深夜のお散歩を楽しもうー後編ー
また続きです。
そこには、サラサラの輝く銀色の髪をした、サファイアの様な瞳を持つ、まだあどけない少年が立っていた。その少年は優しく微笑みながら何もないような場所でも歩くように近寄ってくると、
「君たち、大丈夫?」
優しそうに鈴の音の様な美しい声で、少女達に問いかけるのだった。その言葉を聞き少女達は、
「天使さま?」
幻でも見ているような、そんな光景につい、神の作りし使いの種族の姿を思い浮かべ問いかける。それを聞き呆気にとられていた盗賊たちは、
「おい、小僧。いきなり何処から出て来やがった」
「こんな夜中に、どこのガキだ」
「誰か、こんな奴も捕まえてきたのか?」
口々に色々な事を喚き散らすが、気にも留めた様子もなく少年は、
「皆助け合いながら、よく頑張ったね。あっ君たち、怪我をしてるじゃないか」
少女達の傷に気付き、そう言うやいなや、優しく手を触れると、
「神癒」
少年が呟いた瞬間、狐の獣人は驚いた。身体中にあった擦り傷や痣が一瞬で癒えたのだ。その後も少年は次々と少女達に触れていき、小さな傷をも癒していった。その様子を見ていたガルゼンは手に斧を握りしめ、
「おい、小僧。さっきから俺を無視するとはいい度胸じゃないか、死にたいらしいな。親の悲しむ顔を見てやりたいんで、家を教えな。殺した後で届けてやるよ」
目を血走らせ、そう怒鳴りつける。手下共もその様子を見て周りを逃げられぬ様取り囲む。その様子を平然と眺めながら、わざとあどけない口調で問いかける。
「近くの街、シールズの領主カイン・アルギュロスの息子、セオスと言いますが、おじさんたちは何をしてるの?」
目の前に居る子供の、その返事を聞いたガルゼンは手下に、
「領主の息子だとっ。おい、お前たち周りの様子は?」
「お頭、誰もついて来ていないようですが」
「取引現場を押さえに騎士団がひそんでるってこたあ?」
「そんな人の気配はまったくありあせん」
「こんな夜中に一人でか?まあ、現場を見られてるんだ、どのみち無事返すわけにはいかないけどな。これが普通のガキなら売り物になりそうだったが、領主のガキなら足がついちまぁ」
手下にそう言いながら、斧を振り上げ、即座にに振り下ろす。
「きゃ~~、あぶな・・・・」
言いかけた少女達の悲鳴が木霊するが、鈍い異様な音と共に静まり返る。確かに斧は少年目掛け寸分違わず振り下ろされたが、
「ゴンッ」
少年の身体に触れることなく、斧は止まっていた。その銀の髪に触れるか触れないかの位置で。その途端少年の様子ががらりと変わる。心の中に沸々と湧き上がる怒りに、さっきまでの優し気であどけない雰囲気が一気に冷徹で非常な顔立ちに代わる。
昔から見ていて思っておったが、この手の馬鹿はいなくならんな。もし今の家族やその周りの者を見ておらねば、人種族ごと消してしまいそうだぞ。そう思いながら、盗賊に向け問いかける。
「この中に、この馬鹿者に脅されてやもうえず言う事を聞かされてる奴はいるか、いるなら今のうちに言え、騎士団に引き渡すだけで終わらせる、それ以外は・・・・・・」
手下共にそう言いかけたところで、切れたガルゼンが、
「何の魔法で防いでるかわからんが、このガキをやるぞ、魔法を使える奴は構わねぇ、ぶっぱなせ。他の奴は俺と一緒に一斉にやるぞ」
有無を言わせぬその言葉に手下どもは、少年の言葉などよりガルゼンのいう事を聞き、一斉に襲い掛かろうとする。少年は少女達にだけ優しい顔を向け、
「少しの間だけ怖がらず、待っててね」
安心させる為そう言うと、少女達を守るため、神力を行使する。
「神壁」
呟いたかと思うと同時に土の壁がぐるりと囲む。
「さあ、もう終わりの時間だ」
少年はそう話しかけると、すべての盗賊たちの位置を確認する。向こうからこちらに群がってくる盗賊共に、いつもの様に指を振り下ろす。
「神氷」
呟いたその瞬間、辺り一面、守られているもの以外、氷の世界に閉ざされ氷像と化した。
この氷は簡単には溶けん、まぁ明日にでも騎士団を呼んできて、呆然とする取引相手ごと捕まえて引き渡すとするか、その為にも早速街に帰り、アルフォンスを叩き起こさねば。などと、一件落着を思い浮かべながら、少女達の守りを解くと、周りの様子を見て驚きながらも、ルナールが、
「あ、有難う。もうみんな駄目かと思っていたのに。助けてくれて本当に有難う」
目の前の少年にそう言ったのを皮切りに、
「有難うございます」
「ありがとう」
「ありがと~」
続けてネイエ、カーネ、フェールが続けてお礼を言ってくる。なので、
「君たちのお家は? 送ろうか?」
少女達にそう訊ねると、寂しそうな顔で答えてくれた。獣人は最近よく狙われるので余程の偉い立場の者を、付き合いのある仲介人をたて買い戻す時以外は、居場所を探ろうと魔道具で拘束して集落に逃げ込ませる例もあるので、追い返し村には入れないそうだ。酷い時などは集落の場所自体を移している時もあるそうだ。なので、ならばこれから如何するのかと訊ねてみると、もじもじと顔を赤らめ、
「よっ、よければ連れて行ってください、どんな事でもしますから」
少女達皆で頭を下げてきたので、う~~ん、まっ何とかするか、今更見捨てるのもなんだし助けたついでにな。そう考えながらも、
「すぐに戻るから、騎士団を連れて来るまで少しだけ待ってて」
不安を与えぬようにと、少女達に言葉を掛け納得してもらい、街まで急ぐセオスだった。
この後の話は次の別話で。




