第02話 まぁこれだけ目立てば擦り寄ってくるよな……。
繰り返しになるが、10層に続いて20層でも『最年少』での階層主制覇を成し遂げた俺とシズカさん。
本来の俺の予定では『目立たず・騒がれず』。
陰の者として静かにのんびり、それでいてお金に困らないくらいの生活をする――いや、結構早い段階で『俺強えぇ!!』がしたいと思っちゃってたな。
もちろん、その結果――ショウコさん、シズカさんのような美女美少女。
さらにはカズラさんやアヤカさんなんていう、普通なら話しかけることすら憚られるようなやんごとないお姫様とも知り合えたんだから文句は無いんだけどな?
でもほら、学校でやった表彰式。
アレって関西ローカルではあるけど、テレビのニュースで流れてたみたいでさ。
まぁ……あれだ、想像以上に名前が出回っているというか、視線が集まったというか。
シズカさんに関しては、アレでソレな父親が六条・鷹司合同捜索隊に捕縛――コホン、保護されてるし?
今はどこか『遠いところで』元気にやってるだろうから、二度と余計な騒ぎを起こすことは無いんだけど。
俺の方は……ほら、な?
金の匂いを嗅ぎつけると、どこからともなく湧いてくるコバエみたいな親戚連中が大勢いるじゃん?
もちろん、俺だってそこまで温厚な人間でも聖人君子でもないし?
財産どころか、両親との想い出がつまった家まで戦後の火事場泥棒のように盗み取られて、黙って泣き寝入りするつもりは毛頭なかったんだよ。
だからショウコさんに相談してみたんだけど、その答えは――
「……うちの両親が亡くなって、その財産をクソ爺が全部持っていったのは問題のある行為ではないと?」
「はい。夕霧さんのお父様と、その配偶者であられるお母様が亡くなられた時点で、第一位の相続権はお父様の実家に移ります。
もちろん財産を相続いたしますと、ご家族である夕霧さんに対する養育義務も発生します」
「あんな連中に養われるくらいならどこぞで野垂れ死んだほうがマシですけどね?」
というか、もしもあの日あの時ダンジョンモールの受付でショウコさんと出会わなかったら一体どうなってたことか。
「……心中お察しします。
ですが事故に遭われた時点で夕霧さんはすでに成人されていましたので。
衣・食・住、最低限の手配を行ったのであれば。
その後の生活にまでは関与しなくても、法的には問題になりません」
「療養中の病院を無理やり退院させて、その日の食費すら渡さずボロアパートに押し込んだのが最低限の手配ねぇ……」
「えっと、その点に関しましてですが。
夕霧さんは、あちらに『困っている』と一言でも相談されたわけではありませんよね?」
フッ、もちろんあんな連中に(ry
「夕霧さん。
それは怪我をして、病院に診断書を貰いに行ったあげく自分で『痛いところはありません』と宣言しているような行為になってしまいます」
……なるほど。確かに、『向こうから何も言ってこないのだから問題は発生していないと思ってた』で終わる話だな。
てことで。
俺のいた日本とは違い、こっちの世界は身分的な上下関係に厳しい。
その結果、朱子学的な『孝』の価値観が、社会の隅々まで根付いている。
あちらなら大問題になって裁判沙汰になるようなことでも、こっちでは(心情的には問題があるとしても)『少し冷たい身内』程度の扱いで終わってしまうのだ。
そのことにしたって、うちのおとんとあの爺が『絶縁状態(親を敬っていなかった)』だったことを加味すれば、『まぁそれも仕方がない結果だよね?』って話になっちゃうという。
もちろん納得のできる話ではないが……それがこの世界の常識だとしたら我慢するしかないんだろうなぁ。
――というような話をしたのが数ヶ月前。
そう、あの時はショウコさんの、「今すぐに潰しておきますか?」という魅惑的な提案に乗ることもなく我慢したんだよ。
関わるだけ時間の無駄、人生の浪費だと判断して放っておいてやろうと、ある意味『慈悲の心』を持ったんだよ。
それなのに、
「柏木さん、ダンジョンモールの窓口にあなたの祖父だと名乗る人間が来たようでして。ご確認なのですが、岸田という名の初老の人間をご存知でしょうか?」
申し訳なさそうな顔でそう尋ねてきたのはアヤカさん。
……あのクソ爺、俺と連絡の取りようが無いから管理局から辿ってきたのか?
「知っているかどうかと聞かれましたら……まぁ知ってはいますね」
「……なるほど。そのお顔からして、あまり好ましい相手ではなさそうですね」
どうやら受付け、対応した職員さんに、
『孫の収入がどれくらいあるのか、これまでこちらで取引された金額の確認がしたい』
などと、身分証も提示せずに意味のわからないことを大声でのたまっていたらしい。
「もちろんそのような馬鹿げた要求が通るはずもありませんので、その場は『素直にお引き取り頂い(警備員につまみ出され)た』のですが」
少し前の『桜花爛漫』に関わった人間が居た頃だったら普通に教えてたような……いや、そもそも俺、管理局を通した取り引きとか1円たりともしてないから教えようも無いんだけどさ。
「そのあと何某という、聞いたこともない地方の男爵を伴って再び訪れまして」
今度は、
『これからは儂があいつの後見をすることになる。
詳しい話は孫とするから今すぐに呼び出せ!』
と、俺に直接合わせろと言い出したみたいで。
「もちろんそのような馬鹿げた話も通らないと、職員は拒否したのですが……なにぶん、今回は貴族相手でしたので。
確認後、折り返しでこちらから連絡を入れるということでお引き取り頂いたのですが」
「なんと言いますか、色々とご迷惑をおかけして申し訳ないです……」
「いえいえ、大切な婚約者であるあなたのためならこれくらいのことどれほどでも。
……それで、いかがいたしましょう? ご面倒ならこちらで処置しておきますが」
「そうですね、是非ともそれで――と言いたいところですけど、万がいち、億がいちにもまともな話をしたいのかもしれませんし」
もしかしてもしかすると謝罪をしたいとかかもしれないし?
もちろん、『収入を教えろ』『後見してやる』っていうその発言から絶対にそんな可能性はないんだけどさ。
「そちらで会議室ってお借りすることはできますでしょうか?
あと、アヤカさんにも参加していただきたいんですけど」




