22層 心のセーフエリア
22層に入ると、空気が明らかに違うのを肌で感じ取れた。さっきまで、殺伐としていてジリジリと虫の声が幻聴になるほど聞こえていたのだが、ここは静かだった。夜であることを加味しても、空気が美味しく感じるほどに穏やかである。
「ん、オアシスってやつだな」
砂漠ではないが、精神的なところでも空気感も俺の想像するオアシスそのものであった。
念の為マッピングを開始し、小一時間で完了してしまった。
モンスターも居ないようで、どうやらこの階層こそ20層以降のセーフエリアらしい。11層、22層……なら次は33層がそうかもしれない。
そう思って俺は検証を開始した。
「ふん!」
木を“ナマクラ”で殴りつけ、へし折る。
手を伝って返ってくる心地いい反動の音をBGMに叩くこと数回、木は何らファンタジー的抵抗を見せずに倒れてしまった。
そしていつもの薄黒い霧にならない。
「おっとこれは想定外の収穫」
昨今、砂漠化やら森林破壊がどうたらで資源の不足が著しいと、耳にする。もしここの木材を有効活用なら何かしらいい事がおこりそうだ。よく分かってないけど。
「伐採♪ 伐採――♪」
リズムに合わせて頑丈なだけの棒切れを振るい、ひしゃげていく木の外皮を眺めながら続々と切り(?)倒していった。
「ヒッヒッフー……」
数時間ぶっ続けで木を切り倒したものの、目を離した隙に新たな木が生えていた。
ラマーズ法を中断。21層を覗いてみる。
静かな森だ。
燃やしたはずの森が、何も無かったかのように綺麗さっぱり元通りになっていた。
虫の声が聞こえたのでそそくさと22層へ戻る。
「無限植林場編キタコレ」
これで色んな問題が解決するんじゃなかろうか。あれだ、RGBとかSDカードみたいな感じのあれだ。
……いや、待てよ?
ここに来れるやつは限られている。
そして、現在はメンテナンス中とはいえ四次元枕を所持している俺。
――隠しておこう。なんか面倒事に巻き込まれる気しかしない。よく気付いたな、流石は俺だ。
俺はネットで調べながら切り倒した木で掘っ建て小屋を作り、学校の時間が迫っていたので転移した。
今日は短パン小僧な装備だ。退出の列に数人並んでいたのでその後ろに並びながら、ここから虫の階層なら大きめの虫取り網でも用意しておこうと考えてネットで注文した。
「お疲れ様です!」
「どうもどうもー」
「今回はお早いお帰りで安心です!」
「学校があるんでね、あんまサボり過ぎると目付けられるんで」
新人ちゃん(たぶんもう新人ではない)に顔を覚えられたようで、最近はよく世間話をしてくるようになった。彼女の名前は分からない。いつも名札がひっくり返っているからな。きっとプライバシー的なあれなのだろう。ただのおっちょこちょいの可能性もあるけど。
「よしっと、手続き完了です! お疲れ様です!」
「あいあい、どもでーす」
そして買取窓口へ行くと、すぐに司條さんによって密室へと連行された。やはり彼女は俺に気があるのかもしれない。
「それで、どうでしたか21層以降は?」
「あたしとあなたはビジネスの関係だったって言うの!!」
「……続けてください」
「ごめんなさい」
その返しがいちばん怖い。
一人だけふざけてるのが寒いのがよくわかる。
「まあ。森でしたね。昼夜もあるタイプの。そんで22層がセーフエリアって感じっす」
「21層は普通にモンスターが?」
「そらもう、虫が山のように居ましたねー。夜はマシでしたけど」
「…………なるほど。どうです? 八百枝さんから見て、ダンジョンは人為的なものだと思いますか?」
「へ? ホワイそんな話が?」
「いえ、風の噂でまことしやかに囁かれていてですね――」
「あ、長くかりそうならパスで。この後学校あるんで」
「……」
よせやい、そんなジト目で見るなってやんでい!
俺がいくら優等生な真面目くんだからって、今モテ期が来ても嬉しくなんてないんだからねっ!
手なわけで軽い報告だけして帰宅。
風呂に入ってからすぐに学校へ向かった。




