第2話 冒険者は体のいい無職
俺の名前はマリオン・エレガー。
魔法学校の卒業を控えた、虚空にいきなり自己紹介始めるちょっとアレな16歳だ。
元の世界の名前は『佐藤トシオ』。
そう言えば壁の向こう側の人はわかってもらえるかもしれない。
壁…?
マリオンの中にトシオの記憶が徐々に流れ始めたのが、ちょうど10歳を過ぎたあたりで、まさに神様への発注通りだった。
そこからトシオの自覚が徐々に芽生え、今ではすっかり中身はマリオン・トシオだ。
もちろん、美人でやさしい母も、可愛い双子の妹も既に確保済みである。
トシオが目覚め始めると、途端に『勇者特性』が発現し始めた。
運動能力は高く、気を抜くとありとあらゆるステータスが、あり得ない勢いで上昇する事を確認している。
なるべく目立たず平穏に学校生活をおくるのが信条の俺にとって、それは中々に厄介な問題だった。
平均よりちょっとできる程度の生徒を演じる毎日は、なかなかにコントロールが難しいのだ。
ま、神が与え給う『上の中』のビジュアルの良さで、結果目立ってしまうんだがね☆
さて、今日は最後の進路相談だ。
担任には何度言ってもわかってもらえないが、今日も俺の考えを通すとするか。
と、俺はマジで誰に話してるんだろね。
まずは医務室に行くべきか…。
ー魔法学校進路相談室ー
「マリオン、何度も言うが宮廷魔術師も狙える成績なんだぞ。
今ならまだ間に合うんだから、少しは考えたらどうだ?」
担任のポーツ先生は、本当に生徒の事を親身になって考えてくれる、やさしいおじさん先生だ。
親身すぎて普通なら2回くらいで済む進路相談が、俺に限っては通算5回目となる。
「何度も言いますが、俺は『冒険者』になります。所謂個人事業主になって生計を立てるつもりです。」
「だから、それは一度社会に出て勤めた後からでもできると言ってるじゃないか。」
いつも通りのラリーだ。
まあ先生からすれば、ちょっとできる生徒が、みすみす『人生を賭けたフリーター』のような、職種と言えるか怪しい職業に就く事は理解できないだろう。
先生の立場もあるだろうし、何より本当に心配してくれているのは俺にもわかる。
でもこうするのが、たぶん『魔王討伐RTA』の最適解なのだ。
「親御さんは何と言ってるんだ?」
「はい、冒険者になるのであればここの学費を5年以内に返納するように言われました。」
「だったらなおさら…」
親の言い分も、先生の優しさも痛いほどわかる。
だが、逆算すれば時間が足りなくなる公算が高いのだ。
「先生、座学で何度でもおっしゃいましたよね。
身体機能にピークがあるように、魔力にもピークがあると。
仮に20代中盤が双方のピークだった場合、のんびり宮遣いをやってる暇は無いと俺は考えています。」
先生は、その話は何度も聞いたと言わんばかりに話を制す。
「それはわかったが、お前は冒険者になって、本当に何がしたいんだ?
お宝を一発当てたいのか、有名ランカーにでもなって世界を飛び回りたいのか?」
今日の今日まで黙っていたが、先生に納得してもらうには言うしかないと腹を括った。
内心、これで呆れて諦めてくれとも。
「魔王を討伐したいと思っています」
「魔王? 40年眠り続け、いつ起きるかわからんヤツをか?」
「はい…」
室内に長い沈黙が流れた。
「うん、もういいぞ」
先生はそう言うと、「はぁー」と露骨なため息を吐いて、俺を退室するように促した。
これで最後の進路相談がたぶん終了した。
ー教室ー
昼休みの教室に戻り、さすがに少し考えてみた。
果たしてこの第二の人生を、魔王討伐というガバガバな賭けに全ベットして良いものかと。
一般的に見れば、能力だけでも相当なアドバンテージがある。
しかもご都合主義よろしく、魔王は北の大地で40年眠り続けてる状況で、次にいつ目を覚ますのかわからない。
いっそぬるま湯に浸かって終わる人生も、それはそれでありだなと、最近は悩むようになってきた。
そんな事を机でぼんやり考えていると目の前に男子生徒達が寄ってきた。
学年トップ、『自称』将来の大魔導師を約束された男、領主様んとこの何男坊かわからんお坊ちゃまこと、クルム・ハーゼイ様と、コバンザメの取り巻き二人だ。
「よぉ、イケメン冒険者。
進路まで冒険するつもりのバカは大変そうだな」
「庶民のバカの出だから、自分がどんだけバカなのかわかってませんよクルム様!」
ほう、なかなか気の利いた事言うなコイツらと少し感心したが、バカにしたいのか貶したいのか、ちょっとパンチが弱い。
人の神経を逆撫でするなら、このくらい言わないとだな。
「何用ですか、お坊ちゃま。
想いを寄せていた女子生徒の元カレに、あの子の好きな花の情報でも聞きに来たんですか?」
我ながらイラっとする言い方である。
ここで神様特性鑑定スキルの出番だ。
鑑定スキルとは一般的に対象物の情報を開示して、他者と情報を共有できる便利なスキルだ。
町に2〜3人使える人がいれば事足る程度のスキルである。
低レベルでは人や動物などは鑑定はできず、もっぱら物品の売買などに使われている。
しかし俺のスキルは一味違う。
あらゆる人や物から情報を取得でき、しかも自分1人で楽しむ『こっそりモード』が実装されている。
試しにクルム坊ちゃまの今の心境を覗いてみよう。
『動揺・大』
効いてる効いてる。若いって反応が真っすぐでいいねえ。
「貴様、貧乏庶民の分際で、いつもいつも舐めた態度で貴族である俺をバカにしやがって…!」
「は? 本校に於いては『出自は関係無く能力と努力が評価対象』じゃありませんでしたっけ?
自分を磨かずふんぞりかえって、女の子を取られたからって毎回ネチネチ因縁ふっかけて、それが貴族様の流儀ですか?」
『動揺・特大』
おっと、
こりゃ泣きだすかもしれないな、と少し気の毒になってきた。
次の瞬間、クルムが胸ぐらを掴んできた。
まあ一発くらい貰っときましょう位で考えてはいたが、様子が違った。
「放課後、貴様に決闘を申し込む!
お前を合法の下、殺す…!」
ドンと突き放されると、3人は別の教室に戻って行った。
決闘、貴族の文化…ねぇ。
これまた貴族様の風流にお付き合いしないとですわ。
オーホッホッホッホ。
うわ、さっぶ…。




