第02話 爺と一緒にやってきた自称男爵は『あのお家』の分家筋らしい。
アヤカさんから、爺が『センニチダンジョンモール(ここ)』を訪れたと知らされてから3日。
家に来られるとか最初から論外だし? かと言って、外で会うのも……人前であろうと気にしないで、何かやらかしてしまいそうな奴の仲間だと思われでもしたら不愉快極まりなのでそれも却下。
結果、アヤカさんにお願いして、こちらの会議室を借り受けて面会することに。
「案内した職員の話では、本日こちらに集まっているのは二十人ほどみたいですね。
飲み物を出せ、茶菓子を出せと、好き勝手に騒いでいるとのことでした」
「なんかもう、本当にもう……。
お馬鹿な連中がお馬鹿なことをしでかしていてすいません!」
来るのは爺と正体不明の男爵だけだと思っていたのになんだその大人数!?
……いや、おそらくは前回――両親が亡くなった時に『おこぼれ』に預かれなかった連中が、慌てて集まってきたんだろうけれども!!
扉を開けるまでもなく、ハッキリと聞こえてくる部屋の中の大騒ぎ。
……何なんだ、こいつらは?
箕面のお猿さんでも、もう少しお上品だと思うんだけど?
俺を先頭に、ショウコさん、シズカさん、カズラさん、そしてアヤカさん。
まったく気は進まないけど、いつまでもここで立ってても仕方ないしねぇ?
ため息を一つ、会議室に足を踏み入れる。
そんな部屋の中にはアヤカさんの説明通り、カラオケ屋のパーティルームほどの広さの室内に二十人ほどの人間が居た。
なんとなく見覚えのある顔。
まったく知らない顔。
共通しているのは、どいつもこいつも下品な表情をしていること。
なにこの『親戚』って言葉を助走をつけて殴りたくなるような奴ら……。
そんな連中の中心。
真ん中の席で足を開き、どっかりと腰を据えるクソ爺。
その隣でこちら――おそらくシズカさんを見てニヤついている『三十代の男』がたぶん何某男爵なのだろう。
それにしても。
こいつは本当に貴族なのか?
今のところ鷹司家と六条家が俺の後ろ盾だって話は、関西では大っぴらになっていない。
でも。少なくともシズカさんの父親がどうなったかくらいの噂はこっちの社交界でも流れているはずなんだよ。
それなのにあの態度。
頭のネジが何本か外れている……いや、ただの無知なんだろうな。
そもそも今日はカズラもアヤカさんも顔を隠してるわけじゃないし。
そんな二人を見て、大貴族のお姫様だとわからない時点で『色々とお察し』な人間なんだけど。
そして『自称男爵様』以外の反応。
俺の後ろ続く女性全員のあまりの美貌に、会議室が一瞬で静まり返る。
間抜け顔で口を半開きにして固まっていた連中。
そんな中、最初に我に返ったのはクソ爺。
続いて、叔父らしき男が続いて口を開く。
「相変わらずお前は常識を知らん人間だな!?
引っ越したなら引っ越したで、どうして儂に連絡をしてこない!!」
「まったく、自分勝手なことばかりしやがって。
身内に心配をかけるとは一体何事」
「黙れ、クズ」
二人揃って意味のわからない言葉を並べ始めたので即座に遮る。
そんな俺の反応――答える必要すら感じない戯言に優しく返事をしてやったのに、爺と叔父は顔を真っ赤にして逆上!
聞くに耐えない言葉で罵ってくるがそれを何事もなかったかのようにスルー。
連中とは向かいの席に腰を下ろす。
これでも今日は、冷静に話を聞いてやるつもりだったんだよ?
でも、さすがに相手にあいてがアレ……話す気がないならどうしようもないんだよ。
はぁ……それにしても、明石のあのオッサンといい、クソ爺他の連中といい。
こっちの世界だと、ある程度以上歳を取った男って全員コレがデフォなのか?
いっそこのまま『とりあえず全員○ね! 解散!』で、終わらせたい衝動を必死に抑え込み、
「……で?」
その一文字に、
『それで? 何度もこんなところまで訪れて一体何の用だ?
返答いかんによってはそのままプレスされるアルミ缶くらいのサイズまで潰すぞゴミ』
という意味を込めて問いかける。
「チッ、相変わらず態度の悪いガキだな!」
チゲぇよ馬鹿。
俺だって普通の人間相手だったらこんな態度は取らねぇんだよ馬鹿。
もう一度『……で?』と言いそうになったところで。
「まぁまぁ。最初から喧嘩腰はよくありませんよ、お父さん。
久しぶりね、夕霧ちゃん。
あの女のせいで数えるほどしか会えなかったけれど……。
おばあちゃんのこと、覚えているかしら?」
いきなり爺の隣で喋りだす猫なで声の婆さん。
顔だけは見覚えがある――ようなないような。
本人が『おばあちゃん』と名乗っている以上、たぶんそうなのだろう。
……もちろん生物学的にそうだってことであって、身内だとは一切思ってないんだけどな。
ていうかさ。
あの婆、今さらっと『あの女』って言ったよな?
それ、もしかしなくても……うちのおかんのことだよな?
取りなしている風を装いながら、きっちり喧嘩を売ってくる。
ていうか、このままだと、延々と売り言葉に買い言葉。
夜が来ても、朝が来ても、春が来ても、夏が来ても一向に話が進む気がしないんだけど?
「はぁ」
なんかもう、今日はため息ばっかりな俺。
無言でショウコさんに視線を送る。
……もちろんアイシテルのサインとかじゃなくて『進行役お願いします』の合図である。
「ここからは夕霧さんに代わりまして。
私、センニチダンジョン職員の中務が話を進めさせていただきます」
「はぁ? なんだいきなり?
あんた、いったい何様だ?
どうしてそんな、おかしな髪の色をした女に儂らが指図されなきゃならん?」
……よし、殺そう。
椅子から立ち上がろうとした俺の腕をグッと引っ張ったのは隣りに座るカズラさんだった。
もっとも、彼女も俺と同じく『重度の』ショウコさん大好きっ娘。
今まで感じたことがないほどの殺気を放ってたりするんだけどね?
そんな俺達の、いつ始まるかわからない殺戮劇の気配など我関せずなショウコさん。
「それは、私が彼の婚約者であり、この場の進行を一任されているからです。
もしお気に召さないのであれば、そのままお引き取りください」
「何だこの生意気な年増女は! お前は口の利き方も知らんのか!?」
「承知したうえで、この話し方をしておりますが何か?
繰り返しますが、このまま意味のない奇声を発し続けるのであればここで解散とさせていただきますが?」
「……ふざけるなよ!? チッ、『穂根川』さん!
あの頭のおかしい女に、キッチリと『世間』ってものを教えてやってください!!」
「ごふっ!?」
なんだよその賭け事に負けて焼き土下座させられてそうな苗字は!?
「ははっ。世間知らずというのはどこにでもいるものですからな。
そこの女――中務、と言ったかな?
あんた、関西の貴族のことを少しくらいは知っているかね?」
「そうですね。
ある程度以上のご家柄でしたら存じておりますが……。
少なくとも、穂根川というお名前は記憶にありません」
「はぁ……まったく。これだから無知な女は。
そんなあなたでも『仁王院子爵家』のことくらいは知っているだろう?」
「ぶふっ!?」
「うん? どうした? 子爵家という家格にそれほど驚いたのかね?」
何やらご満悦な表情をしてるところ悪いけど。
別に驚いたわけじゃなくて、知ってる名前が出てきて思わず吹き出しただけなんだ。
ていうか、もしかしてこいつって仁王院家の分家……いや、ちょっと待てよ。
穂根川。
ホネガワ。
なんだろう?
仁王院よりも相応しい、繋がりのある家の名前を俺は知って――
「ははっ、それなら話は早いですね。
よく覚えておきなさい。
穂根川家は、仁王院家と血縁関係になる豪俵男爵家の分家だ」
うん、そんな気はしてた。




