暴食美女
三月八日 午後一時ごろ。
沙凪は待っていた。腹を空かせて帰宅するであろう好を待っていた。
既に料理は出来ている。
炊飯ジャーに具とルー、水を適量入れて炊き上げられたカレーである。
ジャーで炊けば焦げない上、勝手の保温してくれる。
裏技を毎週公開している某番組から得た知恵である。
断っておくが、大体のジャーで出来るはずだが、もしかしたら出来んヤツもあるかも知れん。
試そうと思った好奇心豊かな読者は自己責任でよろしく。
ギィ ギィ ギィ
階段が軋む音がした。好が帰ってきたのだろう。
ガチャ・・・・
「遅いぞ好。ちょいと遅すぎじゃ・・・・」
「・・・・・ハ?」
そこに立っていたのは、好じゃない。
ドアを開いたのは、誰かといえば・・・・
「・・・・日和子、何でここに・・・・」
「え、来ちゃいけなかったの?」
ドアを開いたのは、長身、痩身、グラマーの、沙凪にとって、招かれざる客だった。
日和子なる人物は、何かに感づいたように、一瞬の硬直を見せた。
「あら?なんか良い香りが・・・・」
「違うっ。気のせいだ。そうに違いない。さっさと出てけ。」
「何よもぉ、カレーあんなら、一口くらい・・・・」
「てめぇの一口は三合か、コラ。さっさと出てけぇ!」
沙凪は日和子の巨体を力技で押し出し、追い出した。これまでに無いほどの手際でロックを掛けた。
「覚えときなさいっ。食べ物の恨みは恐ろしいんだからね!」
ドア越しに、沙凪に吼える。あの女の放つ恨み文句だけは、戯言と聞き流す事の出来ぬ沙凪である。
ガチャガチャガチャ・・・・
ドアノブを激しく揺さぶられた。
最早、ホラー映画の登場人物になった気分になる沙凪であった。
絶対開けるものか。俺には腹ペコな好の食料を確保せねばならんのだ。
そう腹に決めた沙凪だったが、この声に即、決意を折られた。
「沙凪さん。今すぐ扉を開けなさい。」
好の声だった。ちなみに結構な不機嫌トーンだ。
開けるしかない。
苦渋の決断だった。




