21層 よし、この森は燃やそう(よしこ? 誰よその女!)
死闘の末20層のレアボスをも倒し、攻略サイトのために各所の周回まで終え、いろーんな人からお叱りを受けた俺は、お節介な司條さんの居ない日を狙ってダンジョンへやってきていた。
攻略サイトの更新も終わってので今日からは21層以降へ進んでいく予定だ。
もちろん学校が休みの土曜日、ガッツリ行こうと思う。
「さぁ、次はどんな光景が俺を待っているのか――」
階段を降り、お預けにしていた21層の地へ足を踏み入れた。
「おぉ……」
まず目に入ったのは緑、そして茶色。
無数の木々が、堂々とその大きな背丈から見下ろすように迎え入れたのである。
「森林、それか密林か。ジメッとしてるし現代人向きではないな」
日差しみたいな照明のせいか蒸し暑く感じるし、長居したくない。なんなら海に帰りたい。これがホームシックってやつか。
どうやら俺は海派らしい。
モンスターの居ないセーフエリアだと気を抜こうとしたその時、オーシャンボーイたるこの俺に襲いかかる影があった。
「うげ、バッタ」
俺と同じくらいの背丈はあるバッタがかなりの速度でホップステップジャンプしてきた。
歴戦の猛者たる俺に当たるはずもなく、悠々と飛び蹴りを回避した。どうやらここは普通にモンスターが出るらしい。
「虫はカブトとクワガタしか好きくない!」
この目の前のモンスターに至ってはデカいしキモイ。
俺は武器を抜き放つ。
ちなみに20層のクジラのせいで“塵舞”はメンテナンス中だ。使えるのは市販のナイフと強化突っ張り棒、そして――。
「いくぞ、助っ人外国人!」
長剣といって差し支えない長さ。
それでいて細く、刃も潰れた灰色の剣。
ある対象を除いて、それは鈍器としてしか使えない。
「残念、てめぇじゃこの剣は役不足らしいな」
使い手が相対した対象が天と地ほどの格上のときのみ、それは何よりも輝く。ジャイアントキリングソード。
銘を“ナマクラ”。
文字らしいものも刻まれていたが何語かすらよくわからなかったのでふさわしい名前をくれてやったのである。
「しゃあおら! こいや実質仮面ラ〇ダー!」
人サイズで、飛び蹴りをしてくるバッタ。うん、何も間違っちゃいない。禁忌中の禁忌である二度目のライ〇ーキックに対し、俺は真正面からナマクラを振り下ろした。
乾いた外骨格を粉砕し、バッタの頭部からセミのぬけがらでも踏んだような感触で倒しきった。
いつもの薄黒い霧が流れ、俺は武器を再度構える。耳障りな羽音やら地面を擦る音がしていた。
「モテ期にしては絵面がキモすぎんだろ」
迫り来るは虫の群れ。
てんとう虫、バッタ、カマキリ、イナゴ。
てんとう虫だけ場違い感が凄い。
気色悪い手応えを噛み締めながら前へ進む。
粉砕、玉砕、大――と息巻いてナマクラを振り回し、ひたすらに突き進んだ。息が詰まりそうなほどの物量、それを全部なぎ払い、前へ進む。
バッタは飛び蹴り主体、カマキリは切り裂き、イナゴは噛みつき、てんとう虫は黄色い液体を噴出させてきた。
だが、それだけだ。単純な物量ほど怖いものもないが……どれだけ俺がモンスターどもとやり合ったと思ってる。いのちだいじにでやってきた箱入りじゃないんでね。
虫の大群をがむしゃらに吹き飛ばしながら進むこと数時間。
「はぁ……いや多すぎだろ」
体力の消耗は無いが、精神的なところで疲労がヤバい。あれだ、SAN値ピンチってレベルで頭おかしくなりそう。
でも【平常運転】のせいで冷静になるから虫に対する嫌悪感が霧散してしまった。
「この歳で悟りの境地に来ちゃったー。わりぃな、数々のお坊さん、先に行くぜ……」
マッピングどころではなかったので、改めて21層を見て回る。
――木と虫しか無い。
ただ、無駄にだだっ広いせいでマッピングだけで八時間近くかかってしまった。
そして発見もあった。
「夜、あんのかよ」
天井が暗く、月明かりより微かな光のみがある。
といっても出現するモンスターが変わった様子は無い。むしろ眠っていることが多いので夜は探索しやすい時間のようだった。
階段のある、水溜まりレベルの池へ向かう。
「……」
ひゅー、と掠れた口笛が夜の森を虚しく駆けていった。夜の水溜まりにポツポツと、星々が散りばめられていたのである。
蛍がゆっくりと空中を揺蕩っている。
幻想的な光景に目を奪われた。
――ズダダッ、とゲームで聞くようなマシンガンの音が響いた。いや、骨伝導と言うやつだろうか。
「あいててっ!?」
蛍がBB弾のような球体を射出して、というより連射していた。
「チクチクするからやめい! こなくそ、ダンジョンは景色を楽しませるおもてなしの精神が無いのか! それでも大和魂持ってんのか!」
むしゃくしゃしていたら目天才的な案を思いついた。
この森にいるやつらがロクなモンじゃないってなら――
「ちょいとコンビニ〜」
転移、そした数分後。
「ただいまファイヤー!!」
俺はこのクソみたいな虫の湧くを燃やし、夜の大火事を背に、次の階層へ進むのだった。




