第3話 俺が殺した
『決闘』
それは貴族の間で執り行われる、貴族にだけ許された誇りを賭けた戦い。
庶民からの申し出、もしくは庶民同士の決闘は受理されない。
ルールは至ってシンプルで、どちらかが死亡したら終了だ。
国も認めている、いわば合法の殺し合い。
それが『決闘』だ。
そんな決闘の申し出を、領主のご子息クルム・ハーゼイから受けたのは、一般家庭出身の俺。
そんな俺こと、マリオン・エレガーは、放課後の闘技訓練場で大歓声の中、クルムと対峙していた。
今回は、そんなシチュエーションからスタートです。
ー校内闘技訓練場
話を聞きつけたほぼ全校生徒が、観客席を埋め尽くしている。
「綺麗な顔をぶっ壊せ」だの「庶民舐めんなクソ貴族」だの、場内は殺せ殺せの大合唱状態だ。
この世界では、闘技は大変人気のコンテンツだ。
文化的な成熟具合から見て娯楽が少ないのが一因だが、各地に国営の闘技場が点在し、公共のギャンブルとして毎週人々を熱狂させている。
ただ、『決闘』とは違い、闘技は相手を殺すまではいかない。
闘技はあくまで競技に近い試合、決闘は貴族の面子を賭けた死合。
そんな物騒な制度は、貴族のご子息ご令嬢が通う本校でも適用されており、年に一度ほど決闘騒ぎが起きる。
今まさに、「女子生徒人気高め男子生徒からちょい嫌われ庶民」VS「親の七光りで全方位嫌われ貴族」の死合が始まろうとしていた。
裁定役にはポーツ先生が立ち会うこととなった。
ポーツ先生が「両者、前へ」と俺達を中央へと促す。
「怖気づいて来ないかと思ってたぜ、イケメン馬鹿庶民野郎…。」
『緊張/大』
こっそりモードでさっきからクルムを観察しているが、こっちが心配になる程緊張している。
あと相手を煽る時は『イケメン』とか上げる言葉は入れない方がいいんじゃないかと思う。
まあ煽りとはこう言う事だ。軽くジャブを入れておこう。
「好きな女子の前でかっこいい所を見せれば振り向いてくれるとでも思ってるのか?
そういう傲慢さが透けて見えるから、人が離れていくんじゃねえの?」
『緊張/大』
『動揺/特大』
うわぁ、なんかごめんマジで。
そこまで刺さるとは、こっちもちょっと驚きだよ。
「てめえ…ぶっ殺す…!!」
怒りに震えるクルムが白い手袋を床に叩きつけた。これが貴族の決闘合意のマナーらしい。
ちなみに庶民はそんなのやらなくていいという事だ。庶民に合意は求めて無いって事だろう。
「先生ちょっと、少し質問いいですか?
仮に俺が彼を殺した場合、その後ご親族から報復とかありますか?」
決闘の直前ではあるが、どうしても俺は確認しておきたかった。
「無い。この場で名誉のために戦って、この場限りで納めるのがルールだ。
これが守れないと、お家取り潰しにまで発展するので絶対に無い」
ほう、つまり勝っても俺や家族に危害を加えられると言う事は心配しなくてもいいって事だ。
「あと、死亡した場合の補償金などは」
「無い。あっても学校から少しの見舞金くらいだ。
そろそろ始めるぞ」
そうか、死んだら今までの学費も無駄になるな。こりゃ死ねないな。
「舐めやがって…」
ごめん、クルム君。待たせたおかげで一層怒ってるみたいだね。ごめん。
「それでは、決闘開始ッ!」
ポーツ先生の声が高らかに響くと、いよいよ『決闘』が始まってしまった。
名実ともに校内一の攻撃魔法が牙を剥く。
クルムの持つ杖の先に、初っ端からものすごい魔力が集中する。
いきなりエンジン全開でスタートするつもりらしい。
だが俺はこれを機に少し試したい事があった…。
「これで消し炭になれやぁッ!
火炎翼鳥!!」
うん、いきなりなんでそんなかっこいい必殺技を叫んじゃうかね。叫ばないと出ない仕組みかな?
あと、それじゃタイミング取って下さいって言ってるようなものじゃないか。
クルムの持つ杖の先から、業火が飛び出すと、炎は獰猛な猛禽類のように翼を拡げ一直線にこちらに飛んできた。
クルムの魔法を侮ってはいない。
だが、こちらもどこまで調整が利くか。
俺は右の掌を突き出し、力を込めた。
「情報開示ッ!」
\ステータスオープン/
一瞬の出来事だった。
俺の身体を爆炎が包む。
観客席から悲鳴とも歓声ともつかない声が上がる。
直後、爆風が煙を巻き上げ、闘技場は本物の熱を噴き上げた。
「……死んだか?」
誰かがそんな声を漏らした。
が…残念ながら俺は立っていた。
右手を突出した先に、鑑定スキルのステータス画面を浮かべて。
クルムは、いや、ここにいる全員が、一体何が起きているのかわからない顔をしている。
まあ、それはこちらも理解できる。
端から見れば鑑定スキルの情報表示画面だ。
これで中位魔法を防いだとあれば、誰だって驚くはずだ。
ただ標準1画面で防ぐにはギリギリすぎた。
予想以上に、すっごい熱かった…。
余裕でダメージ受けてますから。
あといちいち\ステータスオープン/って、可愛いらしい女の子の声がするの、どうにかならないかな…。
……先日、鑑定スキルをアレやコレやと弄っていて、ある事に気がついた。
自分用『こっそりモード』、情報共有用『鑑定モード』、そこからもう1段魔力を集中すると、なんと質量を持った硬い板に変化したのだ。
その板は、今の俺の力程度では傷一つつけられない『純粋な魔力の塊』だった。
もちろん情報も見れるから『すっげえ硬いタブレットPC』みたいなものだ。
物理攻撃も魔法も、もしかしたら防げるかもしれない夢のステータス画面。
その後しばらく練習を繰り返し、少し柔らかく丸く曲げるくらいにまでなった。
「な、なんだそれは…?
な、な、何の真似だそれはッ!?」
「鑑定スキル、だが?」
「そ、そんな訳あるか!
そんな下位スキルで、俺の攻撃を防いだとでも言うのか!!」
クルムも怒り心頭だ。
そりゃ鑑定スキルで防がれたら意味わかんないもんな。
その気持ち痛いほどわかるぜ。
「クソがぁぁあ!
今度こそ消し炭にしてやる、フレイムバード三連撃だ!!」
またしてもクルムの杖先に、恐ろしい程魔力が集中する。
さすがにさっきの標準サイズ表示だと保たないかもしれない。
「消し飛べ!!」
杖先から放たれた炎鳥が、空気を切り裂き一直線にこちらに迫る。
今回は、ご丁寧に三連続だ。
「情報開示ッ!」
\ステータスオープン/
「さらに、大人数でも見やすい拡大表示!!」
闘技場に灼熱の炎が駆け巡り、それを追いかけるように煙が立ち込めた。
「や、やった…。やったぞ!」
天に昇る煙を見て、クルムは手応えを感じたのだろう。
小さくガッツポーズをして、観客席にドヤ顔でアピールを始めた。
今度ばかりは、場内から歓声が上がった。
目の前で人間が消し飛んだのだ、そうなれば否が応でも興奮するのであろう。
闘技訓練場にいる皆は、クルムの勝利を確信した。
だが、煙が晴れてくると、場内の空気が一変した。
何故なら……
俺が立っていたからだッ!!
大きく引き伸ばした『お年寄りにもやさしい大画面表示』が、俺の前に鎮座している。
うん、さっきと比べたら大して熱くなかった。いけるぞコレ。
クルムのステータスを横目で見てみると
『混乱』
とだけ表示されていた。
まぁ気持ちはわかる。
状況を理解出来ていないであろうクルムは、俺を見つめ呆然と立っていた。
しばらくして「ハッ」と我に返った表情を見せ、そして今度はブツブツ詠唱を始めた。
よりによって、こんなタイミングで『エレメントチェンジ』か…。
火がダメなら今度は水か、はたまた風か。
それにしてもパニクってるなぁ。
俺もそこまで気の長い人間ではない。
詠唱が終わるまで、お行儀良く待つ事は無理な相談だ。
次の瞬間、俺は詠唱中のクルムとの距離を一気に詰め、
「情報表示ッ!」
\ステータスオープン/
表示した画面を掴み、筒状に丸めて、死なない程度に加減してクルムの横っ面めがけて振り抜いた!
勢いよく吹っ飛び、慣性で2,3回地面を転がりクルムはようやく止まった。
動かなくなったクルムを少し心配したが、「ゴハッ」と呻いているので、おそらく生きているだろうと安堵した。
少し間を空けて、場内に歓声と怒号が上がる。
「よくやった!」「素敵!」「詠唱中への攻撃はマナー違反だ!」「卑怯者!」
賛否の声が嵐のように巻き起こってた。
まぁ、合体ロボが合体中に攻撃受けたら、俺も怒るもんな。でもダメってルールはどこにもないからね。
倒れたクルムに裁定役のポーツ先生が近づく。
そして俺を見て、小さく顎をしゃくった。
……ああ。
たぶん「とどめを刺せ」という意味だ。
気がつくと、場内は再び「殺せ!」「終わらせろ!」の大合唱へと戻っていた。
怒号と歓声の中、俺は気絶しているクルムの髪を掴んで引っ張り上げた。
そして、ステータス画面を限界まで薄く、鋭利な刃物化させると、クルムの美しい金髪を掴み、雑に逆モヒカンの要領で一気に刈り上げた。
バサリと床に落ちる金髪。
殺戮を期待していた観客席が一瞬、水を打ったように静まり返る。
俺は刈り取った髪を高く掲げ、静まり返った闘技場に声を響かせた。
「今、クルム・ハーゼイの傲慢なプライドは、俺が殺した!」
「この結果に異議を申し立てる者があるなら、今ここで、俺を力で説き伏せていただきたい!」
静まりかえった会場からは、誰も出てはこなかった。
しかし、納得がいかない者が多数だったのだろう。
しばらくするとお楽しみ殺戮シーンを期待していた生徒達の暴動寸前の大ブーイングに発展した。
そして、状況を察してなのか、教師達が生徒に解散するよう指示し、少々混乱した闘技訓練場から観客だった生徒達はほとんどいなくなった。
これにて『決闘』の幕は降りた。
クルムが医療班の担架で運ばれていくのを見送っていると、裁定役のポーツ先生がすれ違いざま、軽く俺の肩を叩いた。
「……すまんな、マリオン」
小声でそう呟いて去っていく先生の背中に、俺は軽く手を振って応えた。
貴族の面子もルールも、俺には知ったこっちゃない。けど人殺しなんてこれからも勘弁願いたい。
すっかり静かになった闘技場を後にしながら、俺は大きく息を吐き出した。
「はー、腹減った…。今日晩飯なんだろうな」




