18層 クラゲクラーケンクラーゲ
18層へ突入した。
戦利品である亀の縄も、黄金のウサミミカチューシャも、特段これといったファンタジー的な効果は発揮していない。
強いて言うなら完全な防水加工といったところだろうか。あとどっちも光るくらい。俺はあんまり関係無いが、18層は真っ暗な深海モチーフの場所らしい。深海魚は居ないけど。
俺にとっては昼間の海と大差ないように映っているが、写真を取ろうとしたら画面が真っ黒で驚くほど光が無かったのである。
「はぁ、完全水没系の階層ってマッピングがめんどいのよなぁ。目印無いし、通路も無い。おまけに近所のおばちゃんも居ない。最近駄菓子屋とか見なくなったし、世知辛い世の中っすわ」
なんだか脱線してるような気がしないでもないが、そもそも乗るような線路は用意していないのでフリーダムにダムダムしていく。要するにマッピングを開始した。
あてもなく彷徨う。サラサラした砂の感触を足の裏で堪能しつつ、海の底を舞うワカメのように……いや、ドォルフィンッ(ネイティブ的発音)のようにしらみ潰しで進んでいく。決して徘徊老人とかではないことだけは言わせてもらおう。
サラサラ、スナスナ、ぷにぷに…………ん? なんか踏んでね?
サラサラなスナスナを満喫していると、ぷにぷに、あるいはぶにぶにといった感触の何かを踏みつけた。もしかしたらふにふにかもしれないが、たぶんぷにぷにが一番近いだろう。
滑らかな肌触りに軽く足をとられつつ、足元を見てみると、そこにはめちゃくちゃ見えにくい透明な何かがあった。
球体から上の方を切り取ったような、ドームの天井のような形状に、縁から伸びる無数の触手。どう見てもクラゲである。あまりの透明さに、まるで自分が汚れた存在であるかのようにコケにされた気がしたので、思いっきり踏みつけてやる。被害妄想乙と言われても構わない。俺はクラゲよりキクラゲ派なんだ。
「うわきっしょ」
攻撃されたと認識されたからか、足に触手が絡みついてきた。痛みとか痒みも無いが、こそばゆいので反対の足でもういっぺん全力で踏み抜いて黒い霧にしてやった。
ドロップは無し。
周回しようか迷ったが、あっという間に土日も終わりそうなのでひとまずはマッピングのみして20層を目指す方針にしておこう。個人的にはマッピングを落とし込むのが中々に面倒なのだ。細かいところはどうせ後でパパっとできる。嫌いなものは先に食べる派なんでねぇ。
目印の無いだだっ広い空間を歩き、やっとこさダンジョンの壁を発見した。ここを伝ってあるけばおおよその全体像を把握できる。階段が壁沿いにあればなおよしさんなのだが、そこは運か制作者の意地悪度次第といったところだろう。
しばらく壁に沿って進むものの、景色が全く変わらず飽きてきたので、壁を床に見立ててゴロゴロするローリング戦法をして遊ぶ。
――ふと、視界の片隅で黒い何かが動いたのが見えた。
形的には矢。しかし少し水に溶けている部分がある。
「墨か」
痛そうだったので回避。
攻撃してきたところを探るも、敵らしい影は見えない。いや、見えにくいだけだこれ。なんかいる。
うっすら光った銀色の眼球が遠くから見えたような気がした。走ってそちらに向かうも、かなりの速度で逃げていく。相手がなんなのかだけは確認したいので転移して蹴りを入れる。するとスキルか何かで隠れていた体が顕になった。正真正銘イカである。人間サイズというところに目を瞑れば何の変哲もないイカだった。
「この階層えぐいな。たたでさえ暗いだろうに、こんなやつらいたら奇襲で死ぬぞ」
体を引きちぎって霧に変える。
……あ、これ海の生物なら食べたら美味しいのでは?
俺って天才だな!
頷きながらドロップが無いのを確認していると、背後にイカ臭い香りを感じた。海の中でも俺の嗅覚は作用するらしい。口の中にも鼻の中にも水入らないしどうなってんのこれ。
俺の人体の不思議はさておき、危険が危ないっぽいので転移で退避。直後、さっきまでいたところにド派手に砂が舞った。衝撃の瞬間に目を凝らしていたから分かったが、あれは透明な触手が上から垂直に攻撃してきたものだろう。
イカかクラゲ、それもとんでもなくデカイのがそこにいる。
――じゅるり。
「おっかしいな。空腹感じないはずのにお腹空いてきたわよ奥さん」
よし、丸かじり攻撃一択だな。
これがホントのフードファイトってね!




