん! 美味い!」
ゼリーとはまた違う気もするが、心地よい旨味だ。
完食する頃には腹の中で薄黒いきりになっているっぽいが、別に腹を満たすために食べているわけではない。
「ふぅ、ボーナスステージだった。気分上げて次行こーっと」
俺は意気揚々と26層へ歩みを進めた。
——この先で地獄を見ることになるとは露知らず。




