第06話 『ここは任せました! 俺たちは先に行きますね!』
今回10層のゲート前で『迷惑行為』をしていた桜花爛漫――正確には『桜花爛漫・大阪支部 第二攻略班』の面々。
連中が言っていた『予約』という制度。
口からでまかせを言っていたのかといえば……そういうわけでもなかったみたいで。
「ちゃんと組合から発行された許可証がありましたね。
てことは、そいつらがやってたことは合法な行為なんです?」
「限りなく黒に近いグレーってとこかな?
あんまり使われることはないけど、これって本来は長期探索を行うギルドが迷宮管理局にその予定を提出して下層までスムーズに移動するためのシステムなのよ」
決行日の10日以上前にその旨をダンジョンゲート前に告知。
他の探索者に知らせておく必要があるみたいなんだけど……。
「もちろん掲示するのは管理局の仕事なんだけど……あなたたちは何か見たかしら?」
「いや、俺達は何も……」
その場にいた誰もそれを見た覚えはないらしく。
「というか桜花爛漫の連中。
この半年ほど10層、20層のゲート前で入れ代わり立ち代わりしながら通行料を徴収してるんですけど」
ダンジョン内で関所業務とか、小銭稼ぎとしては割に合わない仕事だと思うんだけど……。
「これまでは我慢して払ってたんですけどね?
さすがに毎回毎回一人につき5万も払ってたら稼ぎにならなくて」
想像してたより高かった!
ていうかこの『ゲート優先通行許可証』の発行職員の署名欄。
名前が『中務硝子』になってるんだけど……。
「カズラさん、俺の知ってる中務さんの字ってこんな丸っこい字じゃないんですけどどう思います?」
「……そうね。
少なくともカズ見たことのある、あの子の字じゃ無いわね。
あなたたち、こんなものの偽造までやってたの?」
「偽造!? いくらなんでもそんなヤベェことはしねぇよっ! ……です」
「つまりお前は管理局ぐるみで不正をしてると?
……で、その協力者はこれが見つかった時、中務さんに罪を押し付けようとしていたと?」
「そ、そもそも俺らぁ上から言われてやってたことで、そんなこと知らねぇつってんだろうが!」
まぁそりゃそうか。
ていうか、思ったよりもデカい話になってきたんだけど……まぁ俺の大事な人に迷惑を掛けるような連中は――
「チッ、役に立たねぇ三下だなぁ!
姐さん! こんな連中、誰も来ねぇうちにヤッちゃってくだせぇ!」
「どっちかっていうとお兄ちゃんの方が三下だよ……」
『権力者』に叩き潰してもらうんだけどな!
『ゲート前の占拠』だけでは少し弱かった捕縛理由。
……いや、勝手に鷹司の名前を出しただけでも十分に『処分』される理由にはなるんだけどさ。
そこに公文書の偽造というわかりやすい大義名分も見つかり、その場に居た桜花爛漫の連中を全員引っ立てることに。
「それじゃあここは任せました! 俺たちは先に行きますね!
カズラさんはそっちの人たちとそいつらの連行よろしくお願いしますね!!」
「へっ? えっ? ちょっ、お兄ちゃん!?!?」
カズラさんを犠牲に、その場から離れる俺と明石さん。
だってほら、他人をポータル転移させるわけもいかないし……9層から集団行動で帰ろうと思ったら早くて3日くらいかかっちゃうじゃん?
ダンジョンからの帰宅後、
「……というようなことがありまして」
「知らないうちに、まさかそのようなことに巻き込まれているとは。
それなりに真面目に勤めていた職場での、自分の嫌われっぷりに驚きを隠しきれません……」
すぐに詳細を中務さんに報告。
悲しそうな顔をする彼女を力いっぱい抱きしめ――
「柏木くん。その女はそんなことくらいで心を痛めるような玉ではないわ!
ほら、良くご覧なさい! すでに口元がニヤけているでしょう!」
「余計な口出しは止めなさい小娘っ!
ああ……柏木さん、私を癒やしてくださるのはあなただけです……だいちゅき……」
さすがにその日のうちでは時間的な辻妻が合わないので、翌日の夜に支部長さんに報告を上げてもらい。
カズラさんが帰還したあと本格的に桜花爛漫の本部・支部、そしてセンニチダンジョン管理局内の調査を開始。
ギルド員、職員ともに癒着や不正が発覚してしばらくバタバタとすることになるのだが――
「俺たちには関係の無い話だな」
「そうね。明日からは先送りになっていた10層以降の攻略に戻りましょう」
「カズにとってはものすごい関係のある話なんだけどね?
というかお兄ちゃんはカズのことを一人置き去りにしたことを忘れてるんじゃないかな? かな?」
* * *
管理職のとある職員――
「そ、その許可証を発行したのはあの女でしょう!?
どうして私が懲戒解雇されないといけないのよっ!!」
「逆に、あなたはどうしてあのように雑な偽造でごまかせると思ったんですか?
あそこには彼女の指紋すら付いてないんですよ?
署名の文字を筆跡鑑定にかけるまでもなく、監視カメラに桜花爛漫の人間と接触した映像が大量に全部残ってるわ、手渡しにでもすればいいのに通帳にあちらからの入金履歴まで残ってるわ」
「そんなの偶然にきまってるじゃない!
そ、そうよ! これも全部あいつが仕組んだことなのよ!!」
「……あなたに必要なのは筆跡鑑定ではなく精神鑑定のようですね」
桜花爛漫・大阪支部の幹部――
「チッ、バカどもが! 余計なことまでベラベラベラベラと喋りやがって!!」
「でも、さすがに鷹司に喧嘩を売ったままだとまずいですよ……」
「そっちは頭を下げるしか無いだろうが!!
あとのことは全部本部からの命令ってことで乗り切れるだけの証拠は用意しておいたが……そのへん大丈夫だろうな?」
「はい、それは滞り無く」
「ならとっとと謝罪会見だ! そのあとすぐ桜花爛漫と縁を切るぞ!!」
桜小路桜子――
プルルル……プルルル……
「……何よこんな時間に……も、もしかして葛と連絡が取れっ……違う?
そう……それじゃあいったい何の話……えっ? 大阪支部で不正? こちらからの命令で? 何の話なのよそれは……。
ギルド員がゲートの独占? 管理局職員を買収?
大阪に出向いて詳しい説明をしろとセンニチダンジョンの支部長がカンカンになってる?
状況がまったくわからないんだけど……というより、ギルド支部の管理は『総括部長』……退職して連絡が取れない? こっちには報告が来てないんだけどいつの話なのよそれは!?
鷹司家からも苦情が……って家名を勝手に使った?
そ、そんな怖いことするはずないでしょうが!?
それも大阪支部がやらかした!?
連中は頭がおかしい……謝罪会見でそれも本部からの命令だったと言ってる!?
鷹司家から慰謝料と損害賠償の話が出てる!?
待って! ちょっと待って! か、葛っ!! 誰か葛に連絡とってっ!!」




