16層 許すまじクソ人魚ども
「無理だこれ」
16層ことクソカスマーメイド階層に突入してからおよそ20時間が経過した。その間、再利用可能なうちのビリビリ網漁トラップは無双し、ついぞ人と見紛うようなその肉に触れることはなかったのである。
とはいえ近接を挑もうにもティッシュの布陣からして待ちの戦法の方が圧倒的にやりやすく、なんとかならないかと試行錯誤はしたものの不可能という結論に至った。
「……仕方あるまい。勝負には負けたが試合には勝たせてもらおう。どっちがどっちか分からなくなったけど!」
俺は攻略サイトに載せるやり方を諦め、転移を解禁した。
縛りプレイの片手間でマッピングはしていたのでこの広大な海も網羅しつくしている。階段のあった方向へ向かいつつ、ヤツらを探す。
「お、はぐれキタコレ」
人魚の中にはどういうわけか群れずに一体で漂っているカモがいる。少し先にいる個体がそうだ。これは天に与えられた最高の機会、俺のほぼ丸一日に渡る苦労の成果が実る時――!
「【楔指定】【割り込み】」
背後に転移。気付かれぬまま後ろから腕を回す。
そして豊満なたわわを掴んだ。
――そう思われた。
両の手握りしめたはずのそれはチャポンと音を立てて弾けたのである。
「…………」
「……ケタケタ」
「こんの偽乳ゴミ人魚がっ!!! 俺はきょぬー派なんだよクソが!!!!!!」
あまりのミソカスっぷりに、思わず今日の献立を鯖の味噌煮に決定したところで頭をガシッと掴んで地面に叩きつけた。
上半身が人なのに心が痛まないか?
こいつは――いや、あの性格の悪い笑い方からして人魚という種族は全員虚乳なのだろう。
なら詐欺だ。景品表示法違反で死刑。あと詐欺罪。
そも俺にとって乳の無い人魚なぞに人権は認めん。人間はかろうじて認めることとする。
というわけで〆に人魚の無観客解体ショーを開催したところで戦利品を確認。
人魚からは鱗が落ちた。確率の問題かもしれないが、幸いなことに肉は落ちていない。人魚の肉を食うと不老不死だの若返るだの言うからな。下手したら戦争にでもなりかねないし、人魚が乱獲されてしまう。……戦争はともかく乱獲はいいか。アイツらはクソ。絶滅するがいい。
「ん?」
鱗を確認して収納、次の階層へ行こうと思ったが、足元にキラリと何かが光った。
涙の形をした水晶のような硬質したものであった。人魚の涙とでも仮称しておこう。俺はそれを拾って眺めたり投げたりかじったり飲み込んだりしてみたが変化は無い。しかも味もしない。
「鑑定してもらう必要が――あ、食っちゃった」
しまった。素材以外は食えるという偏見が、通常階層のレアドロップかもしれない代物を失わせてしまった。とんだ罠もあったものだ。
しかし、ドロップしたのはある意味特殊な行動をしたついさっきだけ。
検証のため、追加の人魚を探す。
少しぶらつき、三体の群れを発見した。即座に一体目の背後に転移した。
「そうだ、あの個体だけが平野だった可能性も――」
握り、ついさっきまで肉体だったはずの泡が割れた。
続けざまに他二体も握り、神秘のヴェールを追い剥ぎしていった。
「……そうでしょうよ」
全員順番に拳骨を食らわせて海の底に追いやりながら、電気網漁トラップをヤツらが吹き飛んだ先に作って発動させた。ドロップは――あった。ちゃんと三つ、人魚の涙が転がっている。
「こんな確定ドロップはいやだ。どんなもの? きょぬーと思って触ったらひんぬーだと判明してしまう条件! はぁ……」
大喜利で風に言ってみたがおもんない。
もういいもん。現在時刻は土曜の夕方。あと一日半あるのでサクサク進もう。あと条件付きの確定ドロップに関しては今回が初出だと思う。
他のモンスターに変な点は無かったし、それに何よりまた検証しに戻るのはクソだるい。ので、そういう深掘りは後続の連中に任せよう。少しくらいそういうモレがある可能性を置いた方が楽しみも増えるというものだ。
そうして俺はこの人魚の放牧場から脱出したのでしたまる。




