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アンティカの積み替え

1. 積み替えという壁

船を一隻減らしてからの運航は、想像していた以上に厳しかった。

積み荷の量を効率よく配分しても、

アンティカでの積み替え作業が、

その努力を毎回のように食い潰していく。

「積み替え手数料、また上がってるじゃないですか」

ドックの管理窓口で、あたしは伝票を睨みながら声を上げた。


「規定通りです。文句があるなら、上に言ってください」

窓口の担当官は、事務的にそう答えるだけだった。

上に言ったところで、聞き入れられる見込みなど、

最初からありはしない。

分かっていながら、それでも食い下がらずにはいられなかった。


「この量で、この手数料はおかしいでしょう。前回までは」


「規定が変わりました。それだけです」

取り付く島もない対応に、あたしは唇を噛んだ。

ヴォルテックスからの荷を、アンティカで積み替え、

テラの航路へ乗せ直す――

その一手間ごとに、利益がじわじわと削られていく。

中継地点というだけで、これほどまでに足元を見られるものかと、

何度も歯噛みする思いだった。


2. ガルシアとの初対面

交渉が決裂し、途方に暮れて事務所を出たところで、

一人の老いた男が、あたしの様子を見て声をかけてきた。

「また、若いのが絞られてんな」


「……どちら様で?」


「このドックで、長いこと整備やってる者だ。

ガルシア・オーウェンって言えば、大体の奴は知ってる」

ガルシアと名乗ったその男は、

しわだらけの顔に、鋭い目つきをしていた。

「あんた、名前は」


「ウラガ・シノです」


その名を聞いた瞬間、

ガルシアの表情が、明らかに動いた。

「……ウラガ、だと?」


「はい」


「……あんた、あの遭難した奴の娘さんか」


今度は、あたしの方が言葉を失う番だった。

「父を、ご存知なんですか」


「知ってるも何も」

ガルシアは、遠くを見るような目をした。

「昔、世話になった。

 若い頃、無茶な取引で危ないところを、

 何度も助けてもらった。……

 そうか。あんたが、あの娘さんか」

それ以上、多くは語られなかった。

ただ、その一言に込められた重みだけは、

あたしにもはっきりと伝わってきた。


「あの人は、義理堅い男だった。

いい商売人だったよ」

ガルシアは、それだけ言うと、

しみじみと頷いた。


3. ガルシアの助言

「で、何を揉めてたんだ」


「積み替えの手数料です。

 規定が変わったとかでいきなり跳ね上がって」


ガルシアは、少し考えるように顎をさすった。

「まあ、多少の融通は利かせてやれるかもしれん」


「本当ですか?」


「このドックじゃ、わしもそれなりに顔は利く方でな」


そう言うとガルシアはあたしを連れて再び窓口へと向かった。

何やら二言三言、担当官に声をかけると、

先ほどまでの強気な態度が嘘のように、

手数料の見直しが決まった。


「……ありがとうございます」


深く頭を下げると、

ガルシアは、ぶっきらぼうに手を振った。

「礼はいらねえ。

 あんたの親父には、昔、世話になった分がある。

 今回は、その清算みたいなもんだ」


「今回は、って」


「次からは、自分でどうにかしろってことだ」

そう言って、ガルシアは、にやりと笑った。

突き放すような言い方だったが、その笑い方には、

どこか温かいものが滲んでいた。


4. 決意、テラへ

アンティカを発つ船の中、あたしは、ずっと考え続けていた。

積み替えのたびに削られる利益。

デュラン商会をはじめとしたアンティカでの取引先の離反。

積み重なる度に、船団の余裕は、じわじわと失われていく。

「……このままじゃ、駄目だ」

呟いた声は、狭い船内に、静かに響いた。


コッホやアダムスから預かっている、

ヴォルテックスの新品種の卵や海産物。

テラの規制に阻まれ、

これまで正規の販路には乗せられずにいた品々だった。

だが、アンティカで削られ続けるくらいなら、

いっそ、元栓であるテラに直接持ち込んで、

正面から道を切り拓いた方がいい。

ロイドがいない今、あたしを補佐してくれる人はもういない。

相談する相手もなく、迷いを分かち合う相手もいない。

それでも、決めるのは、自分でなければならなかった。

「テラに行く。

 ヴォルテックスの魅力を伝えてやる。

 直接見せて伝えればわかるはずだ」

あたしは、その一言を、

自分自身に言い聞かせるように、はっきりと口にした。


アンティカを発ち、ヴォルテックスへ向かう航路へと、

船の舳先を向けた。

不安がないと言えば、噓になる。

だが、立ち止まっている暇はなかった。

ここで動かなければ、船団はいずれ、

本当に立ち行かなくなる。


窓の外に流れる星々を眺めながら、

あたしは、これから待ち受けるであろう困難に、

静かに気持ちを固めていった。


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