表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LEMURIA 混沌のレムリア  作者: アマダイ
10/25

第十柱 長い夜

ディオルコの助力で孤児院から無事逃走できた二人は途中のオアシスに腰を下ろし、イブキは彼の口から意外な事実を聞く。

彼はある女性の『預言』によりイブキを知り、その女性はなんと彼の『婚約者』であるのだという…



「こ、婚約者ぁあ?!」

イブキは露骨に驚き、のけ反った。その勢いに焚き木の炎がぼっ、と音を立てた。

「そ。」

目の前のディオルコは例の胡散臭い微笑みとは違い、ただただ目尻が下がりまくっている。

「なんだよー、そんなに残念がることないだろ。美形には美人がお似合いですのよ♡」

リングを掲げて見せたまま、何を勘違いしたのかディオルコは自画自賛した。

「アンタ、オカマじゃなかったの!?」

静寂。

予想だにしない言葉をぶん投げられディオルコは憤慨した。

「~~~…あのさぁ、どーやったら俺がオカマちゃんに見えんの?」

「だってたまに言葉遣い女っぽいし…髪長いしなんかチャラチャラしてるし…」

筋肉質なのも妙にホンモノっぽい。最初に見た時から、てっきりあっちの方だと思っていた。思えば、だからこそこの男についていくことにさほど抵抗がなかったのかもしれない。

「こんな質実剛健な男を捕まえてなんてことを…」

とほほ、とディオルコは指輪を懐にしまいながら事実とは程遠いことを平気で言った。

女言葉は、昔に魔女を慕ううちに彼女の言葉遣いがうつってしまったもの…とは口が裂けても言えない自分がいた。

「それに、その人『魔女』っていうからてっきりお婆さんかと思ったよ?」

メッキが剥がれた男の為に、イブキは一応付け加えた。

「…。まぁ、当たらずしも遠からず、かな。」

「…!?え…」

ディオルコのぼそっと呟いた言葉に、イブキは思わず熟々の『熟女』を恋人にするディオルコを想像しドン引きした。どんな人やねん…。

「でもさ、そしたらさ、『預言』の得意な『魔女』さんだったんでしょ?自分で私を捜せたんじゃないの…?」「今、その人何してるの?」

イブキは気楽に聞いた。やや間があった。


「…去った。」

「え?」

前髪がかかり表情は窺えないが、ディオルコは確かに『去った』と言った。

「今なんて…」

ディオルコはくるりとイブキの方を向いた。

その表情は酸いも甘いも嚙分けた老人のような、味わい深い微笑みを浮かべている。

「俺を置いてどこかへ行ったよ」


「…」

「…」

二人の間に妙な沈黙が流れた。が、先にその沈黙を破ったのはイブキだった。

「きゃはははははは!!!アンタ、捨てられてやんのーーーっ!!!」

今まで散々からかわれたイブキは、仕返しとばかりに指さして嘲笑った。

「うるせえうるせえ、うるせえ!!!」

ディオルコは立ち上がりそっぽを向いている。

「だあああああ、もおおおおお!!俺は別にえりすに捨てられてまーせーんー!!自分が姿を眩ますことがわかってたから、俺に手紙を残したんだろうが!!…」

仁王立ちし、疑いも全くなしに断言すると口をへの字に曲げ、ディオルコはしばし沈黙した。拳に自然と力が入った。


沈黙ののち、ディオルコは(いか)った肩を落とし、腕を組んで湖面を望んだ。

「―――俺が捨てられたなら、どんなにかいいんだがな。…一国がその力を欲するほどの預言者だ。どこかで利用されてるのかもしれないだろ。」

手紙を託したのが終末エスカトスより前。ということはもう五年も行方が分からないということになる。

その声こそ強がってはいたが、イブキはこれまでずっと自信と余裕に溢れていた青年が、ここで初めてちらりと不安げな表情を浮かべたのを見た。

…心配なのだ。それほどに。

だからこそ、藁にも縋る気持ちで手紙に従ったに違いない。五年もかけて、私を見つけたに違いない。

「…ごめん。」

イブキはディオルコを見上げ、笑ったことを申し訳なく思った。

「いいや。茶化して話した俺も悪かった。」

ふむ、と言ってディオルコは悪がきのような笑みを浮かべた。照れ隠しなのだろうか…根の明るい男だ。

イブキはこの青年に、段々と好感を抱き始めていた。いつも微笑みを浮かべ何を想うのだろう…何を考えているか分からないところもあるが、今のイブキにとってそう悪い人物ではない。

焚き木の香りに気持ちが落ち着くのは何故なのだろう。

…けれど色々聞かされたところで、イブキとて易々と情に(ほだ)されるわけにはいかない。

イブキは気を引き締めなおした。



昏い夜空の底に沈む星が瞬く。今宵は新月だが、月は天辺をとうに越えただろう。砂漠では砂を舞い上げた冷たい風が通り抜ける。だがその風も原生林に弱められここまではさほど届かない。木々のそよぎに水面が静かに揺れるのみだ。

ディオルコは鍋に湖の水を汲んで火にかけた。

「個人的な事情は終わりだ。…話を戻そう。手紙を受け取った俺は、とある人物と接触した。これは、追々わかるが…。それによりシファードに招かれ、あとはさっき話した通りだ。」

ディオルコは再び湖畔に腰を下ろした。

「俺はこれから、お前をシファードに送り届ける。」

勝手に決め込んでいるディオルコは、そう言って砂の地図につけられた丸を線で繋いだ。

カルディナとシファードを繋ぐ線だ。

イブキはとりあえず何も言わずに話の続きを聞くことにした。

「シファードはDivines(ディバインズ)であるお前が野放しになっていることを重く見た。お前がJELVAにとって脅威なのか、それとも果たして力を与えることになるのか。Barren(バレン)が何者か分からない以上、お前の存在がJELVA(イェルバ)の耳に、手中に入ることが何を意味するかわからないからだ。よって、今後シファードがお前を保護する。」

「どうしてシファードがJELVA(イェルバ)をそんなに気にするの?」

JELVA(イェルバ)の本拠地は南の『エルディーダ』だ。北と南の対立図にでも関係するのだろうか。

終末(エスカトス)…五年前に起きたのは、覚えているな。どこで何が起きたか、把握してるか。」

「えっと…、終末はこの世の自然災害で…。一つは…、私もいた。『エルディーダ』で父ちゃんたちと私は、やっぱりこんな風な砂漠を旅してたんだと思う…。そしたら急に眩しくなって…。風、も吹いてた…ような気がする…」

記憶がないかわりに、例の忌まわしい夢を思い浮かべる。あの日以来何度も再生される光景。


閃光、爆音、足元に濃く映る自身の影、振り返る、愛しい者の指先、暗転、―――ここは…どこだ?


「気づいたら、みんな、服だけ残して…私だけ、無事だったの。」

ディオルコは少し不思議そうにイブキを眺めた。

「それはお前がDivines(ディバインズ)だからか。」

「…そうだと思う。だから覚えている内容は、私の事を知ってる人以外には言ってない。幸い記憶もあんまりなかったし。」

不思議と当時を振り返っても涙は出ない。この件に関して自分が妙に無感情なのは、記憶もなければ自覚もないからなのだろう。その後の環境の激変による忙しさから忘却の彼方へ、親しい人間がみな突然旅立ってしまっただけのような感覚だった。

しかしそういえば、ディオルコはイブキの育ての父親と接点があったと言ったが、それはどのタイミングでのことなのだろう?この先の会話で、その点に触れてくれるのだろうか。

「目撃証言は初めて聞いたよ。みんな死んじまってるからな。…それが『エルディーダ』での出来事か。それじゃあ、他の場所でのことも知っているか。」

「…」

終末(エスカトス)の被害を受けた場所を意味する。イブキはもちろん思い当たる場所があった。北国で唯一聞き覚えのある国名。

「…『ウコキア』。」

「そうだ。栄華を誇った軍事大国『ウコキア』。当時北の主力国家だった。…だが終末エスカトスで、『エルディーダ』の悲劇と同時期に、この『ウコキア』でも恐ろしいことが起きた。」

ディオルコの瞳に映るたき火が揺らめいた。

「王城を含む、古都の人間がすべて消えた。…衣服を残してだ。」

国王も、取り巻く人々も、城下の人々も。それはエルディーダと同じだった。不可解にも忽然と、人々は姿を消してしまったのだ。

「俺も事象直後にウコキアを訪れた。…だが今聞いた話ではエルディーダでの様子は、俺がウコキアに予想したものとは少し違うようだ。静かなものだった。何一つ荒れていない、生活の中から人の影だけをそのまま切り取ったような。」

「王族も全員消え去り、政治・軍事機関は不能、国は機能しなくなりウコキアは事実上壊滅した。名実、南の進出を恐れたシファードの支配下ということになり、王国復興の目処はない。」

「南の?」

北から南への玄関口は『エルディーダ』だ。やはりシファードはJELVA(イェルバ)にエルディーダの姿を見、それを恐れているのだろうか。


「さてこの終末エスカトス、一番得をしたのは、誰だ?」

「…?えっと。」

そんなこと考えもしなかった。イブキは口に出しながら自分なりに考えてみた。

「エルディーダは、JELVA(イェルバ)の本拠地でしょ?南で一番強い国だって言われてるし。そこがやられて…それで、ウコキアもそんなことになって、北国ではシファードが一人勝ちになった。だからシファード?」

「…JELVA(イェルバ)が勢力を強めたのは、この終末(エスカトス)後、急にだ。…妙だと思わないか。」

「…え…」

妙だと言われても、人々が力を結集させエルディーダの再建復興に努めたのだとしか考えなかった。

妙なのはディオルコの方だ。さっきから、この言い方ではまるで…。

「待ってよ、終末(エスカトス)は自然災害だって、私聞いてるよ!?だって…違うの!?」

「『南北物語』が現存する最古の文献であり記録だ。作中の『イエティ』と呼ばれる人物の誕生を『紀元』として年を数え、史実上紀元以降に今回と同様の事象があった記録はない。」

イブキがパンクしかけているのを見かねて、ディオルコは話のレベルを下げた。

「…例えばこの『コモド』。お前最初なんだと思った?」

「えっ最初なんだと…って…馬っぽいなんかじゃないの、ずっと。」

「そんなもんなだろうな…。こいつは人工物だ。機械なんだよ。

俺がJELVA(イェルバ)に関連する人物から貰い受けた。」

イブキは目を丸くして『コモド』を見た。

「きっ機械…!?」

先程は馬ではない、『バイク』という乗り物だ、とだけディオルコは言っていた。無機質なボディに鞍が乗っている。時速は…駄目だ、時速なんて体感で測ったこともない。生物のような感触もなかったが、これだけの物がただの機械だとは信じられない。

「それと同じように、お前が思い込んでるだけだとしたら。」

ディオルコが畳みかける。

ちょっと待ってくれ。

…では何か。それはつまり、今まで自分が間抜けにも信じ込んでいた事実が。

終末(エスカトス)が人為的に行われた…つまり武力行使だとしたら。」

胸騒ぎがした。

「そして『エルディーダ』を支える『JELVA(イェルバ)』は終末(あの日)以降別物になり、見たこともないようなテクノロジーを駆使し、急速に力を伸ばした。『ウコキア』同様崩壊したはずが不自然にもだ。」


「その頃からだ。Barren(バレン)の出現や、奇跡が各所で語られ始めたのも…。」


Barren(バレン)』…


五年前のあの日から、南はこの人物を中心に回り始めた。


『Barren』  『Barren』  『Barren』

  

Barren(バレン)、貴方は―――…


「それじゃあ…あの災害は故意に、誰かによって起こされた…―――」


「―――父ちゃんや他のたくさんの人達は、誰かに殺されたって言うの!?」


…―――何者なの…?


自然災害。追及されるべき責任を、誰にも問うことが出来ない。…そんな状態だからこそ、『忙殺』することが出来た。

それが、ある者達によって、私から彼等が奪われてしまったのだとしたら。

「…わからない。エルディーダやJELVA(イェルバ)が、終末(エスカトス)を起こしたのかは。だが、限りなく怪しい。」

ディオルコはこの時ばかりは目を固く瞑った。思い込みによる断定を避けたいかのように見えた。

「信じないかもしれないが、シファードはこの件に嚙んでいない…」

「そんな…」

目を僅かに開いたディオルコの、下瞼に力が入る。

「言い切れるのはなぜか、それは北には終末(エスカトス)を起こすだけの科学も技術もないからだ。万が一可能だったとしても、本来その役割を担っていたのは壊滅した『ウコキア』だったからだ。」

栄華を誇ったウコキア。彼らに力を与えたのは、紛れもなく軍事力…軍師もさることながら銃火器や戦車、その兵器たちだった。

「そして、『ウコキア』の壊滅によって立場の繰り上がった『シファード』は、事態を不審に思った。そこで『Barren(バレン)』…いや、『Divines(ディバインズ)』としてお前に焦点を当てたんだ。」


今は、彼の伝えることが何となく理解できた。

未曽有の大災害。それを自然災害と言い切り、シファードを此度の台頭の主役として立て、陰で力を伸ばす『JELVA(イェルバ)』。その中心として、各所に出現するそのシンボル『Barren(バレン)』。そして急速な科学の発展発達―――…

シファードは『偶然を装い』お膳立てされた立場を不審に思い、恐れたのだ。

もしもJELVA(イェルバ)の息のかかっていないDivines(ディバインズ)、つまり『私』が存在するならば、調べる必要があったのだ。


もしも終末がJELVA(イェルバ)によって人為的に起こされたものならば、『Barren(バレン)』が今回の事に無関係なはずがない。

イブキは、自分と似通った能力を持つとされているこのバレンを、意識せざるを得なかった。

自分と同じ、白い影。

自分が明確な意志を以ってして、世界を恐怖に陥れる姿を想像し…慌てて自分を現実へ引き戻した。


「何かの…間違いだよ。」

イブキは否定した。忍び寄る現実から自分を守りたかった。だがその自分すら、聞かされた話を拒絶している自分自身を意気地なしと嘲笑った。

一体自分は何者なのか?

今この世界を導いているのは、果たして目に見えて在る強者達だけなのか?

一体自分は何に導かれて、この砂漠の海に飛び込んだのか?

「信じるかどうかはお前次第だ。だが知る権利はある。」

ディオルコは、話を信じ込ませることにはあまり固執していないようだ。どことなく乾いた反応が返ってきた。だがそれが余計切迫した現実感を与える。

「本当、なの…?」

「…俺は誰の味方でもない。『イブキ・ダグー(お前)』も『シファード』も関係なく真実を見極める。それが俺の使命だ。」

はっきりと意志を示す瞳で、ディオルコはイブキ本人を前に澱みなく言った。

イブキは何か言いたくもあったが、何も言葉が出てこない。

『使命』という言葉を使った彼には、私利私欲の為ではなく他に深い事情があるような気がした。

「だから、お前も自分でよく考えて行動しろ。」

今後の事に自分は責任を持てない。どこかそんな響きにも聞こえた。

イブキは青年の真意へと問いを投げかけるようにまっすぐに男の赤褐色の瞳を見たが、青年は目を逸らさなかった。



鍋の水が沸騰し始めた。

「わちち」

ディオルコは袖を指先まで無理やり伸ばし鍋を火から外し、声のトーンを少し上げて仕切り直した。

Divines(ディバインズ)を捜しJELVA(イェルバ)を探る為に、とりあえず俺はイェルバに潜り込んだ。雑務もあるが主にイェルバに仇名す要人の、暗殺用の遊撃部隊としてだ。10人程度・5組の少人数で構成される札付き——dyed(ダイド)と呼ばる部隊だ。そこでミケーレの下に就いた。」

「バレンが立場上、直接命を出せない案件もある。手を下したとなれば、神聖な立場に僅かでも(ひび)の入りかねないような。そういった案件は俺たちに回され、俺たちの意志で自主的に行動に移されたとみなされる。つまり汚れ仕事…まあよくある手だ。」

ディオルコは豆を火にかざして虫がいないかを吟味した。木々が風に鳴る。

「基本は裏切りのないよう互いを見張る意味でペアを組まされる。基本給以外に、任務をこなせばこなしただけの相応の報酬が手に入り、裏切り者の処分も一応任務に含まれる。」

「じゃあ、今はもうアンタ…」

「…ミケーレも立場もほっぽり出して行方を眩まそうとしてる俺は、間違いなく裏切り者だろうぜ。」

話の峠は越えたのか、ディオルコは大して憂うでもなく呑気に豆を齧りながら言ったが、イブキはなぜそんなに余裕があるのかさっぱりだった。

「褒美が手に入るといっても、ミケの様な報酬目当ての者は稀だ。大抵はイェルバやバレンに傾倒しきった者が籍を置いている。」

「…例えば、『漆黒(タール)』―――トギニのような。」

「!!」

イブキはディオルコがトギニの名を口にしたことに驚いた。

「知ってたの!?あの人のこと…」

「バレン様はどうやら俺たちに渾名を付けているらしくな。それを仕事上の通名として…あいつは確か『漆黒(タール)』って呼ばれてた。俺は『赤錆(ラスト)』、ミケは『鉛灰(アッシュ)』…瞳の色で決めてるみたいだな。トギニの名前は偶々知ってただけだ。他の奴にも色々渾名があるが、機会があれば教えてやるよ。」

ディオルコは少し面白そうに言うと、豆を口に放り込んで食料を包み戻し始めた。

…知りたくもないし、出来れば機会がないことを祈る。

しかしそれならば、この目立つ男(ディオルコ)はバレンに顔が割れていることになる。無論この男のことだから、気付いていないはずはないだろうが。

「初めは気づかなかったよ…トギニ(やつ)があんなところにいようとはな。よく見りゃ裏切り者のかつての同僚…といっても二、三度しか顔を見たことないが。今じゃ俺も裏切り仲間か。」

イブキはある考えが頭を過ったが、考えないようにした。

「アイツ、あんなにバレンを崇めてるのに、なんで裏切るようなこと…」

「俺が知るかよ。飽きっぽかったんじゃねえの。」

ディオルコは興味がなさそうに答えた。バイクから火元へ持ち出していた水筒を手にし、ふと気付いたようにイブキに「いるか?」と聞いてきた。イブキは断った。

「行動力があり、大人しくしてられない奴ほど陥りそうなもんだが、最初はバレンの力になろうと使命感に燃えてても、バレンの姿を追えなくてもどかしくなるだけさ。だらだら神に祈ってりゃいいものを…。」

「?」

「バレンの役に立ってる気がしないのさ。成果が見えない。札付き(俺たち)は蚊帳の外だ…探ると言ってもバレンに関して大した情報は入ってこない。所詮JELVA(イェルバ)の外回りでお役人じゃないってことさ。内部で何十年もコツコツ地位を上げる方が、まだ会える望みがあるってもんよ。しかしまぁあんな僻地にいるとはな。」

水筒の残った水を飲み干し、少し冷えた鍋の水を移した。

「でもそれじゃ、アンタも同じくJELVA(イェルバ)を探るだなんてこと無理なんじゃ…」

「その通り。だからJELVA(イェルバ)を探っているのは何も俺だけじゃない。シファードだって手駒は色々持ってる。内部に潜り込んでいる連中もいるさ。俺にとってはついでだ、ついで…何度も言うように、預言を託された俺の一番の仕事は。」

立ち上がったディオルコは食料やら鍋やら水やらを持ってこちらを見た。

…わかってるよ、私だってンでしょ…。

イブキは身に余る圧力を感じて目を逸らした。

Divines(ディバインズ)を捕らえるなら、外回りで使い潰しの俺らが必ず投入される。死のうが何だろうが構わない人材だからだ。今はまだわからないが、その報酬はきっと破格の仕事になるだろうな。もしもDivines(ディバインズ)が存在するなら、俺に情報が巡ってくるチャンスがあるだろうと思った。…しかしそれは他の札付き(ダイド)に追われることも意味していたから、なるべく先回りするために自主的に探してもきた。本当に俺が真っ先に見つけるとは思ってなかったけどな。」

そう話しながらディオルコは、ガチャガチャとバイクの箱に物をしまい、

「感動も一入(ひとしお)だぜ」

そう言ってバン、と蓋を閉めた。何故か今は全く説得力がない。

「あっそー…さっきから何やってんの?」

「片付け」

「見りゃ分かるけど、なんか焦ってない?」

「お花を摘みに行ってきますわね。」

「何それ」

「ションベン」

「さっさと行ってきなよ気持ち悪い!!!」


ありがと~♡と言いながらディオルコは茂みに消えていった。

どうりで落ち着きがないとは思ったが…。

途中までのあの真面目は雰囲気はどこに行ったのっ!?

だがイブキは内心これはチャンスだと思った。乗り物を奪ってアイツから逃げ出すチャンスだ。

まだ父親との関係を聞いていないが、もう二度とチャンスに恵まれるかわからないし、やむを得ない。

乗り方は知らないけれど…イブキははっきり言って自分の運動神経には自信があった。何とかなる気がする。

そう思いバイクに手を伸ばした瞬間。

ぐるり。

びくっとして思わず手を引っ込めた。バイクが振り向いた、とイブキは思った。

前輪がずれ動き目玉のようなライトごと、顔をこちらへ向けるような動作に見えたのだ。

「た、たまたま…気のせい、よね…?」

未知の生物に触れるようでどきどきした。再び手を伸ばしたがバイクは動かなかった。

「…ったく、悪いけど、知ったこっちゃないっての、宗教だとか、国だとか!シファードなんかに絡んでられますか!」

ほっとしたイブキはディオルコを真似て跨ってみた。ハンドルだって握ってみた。しかし今度はバイクは二度と動かなかった。

「くっ…同じようにやってるのに何で…!おーい!」

アイツは乗るだけで動かせたのに!イブキは鞍から降り、さっきは勝手に動いたバイクの首を無理やり戻そうとしてみた。だがこれもビクともしない。

(ぉんもぉ)い!!!何これ!!」


「なーにやってんだ♡」

そのいやに聞き取りやすい声が背後から聞こえた時に、「あ、これ、罠だったんだ…」とイブキは理解した。だがもう遅い。

「あ、アハハ…だって珍しいお馬さんでしょ~?これは鼻かな?ア、アハハハハ…」

振り向きながら笑って取り繕ったが、微笑みながら腕を組み仁王立ちしているディオルコは一言も発しない。余計不気味だ。

「何?まさか私を疑ってる?やだなぁもぅっ――――」

ディオルコの後ろの木々がふいにざわめいた。

「―――誰かいるの?」

嫌な予感がした。青年は相変わらず微笑んでこちらを見下ろしていた…


イブキ・ダグー(イブキ・ビ・エラ):ディバインズの少女。絶賛逃亡計画中(失敗)。

ディオルコ・エスパリオン:怪しいが、真ん中の人ではないらしい。北の国から。赤錆。

エリス・ビ・ドール:魔女ですわよ。イブキに関する預言を残すもディオルコの前から姿を消した。

トギニ:漆黒。札付きに所属していた。

コモド:従順なバイク。


イェルバ:南の主力宗教。何かときな臭い。

バレン:イェルバのシンボル。山羊頭。イブキに近い存在。

エスカトス:世界を恐怖に陥れた事象。

シファード:北の国。エスカトスで心配なことになった。

ウコキア:北の国。エスカトスで大変なことになった。

エルディーダ:南の国。イェルバの本拠地。

イェティ:記録上最古の人物。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価を得て一層精進します。 小説家になろう 勝手にランキング
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ