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LEMURIA 混沌のレムリア  作者: アマダイ
15/25

第十五柱 オパール・フラッシュ

旅が軌道に乗り始めたかに思えたイブキだったが、村での彼女の様子を見たディオルコは、妙なことを企てる。


―――もはやこの客には、料理以外のもてなしなど必要ない。

店主は商売用の笑顔をすっかり捨て、隣で煙草を売っていた弟(恐らく)を担ぎ出した。やっと調理から解放されたのは、仕入れたその日の材料がなくなってしまってからだった。


「おごちそーさま!」

青いキャップに白い顔をした少女の声が耳に届く…も、「ありがとう」、とも「まいどあり」、とも言わずに店主は備え付けの、今しがたまで彼女達が使っていた簡素なテーブルセットに倒れこみ、その後姿を見送った。援護に借り出された弟は嵐のような二人を、開いた口も塞がらないままに送り出し、片付けを遮断された手の瓶からは何かのソースがぽたぽたと垂れていた。


「…あのな、好きなだけ食っていいとは言ったけど、少しは遠慮しろよ。」

並んで歩きながら長髪の青年が少々引き気味に少女を(たしな)めた。遠くなった背後の店から、おいしっかりしろ、二人ともなんて有様だ…、などと聞こえた。

「え。だってディオルコ、これでも私抑えた方だよ。」

―――後半は見てるこっちが気持ち悪くなりそうだった。ディオルコは彼女が食べた物の量を思い浮かべ、目でイブキの体内を探した。

「……お前、胃が四つあるんじゃねえの。」

「…?そうかな?」

五年ぶりの外の世界に思わず胸を躍らせているイブキは、彼に遠回しに失礼なことを言われていることに気が付いていない。頭を抱えるディオルコの横でその顔を覗きこむ。

「イブキ、お前さ…考えるだけでも恐ろしいことだが、孤児院でもその量食ってたんじゃ…」

「まさか!みんなの分がなくなっちゃう!私だっていつもはセーブできるよ!」

「…そうだよな。普段からそんな様子じゃ、バレないもんもバレちまうからな」

「そ、そう!今日はちょっとここ数日色々あったから…久しぶりの大きな村だし!たまたまね!食欲が止まらなくて」

つい言い訳のように口をついて出てくる言葉とは裏腹に、こっそり食糧庫に盗みに入ったり、保存のきく食糧を他人から分けてもらったりなど、なんとかより多くの食べ物を屋上で(むさぼ)ろうとしていた自分を思い出した。とても卑しい自分を見るようで、この性分はある種イブキのコンプレックスとなっている。

でも…体が欲するものは、どうしようもないじゃん!

空腹に耐え、食べ物の味を噛みしめた瞬間―――それがこの上ない至福なのだ。


ディオルコは少し黙っていた。彼女の食事風景はなんとも幸せそうだった、それがこちらまで伝わってきた。彼女に心行くまま食べるように何度となく勧めたのは彼自身であるし、それを全くの無駄だとは思っていない。…が、しかし、甘く見すぎていた。さすがに毎日コレでは出費がバカにならない。とある伝手(つて)から収入を得ていた彼は確かに裕福な旅人ではあるが、その財は非常の時に使われるべきだ。

せめて量を保つなら外食を諦め自炊に頼るか、あるいは…これを言うのは少し(はばか)られるが―――

「お前、太るぞ。」

「!!!!!!!」



―――ほら、目なんか昼メシ前よりうっすら肉に埋もれて。


そのとどめの一言でイブキはしっかり萎びてしまった。正確には…最後の一言は伝える必要はなかったのだが。ショックを受けたイブキをディオルコが面白がるあまり、つい行き過ぎてしまった。

「埋もれてないよ…見えてるよぅ…」

「すまん、最後のは言いすぎた。俺の、気のせいだ…ごほん。」

「気休めはよしてよね!!いいもん!一食でそんなに変化があるなら、戻るのもすぐだもん!」

そう言って顔を上げたイブキは何かに気が付いた。

「…あ」

イブキの視線を追ってディオルコも商店の一つに目をやる。この店だけ他と違い戸建てだ。

「どうした?」

「―――飴だぁっ♡」

イブキは店に走り寄った。

「あぁ!?お前ついたった今まで…!」

「世の中、気分のきりかえも大事でしょー!?飴の一個や二個、大して変わらないって!」


ディオルコはイブキの言葉に首を傾げた。

「こーんなに種類があるんだよ?ここで買わないと勿体ないよっ」

大小様々、棒付きのもの、包み紙のもの、鼈甲(べっこう)細工のような飴が店の中を彩っている。店内に客は誰もいない。

「…『飴の一個や二個』?」

「だって孤児院では毎週配給されたんだよ。あんまり食べると体に悪いからって…その一個を大事に舐めるの。今週はそれを貰えてないんだから、一個くらい食べても大丈夫だよね?」

イブキは少し心配そうにディオルコに聞いたが、別にディオルコは飴のエネルギー量を気にしているわけではない。

「…まあ、構わないが。」

事実、イブキは散々な遭っているし、慰めになるならさっきの一言のお詫びもかねて買い与えてもいいとディオルコは思っていた。

「その前に、見てみろ―――…」

ディオルコは先に立ち飴屋の扉を引いて中に入る。

値踏みするようにカウンターの店員がいらっしゃいませ、と言った。

イブキが真意を問いかねてついて行くと思わぬ事実が目に飛び込んできた。

「…えっ?!」


飴細工は見事だった。美しかったが、一般庶民はとても手が出せないような値段で売られていた。

「これっ―――そんな…」

ディオルコはなんの特徴もない、店で一番小さな飴の前で立ち止まり、手に取った。彼の小指の先ほどしかない。

「これ一つで、羊銀貨一枚だ。名前の通り、羊が一匹買える。」

イブキは絶句した。

「……」

「孤児院では、なんだって?」

彼は嫌味でもなんでもなく、もう一度確かめようとイブキに問い直したが、イブキは逃げるように飴屋を後にした。

「…イブキ?」

ディオルコがゆっくりと追ってきた。

「大丈夫か?」

「ちょっと、びっくりしちゃって…!なんであんなに高価なの?!」

何となく、青年の顔をまともに見られない。

「甘味は一部の地域でしか手に入らないんだ。それに飴は必需品じゃない、嗜好品だ。砂漠に閉ざされたこういった地域では価値が吊り上がる。…」

「じゃあ…私達が与えられていた飴は…!?あれだって高いはずじゃない、全員に配るなんてこと…!」

子供のうちから飼われることに慣れ、自由に憧れながらも一日を与えられ過ごす、その日々の愚かさを今、知った。

自立を奪う。飴はその象徴のように思えた。


「…なんでだろうな」

理由や成り行きなど、今のディオルコには知る由もない。

「私、なんにも知らない…。」

「イブキ、あんまりショック受けんなって。JELVA(イェルバ)の常識と、世界(そと)の常識は同じじゃない。」

彼はひょいと片方の口角を上げてみせた。

「もしかしたら、飴ですらなかったりしてな。」

「どういうことよ」

「『名前』なんて曖昧なモノさ。同じ『飴』という名称で一括りにされていても、同じ環境、同じ成分で寸分(たが)わぬ同じ物なんて、この世には存在しない。逆も然り…中身は変わらなくても、『名前』が違えばそれはもう別物だ。…だがそれらはあくまで価値の話だ。」

「…またわけわかんない話する…」

イブキは拗ねて不細工な顔をした。

「一般庶民『イブキ・ダグー』と貴族の娘『イブキ・ビ・エラ』ではお前の価値も変わるのさ、例え中身が同じでもな。…ほらよ。」

差し出されたディオルコの手から、何枚かの銅貨がこぼれた。

「なにこれ」

「そんなお前さんに、勉強代だぜ。恐らく必要な額だ。旅をするのに必要なものもあるだろうし、一人で上手に買い物してこい、…下着とかも要るだろ。」

「…変な気きかせるんだから…」

「ん?…俺はその辺ぐるっと周ってるから、寄り道せずに済ませるんだな。じゃっ。」

そう言って妙にあっさりと、ディオルコは雑踏に姿を消した。


…ここまで共に過ごして、イブキに対し彼がどうも少し過保護な傾向にあるのは知っている。呼べば駆けつけるくらいの距離にはいるのだろう。

イブキはしばらくあたりをうろついてみた。本当に大抵の物は売っている。確かに衣類を買うべきだろう。彼の言う通り、この寒暖差の激しい気候には足りない装備がいくつかある。…だがその前に。

「すみません、このあたりに武器を扱っているお店はありませんか?」



イブキと別れてさっさと買い出しを終え、しばらく通りを眺めていたディオルコは、やがて雑踏を避け家屋の脇の、薄暗い日陰に入り休んでいた。

「…ふう」

やはり、暑い。

すっかり体調が復活したのは若さと体力の成せる業だが、体質は一朝一夕で変わるものではない。

空を仰ぐと吊り下げられた沢山の洗濯物の間に、青空が見えた。晴天だ。

彼はそのまま誰にともなく聞いた。

「おい、ここにはいないのか。」

こんなに大きな村なのに。

ディオルコのぼやきは虚空へ消えた。

ふと目線を戻すと、イブキが通りを変えるのが見えた。

…意味もなく金を渡して放置すると思うかね。

ため息の後、購入品を持ち直し、ディオルコは束の間の休息を終わらせた。



「鶏銅貨でくれるなら20枚になるよ。売るのかい?」

「とんでもない!」

武器商人の申し出を、イブキは即、断った。

通りから少し外れた脇に銃を扱う店がある、と通行人に教えてもらい早速足を向けたはいいが、トギニの銃は粗悪品だった。予想は出来たことだが、やはり先に他の店を少し回り、せめて少しでも相場を把握しておくべきだったのだろう―――…多少後悔もするが、今イブキが食料品店の次に興味があるのはこの店だった。ディオルコがいればなんか阻止されそうだし。…今、服なんてなんでもいいし。

それにしても護身具を飴一つにも満たない値段で売るなどと命知らずなことは出来ない。

最も、イブキは武器を売りに来たわけではないが。


「エルディーダの下級保安官、少し前までのご愛用の量産品だな。護身用で殺傷能力は低い。どこで手に入れたィ?」

…元は保安官の所有物か。サイレンサーはトギニが後から足したものだろう。

「…。貰った。」

「そうかい。何のために?ずいぶん物騒なモノ貰うんだな。」

「そんなの、だから護身用だよ。」

武器商人は目を細めてイブキに焦点を合わせた。

「アルビノって知ってる?私、白子の子供だよ。」

「…そうだな、一人でうろつくのは勧めねえな。」

商人は育ちの悪そうな、笑みを浮かべた。

イブキは少しも頬を緩めない。警戒心を強めた。

「『護衛』なら、そのへん…近くにいるよ。」

イブキはディオルコを『護衛』呼ばわりした。

「ねえおじさん、弾は売ってますか?」

「25口径…、っと。」

商人が店の箱を手あたり次第開けて弾を探し始めた。


小さな安物の拳銃。暗殺部隊の『仕事道具』としてはあまりにもお粗末な…。

あの男は一度、やはりこの道を捨てようとし、そしてやはり必要に駆られ、結局この銃を奪う形になってしまったのではないか。トギニへの、そんな後味の悪い憶測を掃き捨てた。

はっきり言って、この拳銃は人を殺めるのにはまるで適していない。余程上手くやらねば威力が小さすぎる。

にもかかわらずあれだけの精度で…トギニの撃った弾はイブキの体を狂いなく貫通した。今思えば偶然ではなかったのだ。反動による影響を受けない体と、確かな目を持っていたということだ。

漆黒(トギニ)にしろ、鉛灰(ミケーレ)にしろ、赤錆(ディオルコ)にしろ…札付き(ダイド)という組織が魔窟に思えた。この先そんなやつらが何度も追ってくるのかもしれない。

手にしている拳銃が熱を帯びて感じられた。

幼い頃の微かな記憶に痺れる。

違う、ただ私は、足を引っ張るまいと…


「ウチにあるのはこれだけだな。」

イブキは現実に引き戻された。在庫が少ない。

「で?結局カルディナ(ドル)?エルディーダ(ドル)大陸(ムー)通貨?鶏銅貨なら2枚にしとくよ。」

どうやらぼったくられている。

「じゃ、いらない。」

イブキは値切ってみた。

「うちには『護衛』がいるもの。無理には要らないの。」

その場にディオルコがいれば、恐らく何か口を挟むだろう。

「…1枚だ。」

商人は渋々値を下げた。



その後、別の店で衣類を買い足した。値切ってさえ店側は弾が少量なのをいいことに、恐らく少し高値で要求してきたと思われる。この粗悪な銃弾30発分くらいが大体衣服と同じくらいの価格だ。安くはない。

「…あれ。」

さて、青年のところへ戻るかと角を曲がったが、思っていた道に出ることが出来なかった。有りがちだが、道に迷ったようだ。

買い物どころか、道すらまともに歩けなくなっているのか。

飴のこともありイブキは僅かに苛立ったが、迷子になりました!と彼を呼びつけるのは(しゃく)だった。

「髪の長い男の人を知りませんか?こーんなに耳が大きいの。」

「さあ…」

イブキは腕いっぱいのジェスチャーをして、道行く人にディオルコの居場所を尋ねた。

…いや、流石にそこまで耳はでかくない。と、ディオルコがいたらまたも口を挟むだろう。

「…あ。」

視界の先に、昼過ぎにイブキが営業崩壊させたお店の店主が見えた。そうか、あの通りにいるのか。店主は今は弟の煙草屋で接客していた。

「28番」

「あいよ」

「…あの!」

「わあっひぃ!!」

陳列棚の向こうから急にイブキが辛うじて顔を出したので、店主とその弟は声を出して驚いた。兄は力なく笑った。

「はは…」

「どうした、嬢ちゃん!もう食うモンはうちにはねえぞ!」

兄より丸い、ジャガイモのような顔をした弟が兄をかばいながらイブキに笑いかけた。

「さっきは御馳走様!あの―――…」

『ディオルコ』がいる通り―――…飴屋がある通りはどこですかと、言いかけて、好奇心から悪魔がイブキに囁いた。

「『あの』?」

「この村で情報通な人を、誰か知らない?」

店主と弟は顔を見合わせた。

この大きな村なら、彼が何者かを知る人物がいるかもしれない。

「情報通…『物識り』か…つまり?何が知りたいって?」

兄が怪訝な顔をした。

「ええっと…つまり…そのぉ…」

上手い言葉が出てこない。

「この世界の…『強い人達』とか…『有名人』…」


イブキは『ディオルコ・エスパリオン』に興味が湧いた。今度は単純な好意からくる好奇心だった。

青年は限りなく味方に近いように見えて、その影すら追えていない。確かに彼の目的とその理由は教えてもらったが、人物像に謎が多すぎる。だが今までの様子からして、彼は一筋縄では自分のことを答えない。はぐらかして終わるだけ―――根幹は教えてはくれない。

妙ちきりんな乗り物を操り、全身赤い服の長髪、北国出身の貴族、そして確かな戦闘の腕。これだけの材料があれば、彼についての情報が何かしら得られるのではないかと思ったのだが、それを聞く上手い表現が見つからず稚拙な聞き方になってしまった。

『強い人』ってアンタ…、イブキは少し赤くなった。

だが意外にも店主は笑い飛ばさなかった。


「あァ、なるほどねぇ…。歴戦の猛者…大戦士とか、結構探したがる人いるんだよなあ、こんなご時世だし…。この辺だとちゃんと把握してそうなのは、ブクさんか…あぁーでもあの人は多分今日はもういねえなァ」

「何言ってんだ、兄貴。ジイちゃんがいるだろ!」

「えっ、正気かよガジェンダ!だってあの人は…子供相手だぞ!?」

「構やしねえよ、『あの』保護者付きだろ?おい、嬢ちゃん付いてきな!案内してやるよ。」

そう言うと、ガジェンダと呼ばれた弟は、火のついた煙草を右手に店を兄に任せて勢いよく歩き出した。

「知りたいことってのは何だァ?!…何で要人なんて知りたい!?仇討(あだう)ちか、護衛か…!?」

妙に息を弾ませて話しながら、男はみるみるメインストリートから離れて暗い裏路地へと向かっていく。

「ちょっ…ほんとにこっち―――…」

「大丈夫だ!あの人なら何でも知ってる、この村一番の物()りだ!」

通り過ぎた路地からどんどん人が湧いて出てくる気配がある。

イブキはぞっとした。

しまった!何かに()められた!

目の前に大きな建物が迫る。

「わ、私帰―――…!」

後ろを振り向くと、どこからともなく現れた屈強な男達が、来た道を塞いでいた。胸に忍ばせた撃鉄が熱くなる。

「わりぃなアンタ、ここの人俺のお得意様なのよ。」

丸顔に丸い目の黒い顔の男が歯を見せて笑った。

「賢くなったら帰んなァ、嬢ちゃん」


案内された石造りの建物の両脇にも(ガード)が二人。中に入ると半地下になった空間で待たされ(床の鼻血のような血痕の数々が気になる。)、呼ばれて次の部屋に入るとさらに半階層降り、煙草の煙が満ち満ちた部屋の中心にでっぷりとしたアザだらけの老人が一人と―――…これでもかという人数の男が(たむろ)していた。逃げ出すのは不可能だ。

「…名は。」

「ア、アンリエッタ。アンリエッタ・ダグー。」

咄嗟に嘘をつく。

「…ほう。して、何が聞きたい。」

老人の声は思いの外優しかったが、声を発した瞬間周りの人間が凍り付いた。イブキは老人の目を極力見ないようにした。

「……」

「聞きたいのは帰り道(かな)。」

「…貴方は、誰。」

イブキは顔を伏せたまま聞いた。

「『ジェネ』の『グラン=グラナ』。この地の暗がりに棲む者(なり)。…お主、ブクのところにいたね?」

「…え?なんで…」

思わず顔を上げそうになった。

「奴と(わし)は表と裏也。聞きたいこととは如何(いか)に。」

「…」

こうなったら、手っ取り早く聞いて、帰ろう。無事に帰してくれればだが…

「『ディオルコ・エスパリオン』って…人物を、知らない、ですか…」

ウズラの卵のようなアザの老人は、(しば)し沈黙した。

「知らぬな。」

「――――…」

イブキは嘘だ、と思った。

「変な乗り物に乗ってるの。馬みたいな―――…赤い服を着て、剣を三本差して…」

「知らぬ。」

「でもっ…!じゃあ、『ミケーレ・ランドレイ』!この人はっ…!?」


「『リル』の元王族付きの狙撃手。自身はマフィアの生まれ。その道ではこの世で五本の指に入る。終末(エスカトス)前後に姿を消したのちJELVA(イェルバ)に下った。」

「―――…!?」

ミケーレの思わぬ情報にたじろぐ。

「『クバタ』の『トギニ』!こいつはっ!?」

「食人族の末裔。父親は北を震え上がらせた族長の一人。13兄弟の6番目。同じくJELVAに同心したが、エルディーダで幼児を一人殺害したのを目撃され、以降消息不明。」

―――前後の不一致は多少あれど、大体合ってる…。二人とも錚々(そうそう)たる顔ぶれのようだ。

「そこまでわかってて、何で『ディオルコ』のことがわかんないの…!?私、この人のことが知りたいんだよぅっ…!!」


ゴトン。背後の扉の向こうで、鈍い音がした。

「!?」

なに、今の…


「―――知らぬ。それが答え也。」

物音に気付いたのはイブキだけのようだ。

知らないのが答えって、どういう―――…

「それだけ哉、娘。」

「……。」

イブキはヤケクソついでに両親のことを聞くか迷ったが、それは色々と不安があった。

「いくつになった。」

老人が小声で側近に聞いた。

「危険・機密事項はなく、七項目です。70銀貨。」

イブキは飛びあがった。

「70銀貨!?お金とるの!?そのつもりで―――!」

「素直に払うが穏便。『護衛』で『貴族』の付き人に泣きついてでもな―――…」

!?

ど、どこでそれを…!『貴族』は自分のように、耳の装飾品で誰かが気付いたのかもしれないが、『護衛』って…

あの武器商人も繋がってたの!?


「無理だよ!払えない!今ある銅貨で勘弁して!」

「たかだか銅貨数枚では『(どー)』にもならぬ也。ハアッハッハッ…」

「お、おっもしろ~い!」

イブキはくるりと後ろを向いた。

「逃がすな。」

「ぐえ!」

敢え無く周りの男に取り押さえられた。

「なんだ、妙に力強いな…」

押さえに入った一人がそう口にする。


「…金を払わずに済ませる方法が一つだけある。」

老人の濁った瞳がこちらを見た。

「我らが要求するお前さんの情報を七つ。こちらに寄越すこと也。」

「わ、私…?」


濁った瞳で『グラン=グラナ』が凄む。

「白子の情報は引く手数多よ…さぁ」


冗談じゃない!


私!ただの白子じゃ!ないっ!!


銃…!懐から銃さえ取れればなんとか…!

そうイブキがもがいていると。


ガチャ。キィ―――…


部屋の扉がひとりでに開いた。

部屋の全員が硬直して扉を見る。誰もいない―――…

その瞬間。


ばたばたばたっ、とイブキを押さえつけていた四、五人が倒れ、その脇にディオルコが立っていた。

イブキは目を(しばた)いた。

「―――ディ…!」


「こいつ!!」

沸き立ち構える男達。

それに対し、老人が


(セイ)!!!」


と一喝した。

場が静まり返る。


賢いな―――…と青年は認識を改めた。

老人とディオルコの視線がかち合う。

イブキがちらりと下を見ると、一番近くで倒れた男の首が赤くなっていた。


「『護衛』で『貴族』の『保護者』ですどうも。」

小首を傾げてディオルコが微笑むと老人もニヤリと微笑み返した。二人とも瞬き一つせず目をかっ開いている。

其処許(そこもと)、お前が『ディオルコ・エスパリオン』か…」

ディオルコは老人の足元に向け勢いよく巾着を投げた。巾着は金属が重なり落ちる音を立て着地した。

「……」

老人と青年。二人の男以外の、その場の全員が行く末を見守った。

「フン、突っ立って失礼な連中だな。さっさと勘定したらどうだ?」

「対価を投げて寄越す方が余程不行儀とは考えぬ哉。」

「そいつは失敬。」

中身を確認した側近が老人に耳打ちした。

「…丁度か…強気だな。」

「ハッ、なぜですかねぇ…」

「ここまでしておき…払う理由は何だ?」

小さく笑いながら老人が聞いた。

「ご存知の通り…俺の情報は 例え貴方からも 漏れませんよ。この意味お分かり『(かな)』。」

「―――…ほう。」

「かといって情報屋を敵に回すほど俺も愚かじゃない…。敵に回さないのであれば、ここにいる全員を殺すか、金を払うか。二つに一つだ。それ込みでその額だ。恨みっこなしってこと。」

話はよく分からないが、イブキはディオルコが怒っているのを感じた。その上、イブキの方をちらりとも見ない。

「帰りますよ、『お嬢様』。」

ディオルコは辛辣に言い放ち、先に扉を潜った。誰も後を追わない。

「…ディオルコ…!」

急いで追いかけると、ディオルコが薙ぎ倒して来たであろう(やから)達が床を敷き詰めるように倒れていた。声の大きなこの男が、よくもまあこれだけ静かに暴れられたものだ。

何人かは『誤って』死んでしまっているかもしれないが、いずれも刀傷はない。

上の方から、ディオルコが丁寧にも蹴っ飛ばした男がズズズと階段を落ちてきた。


あたりはすっかり暗くなっていた。

建物の入り口で、ガジェンダも倒れていた。気絶しているが他の者と違い、顔が腫れ歯が折れている。ごめんなさい、とうわ言のように言っている。

どこかに置いていた荷物を拾ったらしいディオルコが、さっさと歩いて行ってしまうのでイブキは小走りで追いついた。


「……」

気まずい沈黙が流れた。目も合わせずに芝居がかった様子でディオルコが言い放つ。

「お高い勉強代だったなあ、イブキ…―――俺にとっても。お前がこんなに軽率だとはな。これ以上俺を失望させないでくれ。」

「…」

いつの間にか建物の脇から自走するコモドが現れディオルコに寄り添った。

「それで?何かわかったか?俺のことは。」

「…ごめんなさい…」

村の外れまで来た彼は荒っぽく荷物をコモドにまとめながら、それでもイブキにヘルメットを渡した。

渡されたものを見つめながら、イブキはぽつりと呟いた。


「ディオルコ、なんでも知ってるのに。私だけ何も知らないのは、ずるい…」


ディオルコは、はたと動きを止めて睨むともつかない表情でイブキを見た。


「いっつも助けてくれるのに…信じたいのに…。何も知らないのは…不安だよ…」


ヘルメットにしがみ付く。

永く感じられた。フリーズした様子で、ディオルコは射るようにイブキを見ていた。が。


「…―――俺が悪いな。」

ふっとその表情が緩んだ。


「そのうち嫌でも分かるから…。だから俺のことで、妙な真似はするな。今回みたいに、いつも駆けつけられるとは限らない。頼むから、こんな目に遭うな。」

そう言って静かにイブキに背を向けバイクを跨いだ。寂しさと安堵を感じつつ…イブキも続いて後部座席に乗る。

―――ふいにその背に緊張を感じた。


「…イブキ、前を見ろ、見てみろ」

「え…?」

前を向いたまま、珍しくディオルコが囁くような声で促した。


『砂上の楼閣』―――…


その場には存在していない、亡霊のような違和感があった。

村外れから見える遠方の景色、砂漠の上には…

頂上が霞んで見えない程の、水晶のような高い建物が立ち並んでいた。

光の行列が高速で地を行き交い、目をいくつも持った巨大な鳥が上空を飛んでいる。行列や鳥はいずれも建物の途切れた場所で姿を消していく。


イブキとディオルコは呆気に取られて見ていた。見入っていた。

やがてディオルコが口を開いた。

「『アレ』には、近づくな。」


「もっと近くで見ると、思わず駆け寄ってみたくなる―――…。だが決して、近づくな。」


楼閣は、数分の(のち)、消えた。


半仮想くらいの道具が多いので、そこまで詳しく知る必要もないのですが、それでもゼロ知識で描くのはちょっとしんどい。…というわけで銃知識の基礎部分くらいは勉強をしたいのですが、何から手を付けていいか全くわからず。本も買わず。本の一冊くらいなんだ、と思われるかもしれませんが引っ越しを控えているので、このタイミングで買うのも何だかなぁ。

詳しい方お手柔らかに…というかむしろ御教授願いたいくらいですが。


それより回を追うごとに長尺になってないかって?気のせいです(助けて)。

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