16層 人魚ちゃんこんにちは!!
階段を降りた先は、小さな孤島とも呼べない足場だった。周囲は一面の海、海、海。水平線が見えるほどに広い。本当にダンジョンってどうなってるのやら。世界の七不思議のひとつだな、ダンジョンの仕組みは。
残りは絶賛募集中。
何はともあれ探索だ。とりあえず水中装備でダイブ。
【平常運転】があったので、身体の抵抗はなく、高層ビルから飛び降りたような結果になった。
つまりどういうことかというと、膝にきた。痛い。
「んお?」
しかし、海の中はダンジョンの中で一番美しい光景が広がっていた。透き通るような瑠璃色の海水、夏の海を連想させる虹のベールのような差し込む光。
その中を、複数の人魚が楽しそうに泳いでいたのである。
「これこそファンタジーってやつだよな。最初の方にこの階層があればみんなもっと来るだろうに」
人魚ちゃん達が奏でている合唱に耳を済ませながら近寄ってみた。向こうもこちらを歓迎するように腕を広げている。
――もしかしてこの子達には、フリーハグ的な文化が、あるのだろうか。うっひょひょー!
その豊満な胸に飛び込む。
「ケタケタ……!」
あわやおっぱ、といったところで凶悪な牙を顕にして肩を噛み砕かんとしてきた。牙が見えた瞬間に身をよじって回避。
「危なっ! ハニトラかよくそが!」
嫌がらせ気分で魔改造突っ張り棒で目玉を突いてから、一度距離をとる。こちらが戦闘態勢に入ったからか、付近に居た人魚達も一斉にその美しさとはかけ離れた牙をむき出しにしてきた。
海の楽園なんてのは泡沫に消え、いつも通りの殺伐としたダンジョン風景に戻ってきたのである。
「ケタケタ」
「ケタケタ……」
「ケタケタケタケタ……」
「気色悪い笑い方しやがって。ケタケタとか絶対言いにくいだろうが。童貞を弄んだ報いを受けてもらおうか」
割と本気で殺意が湧いている。【平常運転】にとってはゲーム中のイライラとかも含めて平常なのだろう。
コキコキッと指を鳴らし、右手に“塵舞”を、左手に突っ張り棒を構えた。
向こうが動くと同時に、海の中を駆ける。
人魚にとってこの環境は庭なのだろうが、俺にとっても地上とほとんど変わらない。
「「「「La〜♪」」」」
歌声と共に海が揺れる。音波攻撃とかそういうのだろう。海の中の岩が吹き飛ぶ。水中で少しは波が生じるとはいえ、不可視なことに変わりはない。
転移で攻撃も考えたが、正攻法で戦う後続のためにもそこは縛っておこう。一度距離をとりつつ、枕からポケットティッシュを取り出し、散りばめていく。
これで回避手段は確保できた
「悪いな、”ハンカチティッシュ持った?”ってうちのマザーからよく言われてたんだ。見ての通りいい子ちゃんなもんで」
「「「「ケタケタケタ!」」」」」
「別に笑いどころじゃねぇだろ! クソビッチが!!」
何回聞いても気色悪い笑い声だ。耳を浄化するためにもまずはこいつらの排除が先決。攻撃手段としても既に構想がある。
――俺は枕から網を取り出した。それを枕の中にある乾電池と一緒に上に放り投げ、水面に水平になるよう広げつつ【罠作成】を発動。
通ったら網が落ちてくる仕掛けにしておいた。
「さぁて、かかったこいやアバズレども! へいへいおしりペンペンペーン!!」
挑発しつつ、脱兎のごとくしっぽを巻いて逃げ出した。うさぎのしっぽってかわいいよね。
発狂音波攻撃の射程範囲外だったのか、ゆるりと距離を詰めてきた。そして歌声とティッシュの揺れが生じる。それを確認してからまたもや後退。おおよその射程は分かった。レモン300個分くらいだな、たぶん。
冗談はさておき見切った射程の外へ少し逃げてを繰り返して罠の場所まで誘導。
水面に張られていた網は突然重りが乗ったように沈み、人魚共をまとめて捕縛した。そして添えておいた乾電池も【罠作成】で強化されたからか、網自身に電流を走らせ、ビリビリトラップが作動した結果になった。
「計画通り(ニヤッ)」
ぐへへと、世界一綺麗な笑い方をしながら人魚どもに歩み寄る。喚き散らすやつらを無視し、俺は見た目だけは人間と変わりない上半身に――
――スッ、と。
人魚だったそれは薄黒い霧となって海に溶けていく。
「…………計画通り(泣)」
腐ってもスキルなだけあって効果は覿面らしく、倒しきってしまったようだった。
「いいもん! まだまだいるもん! 一瞬でもキャツラのおっぱおを触れれば俺の勝ちだもん!」
そうして俺の男としての意地を賭けた世紀の大勝負は幕を開けたのだった――。




