第21話 昇級と逃亡 ~だから絶対俺はのんびり過ごしたいんだ!
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その男は薄グレーの外套に身を包みフードを目深に被ってうつむき加減で歩いているため表情は読み取れない。
しかし周囲を窺うように左右を気にする様子は見て取れる為一見怪しい、何か良からぬことをたくらんでいる風にも見える。
男は時折街角へ来る度に手元から出した地図で位置を確認しながら何かを探すように視線を送り再び歩き出しては今度は角を曲がり時に立ち止まっては後方を気にしていた。
やはりどうやっても怪しい者にしか見えないが通りを歩く他の者は特に気にする様子も無くすれ違っているのはこの街に冒険者が多く、そのなりは奇抜で個性的な者や容姿や姿を隠すためだけではない旅のアイテムとしてフード付きの外套が当たり前だからだ。
暫く角を何度か折れやがて大通りと並行して一本裏手の細い路地で男は立ち止まり場所を確認するとさらに周囲を念を入れ視線を送り他に人がいないのを確認すると目の前にある小さいが重厚で簡単に破れそうにない木戸を「コンコン、コンコン」と叩いて暫し待つ。
すると音に反応した中の者が臆病窓※1)から男を確認すると無言で木戸を開け中へ誘導した。
男は素早く木戸をくぐり入ると後方では木戸が閉じられた音と共にかんぬきがかけられる音がし男を中へ誘導した者は黙って先導し付いてくるように促して目の前にある建物の裏口へ消えて行った。
男は迷うことなく付き従い家の戸口から中へ入ると自ら後ろ手に戸を閉め鍵を「ガチャリ」と閉めて初めてホッとした。
「トーヤ君お疲れさま、もう安心して、ここなら誰の目も気にならずに過ごせるわ」
先ほど木戸から誘導してきたのはニーナであった。
「ふーっ、なんか気疲れした...まるで魔物の森を歩くときみたいに緊張して周囲が俺をみているんじゃないかってすごくビクビクしちゃいましたよ。」
と外套を脱いで現れた表情はいまだ少年の面影も残しながら大人にはなり切っていない様子も見て取れる、しかしその細い体躯の四肢は引き締まり研さんを積んでいることはうかがえる様子の知矢だった。
ニーナに促され次の間を通り過ぎた奥にある広い洋間にあるソファーへ腰を下ろした知矢はふっーっと息を吐きやっとひとこごちついたように気を抜いて休むのだった。
直ぐにニーナが紅茶をいれて供すると正面のソファーへ自分も腰かけ共に紅茶を楽しむのであった。
今朝ギルドで報酬の再認識をし驚愕の余り思考停止していた知矢が復活した後、今後の事が話われていた。
「とにかくお前はしばらく宿に籠るかここ、ギルドにある宿直部屋にでも寝泊まりして外を歩くな。むろん都市の外部へ出ようなんてするなよ、どんな奴が近寄ってくるかわかったもんじゃねえ」
とのんびり老後を楽しむはずが半ば身柄拘束の憂き目にあいそうな状況だった。
「で、さっきも言った通り帝国の役人が現地調査に入り結果次第でおそらくは仮の砦の外側に本格的な採掘場を含専用砦の建設に話が進むだろう。
そこまで行ったらあとはもう役人の手配で帝国政府が動く。俺たち冒険者はそれまで強制依頼を発動して現地を確保し怪しい奴や魔物から工事する人間を守らにゃならん」
更に忙しくなるなーと言いながらガラムも気持ちが高揚している。
片や知矢は落ち着きを取り戻した後は今度は脱力し半分ぼ-っとしながら話を聞いていたが頭の中では「こんなはずでは....こんなはずでは....俺ののんびり老後はどこ行った......」と思考がリフレインして考えが進まなかった。
そんな聞いてるかどうかわからない状況でもガラムの話はどんどん進み手続きや何やらで書類を見せられサインを繰り返す時間がしばらく続いた。
「さて最後にお前の依頼達成の件だが、先に言った通り特別報酬は来月以降、埋蔵量推定調査の結果、帝都の決裁が下りてからだがもう一つ先に言い渡す事が有る」
未だ何か報酬があるのかよ、もういいよと思った知矢にガインは
「トーヤ、お前のギルドランクを”A”に認定する」とニヤニヤ言い放ったが
「えええっそれはおかしいでしょう、俺、いや私はFになったばかりの新人冒険者ですよ、今回の依頼が初依頼でギルド貢献ポイントだって溜まってないし!」と再び驚愕して訴えた。
「それだ、そのギルド貢献ポイント制のおかげだ」とのたまった。
ギルド貢献ポイント:
ランクFから最高ランクのSに至るまでには依頼達成や納入販売物品(希少な魔物の素材や薬草など)、緊急依頼や指名依頼、強制依頼などをこなしこつこつ溜めていき1ランクづつ昇級していくものだ。
それ以外にもギルドへの多大なる貢献をもってランクアップする事が有るがこれは長年の功績と貢献により”ランクA”が”S”へ昇級する場合によく用いられる制度である。
実はあともう一つ昇級方法があるがそれはギルド長による特別推薦枠での昇級だが詳細は割愛する。
「だからまだ全然ポイントも溜まってないし貢献もしてないんですよ、わ.私は」とあきれ顔で述べるが
「トーヤ、お前もう無理して繕わなくっていいぞ、お前が”私”とか言いながら丁寧にしゃべってんの無理がありすぎて逆に気持ち悪いわ」と言い出した。
知矢は日本にいる頃仕事中は”わたくし”や”わたし”と言い言葉使いもそれは丁寧にしゃべるのが当たり前であったがいざプライベートでは何故か”俺”が標準であった。
若い頃のとっぽいあんちゃんならならともかく年齢を重ねた一見紳士にも見えて当然の老人がである。
妻や子にも注意されていたし孫が出来て”孫の教育に良くない”とも言われていたがやはりこれが
”地”なのであろう。
「じゃあ遠慮なく! でなんでそんな特別待遇でランクアップさせるんだ、ますますやりにくくなるじゃねえか!」ともう構わずしゃべる事にした。
おっ、地が出てきたなと喜ぶガインであったが
「別にとお前が特別ってわけじゃないぞ、普通にポイント加算、貢献度算定をしていくと当然そうなる、それ程の偉業だって事だ」しれっと言いのけたのであった。
「トーヤさん、ギルド長の仰ることは本当ですよ。成果としてこの依頼内容は最高位の物ですし設定されていたポイントもその通りです。」
とニーナも肯定しガインの話をサポートした。
「もともとギルドランクのポイント制は基本ルールとして存在しますがそれに伴うランクアップは純粋な冒険者の力、実力、強さと言う訳では無いのです。」
ギルの運営は元々かの王国との戦争が続き食料である魔物をいかに多く手に入れられるか、そしてさらに素材としての魔物を得、武器や魔道具へ効率的に加工できるかを目的にスタートしている。
当初各々が自由に狩りや採掘、収集を行っていたが危険が伴い効率も悪かった為思うように成果が上がらなかった。
そんな時当時戦乱で親を失い住居どころか食べるのにも困っていた子供たちを救い仕事を与え将来自立していけるよう技術と知識を与えていた言わばボランティア的な集団が存在していた。
ただその集団でさえ自分たちの生活を維持するのがやっとの状態では満足な指導や教育、食事の世話までは難しくなっていた。
そんな子供たちを救う姿と困窮を聞いたさる小国の王族が「我が荘園を開放するからそこを拠点に領内を開墾してはどうか」と少なくない金銭の援助も申し出た。
その荘園に集められた子供たちは大人の手伝いをしながら安全に生活し時に段々大人と狩りや採取に出かけ技術を磨いて成長し又今度は自分たちが小さい子供の面倒を見ながら学んできたことを伝え見せていく過程で年齢、経験によって立場がおのずと出来上がり集団が大きくなるにつれて統制を持った組織作りへと発展していったのが冒険者ギルドの始まりであった。
その積み上げてきた実績と歴史の中でなるべく死者を出したくない順を追って段階的な教育をしていきたいと考えた仕組みが”ポイント制”であり”ランク”であった。
よってポイントが如何にあったとしても実績や人柄、その実力等を満たさない者には昇級をさせないというルールも存在し逆にポイントは豊富に得たが実績も無くランクも低い者でも力を認めれば昇給させることも通常ルールとして存在していた。
もっともいきなりFランクの者がAランクという例は過去には存在しないがルール上は全く問題なかったのである。
「そのルールや経緯は理解したが結局FからいきなりAってのは変わらないだろ、さらに余計な注目を浴びて嫉妬や妬みの渦に巻き込まれるなんて御免だぜ」
とあくまでも拒否の姿勢の知矢であるがギルドとしても有能な冒険者の出現は願っても無い事だし活性化や他の者の奮起にもつながるメリットがありAランクの冒険者がその都市に存在すると言うだけでも市民には嬉しく頼もしい事なのを知矢は理解できていないからである。
「嫉妬や妬み何て気にすることはない、それにお前は先に十分剣技の実力を発揮して見せつけてたろ、あれだけでも十分かもしれんがさらに10人の襲撃者を傷を負うことなく撃退し拘束しかも相手にも死者が一人も出てないと来たら否が応でもお前の実力を理解して真っ向から絡んでくる奴なんかいないさ」
と安心して昇級しろとガインはいい更に
「トーヤさん、ギルド長の仰る通りですがさらにAランク証保持者は数々の特権があるのを先日説明しましたよね、それを得るだけでも十分今後のトーヤさんの生活は自由でのんびりとした物になる一助ではありませんか?」とニーナは微笑むのであった。
知矢はしばし考えたがニーナの言うとおりであれば資金と立ち位置がしっかりすれば必然的に生活基盤や社会的な立場も確立されその後のんびりとした生活が送れるような気がしてきたのであった。
実際はガインとニーナに騙されたのかもしれないが、この時ニーナは本心から知矢を評価し今後のためにと思って説得した訳だが。
「...わかった、じゃあ遠慮なくランクAの証を得るとしよう」といささか流された感もあったがこの時は知矢も納得して受け入れたのであった。
それを後悔するのはまたのちの話である。
そんな各種手続きや何かで過ごした知矢たちであったが、コンコントーヤさんにお客様です。
とギルド職員の女性が客を案内してきた。
「トーヤ、大変なことになったよ!」宿の女将ミンダである。
「どうしました?わざわざ来てくれたって事は火事でも?」
「いやだよ、火事なんて、そんなんじゃないよトーヤあんたを探し求めて内の宿に商人や貴族の使いが押し寄せてるんだよ!」
今朝がたニーナの案で早朝宿を出てギルドに籠っていた知矢だったが一攫千金や知己を得たいもの達もギルドに知矢の所在を確かめに押し掛けていたが当然冒険者を守る立場の職員は知らぬ存ぜぬで通していたためその所在を確かめるべく、そして何としてもつながりを持ちたい者達が宿を調べ上げ押しかけたのである。
宿の裏口から出てきたミンダは当分宿へは戻るなと伝えに来たのであった。
そんな事情で人を避け静かに避難するべくギルドの所有する物件の一つである元々商会があった空き家を逗留先に用意してもらい先に受け入れ態勢を作る為にニーナが先行しその後知矢が人目を避けて避難してきたと言う訳である。
※1)臆病窓:扉にあけられた開閉式の除き窓、外を確認するためのもの。
お伝えします。
明日の夜、仕事を終えたその足でツーリングへ出発いたします。
次回の更新は来週になりかもしれませんので、もし!更新を楽しみにしてくれている方がいましたら申し訳ございませんがしばしお待ち下さい。
どこに行くかは戻ったあとの更新にて!
そでれでは暫し失礼いたします。




