死闘 2
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計画は上手く行った。いや、行きすぎたんだ。
3人の内、2人が負傷して戦闘不能。残ったのは、車の後ろからバイクで付いてきたゴールドだけ。
一方の味方は、私を含め無傷の戦闘員が8人。一対多で変身したゴールドを囲んでいる。
新しいヒーローが現れるのに、これ以上はないくらい舞台が整った。
だから、私は空から大剣が降ってきて、私とゴールドの間に突き立ったのを、特に驚きもせず受け入れていた。
「だ、誰だ!」
ゴールドが誰何の声を上げて、視線を上に向けた。
私もゆっくりとそれに合わせる。
倉庫の屋根の上にいたのは、銀色のスーツを身につけた新たなヒーローだった。
太陽の光を照り返し、眩しい程の存在感を放っている。あれならば影に飲み込まれることもないだろう。
なかなか見栄えがいいじゃないか。そんな事を思う。
彼が飛んだ。
空中で一回転して、綺麗に着地。ゴールドに背を向けて、引き抜いた大剣の切っ先で私を狙い、構えを取った。
「おい、あんた」
ゴールドがシルバーの肩を掴む。しかし、彼はパシリとその手をはたき落とし、剣を斜め後ろへと引く。
彼にとってゴールドの存在など、とりあえずどうでもいいのだろう。真っ先に排除しなければならないのは過去を知っている私達だ。人間側のヒーローが敵に育てられていたなど、醜聞でしかない。
臨戦態勢を取った新たなる敵、シルバーを見て、部下の1人が私の前に進み出た。
「ここは、俺が」
ダンゴロンが私の前に進み出た。
筋肉質な巨体に、分厚く硬い皮が鎧のように全身を覆っている怪人。見た目の通り、本来であれば防御重視の戦闘スタイルの為、このように前に出ることは少ない。
止めようかとも思ったが、彼の影が怪しく揺らめいたのを見て考え直した。
そこに居るのはムカディアだ。長身多足に鋭い毒牙を持つ虫の怪人だ。影に隠れられる能力を持ち、死角となる地面から襲いかかる暗殺者。
何にせよ、シルバーの実力は測らなければならない。私は後ろに下がり、先陣を二人に任せた。
ガンッ、ガンッ。
ダンゴロンが拳を打ち鳴らしながら、ゆっくりと左右に揺れて相手を待つ。
ムカディアが潜んでいる僅かに膨らんだ影を、定めないよう注意を払っている。そんな配慮ができるようになったのかと、私は場違いな感想を抱いていた。
「ごろっ! ごろっ! ごろっ! さあ来るがいい、アルミホイル野郎」
シルバーが挑発に乗った。
切っ先を下げて走ってくる。ダンゴロンも構えを取った。だが、シルバーは明らかに両者の間合いの外で跳び上がった。
高い!?
大剣を頭上で振りかぶり身長の何倍も飛び上がって、空中で制止。
太陽を背にしてシルバーの背中のギミックが動き出した。翼のように陽炎が生まれ――
そして、噴射。
白銀が地面へと突っ込んだ。
それは落下などと言う生やさしいものではなかった。激突。突き刺さるような勢いで墜ちてきたシルバーは、一本の線にしか見えなかった。
シルバーが再び制止したとき、すでに大剣の先はダンゴロンの影をも突き破っていた。
……強い。
決するのにかかった時間はほんの一瞬。
ハクトと訓練をしていた時でもこんな戦い方を見たことがない。戦闘というのは体が覚えている癖がつい出てしまうもの。その癖が一切見えなかった。
(やはり、意識ごと乗っ取られている、か)
誰も動くことができずにいた。
戦場が止まった。
いや、シルバーが真っ二つに割られ、青い炎を噴いているダンゴロンの体を掴み、背後へと投げ上げた。
直後に、部下二人の亡骸は灰となる。
私たちは、死ねば青い炎を上げ灰に変わる。地面から立ち上る灰と、降り注がれる灰で、銀色の人影が霞に消えた。
いったい何をして……る……。
「ダメだ、ホーキス! 避けろ!」
風を切る音。
ホーキスは、相手の頭上という最も優位な位置から襲いかかろうとしていた。しかし、自慢の鋭爪は、空を切り裂き、地面を穿つ硬質な音を残しただけだった。
灰を巻き上げ姿を隠したのは、ホーキスの爪の補足から逃れるため。生物に置いて最大の死角と言われる頭上でさえ、シルバーは対応して見せるらしい。
ここから見えたのは、灰をまき散らす鷹の翼と、その中で閃く剣の色。
しばらくして、灰の中で青い炎が上がった。
ホーキスが再び姿を見せる事はない。
二重三重に張られた罠は、部下の命ごと全て破られたのだった。
「強くなれたじゃないか」
自然とそんな声が漏れた。
シルバーの戦闘力は、恐らく、怒りで動きが研ぎ澄まされた時のゴールドと同等。
強く感じたのは、私自身の生命の危機と、そして、これなら上位ランクの怪人達にも簡単にはやられないだろうという、不思議な安堵感と。
良かったな、ハクト。
君は強くなれた。
では、次は私か。
八本の足を八方へ大きく広げ、つま先を少しだけ上げる。周りに控えていた部下達が慌てて場所を空けた。
長い両腕を前へと突き出し、うねらせる。
誘うように、見下すように、挑発するように。
私の戦闘美学。
「やるじゃないか、ニューフェイス。ならば私が直々に相手をしてあげよう。さあ、来なよ」
次の獲物を定めたシルバーは腰を少し落とした後、地面を蹴り飛ばしこちらへ突っ込んできた。
速い。だが、先ほど見せた相手の間合いを考えれば、下がることは出来ない。距離が開いて得をするのはリーチの長い大剣の方だ。
まずは右の腕を伸ばす。
その腕を切り飛ばそうと彼が大剣を振りかざした。
掛かった!
強いとはいえ、相手はまだ生まれたばかりのヒーロー。私のような軟体生物への対応など知らないのだろう。
伸ばした腕の付け根を外へと振る。骨のない腕は付け根に比べて先が大きく動く。釣られて振り下ろされる大剣の軌道上に私の腕は、ない。
空振り。その隙を突いて、彼の大剣を持った左腕を絡め取り、慌てて離そうと動く彼の右腕に、左腕を巻き付ける。
体がぶつかる直接距離。
この距離ならば大剣も振れまい。単純な力なら体の大きなこちらに分があると踏んでの策だったが……甘かった。
まるで小型の車を相手にしているかのような力で私の体が押し込まれる。ずるずると滑る体を止めることが出来たのは、地面にくっつけた吸盤を何個もちぎれさせ、20メートル程も後ろに下がってからだった。
相手の足に私の足を絡めて、なんとか彼の自由を奪う。
彼の体が輝きを帯びて、全身に赤い線が浮かび上がる。押し込む力が、更に増した。
しかし、こちらもそうそうやられるわけにはいかない。全力で踏みとどまり、重心バランスを崩すように、相手の足関節に足を絡める。
何とかして、優位な状態を作らなければ――
「……に、げろ」
幻聴が聞こえた。




