0層 地上でのガチバトル
「さ、サプラーイズ」
やはりお邪魔だったのか、空気が凍りついたような錯覚に陥る。
「や……おえだ、くん?」
この地獄のような空気の中、口を開いたのはセツナァ! だった。俺は少しほっとしながら退散するための布石を打つ。
「オッスオッス、邪魔だった? なら帰るけど」
「そんなことない!」
「うぇ!? そ、そっか」
なんか一方的に居残りを言い渡されたんだが。
俺が困惑しているのをどうとったのか、必死の懇願が向けられる。
「お願い、します! 私たちを助けてください!」
「私からもお願いいたします。八百枝様。私の全てを捧げます。何でもしますから――私と雪奈を、お救いください」
――ん?
今なんでもって?
「おーけーおーけー。ここは大人なミナミくんに任せときんさい。ビシッと言ってやりますよ」
節分イベントで人間側を這いつくばらせるのはどうかと思うし、俺は鬼のコスプレをした男性に声をかけることにした。
グッドコミュニケーションは挨拶から。ということでこんばんはと話しかけてから諭しにかかる。
「どういう経緯とか、微塵も興味無いけど、やり過ぎはよくないっすよ」
「……貴様は何だ」
おっかない人だな。初対面で警戒心バリバリの睨みを向けるほどだろうか。
「そこの二人の…………顔見知り? たぶん」
関係値はあまり掴めていないのでそういうことにしておこう。
「そんな話はしていない。貴様の気配があまりに人間とはかけ離れて――まあ良い。どの道ここで死ぬのだから関係の無いことだ」
「あ、もしかして強めのスキル手に入って調子乗ってる感じっすか? いやー、いるんだよね、これだから素人は」
調子に乗って暴れるのなら、こちらも正当防衛(何でもしてくれるオプションつき)で取り押さえるだけのこと。
――顔面に衝撃。鬼の人もといコスプレ野郎の拳だった。
まばたきはしていない。
油断はしていた。
だが、それでも、どうとでもなると思っていた。
まさかこんな上裸のおっさんにしてやられるとは思いもしていなかった。
吹き飛ばされたものの、重心を動かしてバク宙で一度体勢を整える。
「かなり力を込めたのだがな」
「おいおいおっさん、いきなり腹パンは人としてどうなのさ」
「人に見えるか? この強さが」
「あーはいはいその手合いね。うんうん強い強い」
どうしてこうも力が手に入っただけで、人は中二病にまっしぐらなのだろう。もしかしたら、その痛々しい立ち振る舞いこそが人間の原点なのかもしれない。
「まあいいや。俺の大いなる計画の礎となってもらうさ」
大いなる計画――それは、先程なんでもすると言い放ったセツナァ! のお姉さんに秘書をやってもらう計画である。
こないだ、税金がどうのとか司條さんに言われたのでそこら辺を押し付ける人を探していたのだ。実に助かる。
俺のムスッコが元気だったらこうも生ぬるいお願いなんてしないだろうが、悔やまれるぜ。いくら悔しがろうとビクともしないので一周まわって悲しい。
「貴様が何であろうと。オレこそが最強――」
「そいや!」
地面を蹴って回し蹴り。
結構本気で蹴ったが、軽く後ずさりさせる程度ですんでしまった。
「ぬん! ていや! よっこいせ! そそそい!」
貫手、パンチ、などなど思いつく限りの体術で仕掛けるも、有効打は与えられそうにない。
「小癪な!」
「ま、そっちの攻撃は当たらないんだけどー」
パワー強めの脳筋タイプっぽいのでスピードは俺の方が僅かに上。向こうのスキルが不明だが、こちらもスキルを使っていないので、総合力としては同じくらいだろう。
「――少しは、やるようだな」
ドクンと心音のような音が響いた。
直後、コスプレ野郎の姿がブレた。辛うじて目で追える速度。
「【楔指定】【割り込み】」
背後に転移。
からの強襲は即座に気付かれ、振り向きざまに受け止められた。
「お互い手を抜いてたってことで、ここは引き分けちゃんちゃんじゃダメ?」
「ぬかせ!」
距離が詰まる。
迫る貫手。
血走って謎の紋様な走った体から蒸気を発したその攻撃は、当然のように俺の胸部を貫――
けるわけもなく。
転移で悠々と回避。仕返しとばかりに嫌がらせで特殊メイクか何かの角を拳でへし折った。
――ボキッ。
「え?」
ポロッといくものだと思っていたが、根元から皮膚を抉りとるようにとれてしまった。
「やべっ、救急車呼んだ方がいいっすかね?」
「チッ」
折った角のところから、大量の血とグロい中身が……見えない。
漏れているのは薄黒い霧。
そして見慣れた空洞。
「あんた、モンスターだったんだ?」
「もんすたあ? 何を言っているが知らぬが下等生物扱いされているのは分かるぞ、生意気な小僧」
「喋るモンスターは初めてだなー。友好的なら別にいいんだけどさ」
ふと思い至る。
「お前、そこの二人殺す気だったな?」
「だから何だ」
「じゃあ敵。死ねや!」
容赦はしない。
慣れない制圧戦ではなく、手馴れた狩りの時間だ。
腰に提げたお土産の木刀を二本構えた。
相手は俺とほとんど互角のモンスター。そしてここには俺以外のクラスメイトとそのお姉さんがいる。
さっさと倒さないと面倒になる。
それに、こちとら休暇気分で修学旅行に来ているんだ。早く終わらせて旅館で温泉に入りたい。
――転移。
それも二連チャン。
木刀は耐えきれなかったものの、鈍器としては使えたので両腕を吹き飛ばした。
「チッ、ふざけるなよ人間が!」
腕の再生もできるようで、欠損部分が巻き戻っていく。
自己回復はアカンでしょ!
ズルだズル!
「貴様がどれほど腕に自信があろうと――すべては守れまい」
虚空に漆黒の雲がかかり、黒い葉が降ってきた。
「……これは、まさか呪い!?」
「っ、八百枝様! ここから避難を!」
「いやいや当たらなきゃいいんじゃない?」
ぎっしりと空一面、迫るように葉が降ってきているものの隙間はある。そこを縫えばなんとか……俺はいけるけど二人は無理ってことか。理解。
なら二人を掴んで転移すれば解決だ。
「すぐ行く!」
「誰が行かせるものか」
コスプレモンスターは即座に俺と二人の間に割って入ろうと動く。
「残念でした〜、転移」
「――だろうな!」
右ストレートが俺の頬に突き刺さった。
転移を読んで、もとより二人の方に移動していたらしい。
吹き飛ばされ、距離が空く。すぐ真上に葉が迫っていた。
「安心しろ、先に小娘どもは、貴様の目の前でこの手ですり潰してくれるわ!」
ヤツが拳を振りかざし、狂気的な笑みを浮かべた。
その顔は、いや、頭は。
「――は?」
誰の発した言葉だろうか。
鬼の首が飛ぶ。
その直後、空を埋め尽くす黒い葉はというと。
「【ラピス】」
その全てが凍てつき、砕け散った。
葉だけではない。この山にいる、俺とあっちの二人以外のすべてが氷となったのだ。
たった一人の女によって。
「また会ったな…………名前なんだっけ?」
「リーフだ」
そんな名前だったな。
こないだ20層のクジラにしてやられた時にオレが起きるまでいたらしい、ショタコンエルフコスプレ女さんである。
俺より強いとは思っていたが、こんな鬼つよスキルもあるとはな。
「嫌な予感がしたから来て正解だった。このタイミングで封印解除が行われていたとは」
「リーフ、環境破壊は気持ちよかったか? てなわけで弁償は任せた! 俺は旅館に行って温泉入りたいから。じゃなー」
そう言ってセツナァ! の所へ転移、お姉さんにはまた今度修学旅行後に家に来るよう伝え、転移で落ち合う場所に戻る。
「待つんだ! 今のは封印“解除”の儀式だ。厄介事の本番はこれから。私一人で被害をゼロにするのは骨が折れるなんてものじゃ――」
なんか言ってるけど俺は折れた木刀を買い直さないといけないので知ったことでは無い。
お土産屋さんが閉まる前に集合場所に転移できたようで、即刻木刀を購入したのだった。




