17層 亀甲縛り
大きな宝箱を開封。これが舌切り雀か浦島太郎だったらバットエンドまっしぐらだが、幸運なことに比較対象が無いので大きいと決まったわけではない。巨大宝箱の中のちびっ子の可能性もある。
まあなんだっていい。大事なのは中身だけだ。
「おーぺーんっ!」
意外と軽い蓋を開け、中を覗き込む。
浦島太郎みたく煙を浴びたりすることなく、中身が縄であることを確認できた。しかもやけに高級感のある光る純白の大縄だった。素材なのか武器なのかは分からないが、少なくとも【罠作成】で使う分には色々とできそうだった。
「よし、お前の名前は、“ひかる! DX亀縄MAX”だ!」
Xが二個あるので、複数形のsがつき、反対から読むとsx、つまり実質アレだ。うん。
光るデラックスマックスの試運転を兼ねて、検証に入ろう。検証なんて後回しとも思ったが、こんなアイテムが手に入るなら他のパターンも気になってしまう。
てなわけで検証――――しました!
あれから二時間。ダメでしたね。何も無かったッ!
出てきてもデカ亀だし、ドロップなかったし。
「あまりに無さすぎてセルフ亀甲縛りのプロになっちゃったよ」
亀と並走しつつ亀甲縛りで自分を縛って這って遊んだりしていたらプロになっていた。ダンジョンで食っていけなくなってもそういうプレイのサポーターとして手に職がもらえそうでよかった。こういうのもある種資格勉強と言えるはずだ。
「るんたったー」
今は亀甲縛りされた(した)状態で這って次の階層を目指している最中。ふと、まだ試していないのが残っていることに気が付いてしまった。
転移の座標は指定してある。何かあってもきっとおそらく大丈夫だろう。
この階層は一本道で、休憩スポットの小さな島があるだけ、あとはスタートとゴールまで何も無かった。そう、道の横には海が広がっているだけなのである。
そう、まだ探索出来ていない場所がたんまりある。
「いざ、尋常に! ダイブ!」
入水時のフォームや水しぶきで点数が決まる競技のごとく、俺は亀甲縛りの状態でザバンッと豪快な音を立てて海へ入った。今ごろ審査員のデカブツ亀は満点の札を掲げているところだろう。
とりあえず縛られているのでバタフライの要領で泳ごうと思ったが、自分には水泳という概念が【平常運転】で消えてしまったことを思い出し、普通に着地の体勢に切り替える。
五分ほど、衣類にだけかかる僅かな浮力を味わいつつ、垂直落下運動を続けていると、ようやく底が見えてきた。
――恋しい地面からは巨大なウサミミがひょっこり出ているが。
「かわいいじゃんか。引きちぎってやらなきゃ!」
塵舞片手に飛びかかり、刃を入れる。
油断していたのか片耳を切り落としてやったタイミングで、大きな兎が海の中を跳躍した。フワッとしたジャンプではなく、謎の力で高速で跳んだのである。そして怒り狂った兎野郎は俺の周囲をとんでもない速度で跳び交う。必死に蹴りを入れようとしているが、俺も動きは鈍らないので辛うじて回避できていた。
――とはいえこちらは亀甲縛り状態。
文字通りの縛りプレイに足を引っ張られ、すっ転んでしまった。
「やっべ」
慌てて縄を解いていると、案の定飛び蹴りがやってきた。今から回避するには転移しかない――あ!
天才の発想が天から舞い降りてきた。
俺は縄と自分をモノとして、【罠作成】を発動する。
罠というのは、古来より餌がつきものだ。
ならば俺を餌にしてしまえば、このままでも罠となる。
飛びかかってきた巨大兎は、してやったりとドヤ顔をしているが、直後、それは驚愕の表情に変わった。おれを縛り付けていた縄がヤツに巻きついたのである。縛られたことでスキルの条件でも満たされなくなったのか、突如減速して亀甲縛り状態で浮力によって持ち上げられていった。
おおかた自由に動ける状態の時のみ浮力を無視するとかそういう感じのスキルなのだろう。知らんけど。
何はともあれ狩り時ってやつだ。
接敵して首根っこの縄を掴む。
「ぐへへ……」
「ぴょんぴょん!!」
「お前鳴き声あざといな?」
「ぴょんぴょんぴょんぴょん!」
「うるせぇ! 軽率にこころぴょんさせてんじゃねぇ!」
転移で海から脱出して上空へ。そのまま上へ放り投げた。そして塵舞を空へ掲げ、ケツの穴から真っ直ぐ、無抵抗な巨大うさぎを貫いた。
ビクビクッと大きく痙攣した後、いつものごとく薄黒い霧となって散っていった。ドロップは無し。
検証はーん!
はーい!
というわけでコース外の海の底に潜んでいる巨大うさぎと数匹戯れた後、俺は黄金のウサミミカチューシャを装備して次の階層へ降りていくのだった――。




