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忠告

1. デレク・ファロン

ガルシアの端末から送られてきた連絡先を頼りに、

あたしはアンティカの裏路地を奥へ奥へと進んでいった。

表通りの喧騒が、次第に遠ざかっていく。

看板もない扉をいくつか通り過ぎ、

ようやく辿り着いたのは、薄暗い、鄙びた酒場だった。


中に入ると、空気がこれまでの商談で嗅いだことのない

種類の緊張を帯びているのが分かった。

カウンターに座る者たちは、皆、一様に目つきが鋭く、

どこか警戒を纏っている。

声高に話す者は一人もいない。

ここが、正規の商売とは違う世界だということが、肌で伝わってきた。


「あの、デレク・ファロンという方を、探しているんですが」

思い切って、店の主人らしき人物に声をかけると、

店内の空気が、微かにざわついた。

数人の視線が、一斉にこちらへ向く。


奥の席、一人で杯を傾けていた男が、ゆっくりと顔を上げた。

「……誰が呼んでる」


「あたし、です」


「あんたは、誰だ」


探るような、値踏みするような視線だった。

「ウラガ・シノです。ガルシアさんの紹介で」


その名を口にした瞬間、デレクの目つきが、明らかに変わった。

「……ウラガ、だと」


「父を、ご存知なんですか」


「知ってるも何も」

デレクは、杯を置き、深く息を吐いた。

「あの人から、名前だけは聞いてた。

 娘がいる、大事に育ててるってな。

 まさか、こんな形で会うことになるとはな」

デレクは、向かいの席を、顎で示した。

あたしは、促されるまま、そこに腰を下ろした。


2. 忠告

「あんたの用件は、聞くまでもねえ」

デレクは、探るような目で、あたしを見た。

「変光星の先、聞きたいんだろう」


「はい。継ぎたいんです」


「やめとけ」

即答だった。取り付く島もない、冷たい拒絶だった。

「あのルートで、何人死んだと思ってる」


「……何人、ですか」


「あんたの親父だけじゃねえ」

デレクは、杯の中身を見つめながら、静かに続けた。


「マルコって奴がいた。おれと同い年で、腕のいい操縦士でな。

 三年前、意気込んで挑んで、そのまま戻ってこなかった。

 奴の女房は、今でもアンティカの外れで、帰りを待ってる。

 もう戻らねえって、誰もが分かってるのにな」


「……」


「他にも、名前も覚えてねえような若造が、

 二人か三人、同じように消えてる。

 あのルートは、今もまだ現役だ。

 長年やってる連中でも、油断すりゃ命を落とす。

 若いうちから、軽い気持ちで手を出していい代物じゃねえんだよ」

デレクの声には、あたしを試すような響きがあった。

だが、それ以上に、心底からの心配が滲んでいるのも、はっきりと分かった。


3. デレクの真意

「父も、この忠告を聞いてたんですか」


その問いに、デレクは、苦い顔で頷いた。

「ああ。何度も言った。

 しつこいくらいにな。それでも、あの人は、聞かなかった」


「なんで、それでも」


「知るかよ、そんなこと」

デレクは、吐き捨てるように言ったが、すぐに、少し声を落とした。

「……昔、おれも、仲間を一人、あのルートで失ってる。

 だから、余計に、あんたにまで同じ思いをさせたくねえんだよ」


その言葉には、単なる意地悪でも、老害じみた説教でもない、

経験に裏打ちされた重みがあった。

父もまた、周囲のこうした忠告を承知の上で、

それでも挑み続けていたのだと知り、あたしの中で、

悲しみとは違う何かが、静かに固まり始めていた。


4. 揺れる心、それでも

デレクの話を聞きながら、あたしの胸の内には、

正直、怖さがあった。

マルコという男の話、名前も知らない誰かたちの話。

それが、決して他人事ではないことは、痛いほど分かっていた。

自分もまた、あの航路の向こうで、消えてしまうかもしれない。

父のように、何も残さないまま。


それでも――と、あたしは思った。

このまま、船団を立て直すあてもなく、

ただじりじりと自転車操業を続けていくだけの日々に、

耐えられるとは思えなかった。

父が命を賭けたものを、知らないふりで通り過ぎることも、

できそうになかった。


怖さと、決意。

その両方を抱えたまま、あたしは、静かに口を開いた。

「それでも、あたしは行きます」


デレクは、しばらく黙って、あたしを見つめていた。

「……頑固なところ、そっくりだな」

小さく、そう呟いた。

「止めても、聞かねえんだろうな、あんたも」


「はい」


「勝手にしろ」

デレクは、それだけ言うと、視線を杯へと戻した。

承諾でも祝福でもなかったが、それでも、

道を完全に閉ざされたわけではなかった。


酒場を出て、夜の街を歩きながら、

あたしは、これからやるべきことを頭の中で整理していった。

宇宙商業高校で学んだ航法理論と、父が遺した観測データ。

それを突き合わせる作業が、これから始まる。

「行くしかない」

呟いた声は、静かだったが、確かな決意を帯びていた。

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