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第1話 転生するって本当ですか?

「」

 …ここは、どこだ…?


 目覚めると、視界に入るものが全て真っ白だった。

 おそらくとてつもなく広いであろう空間に俺はいた。


 体が浮き上がらないので重力はあると思うが、身をあずけている場所が地面なのかは少し怪しい。

 そんな不思議な空間だ。


 一通り周囲を見回すと、目の前にお爺さんが現れた。


 質の良い布を身体に纏い、片手に大振りの杖、頭頂部こそハゲ散らかしているものの、長髪に貫禄のある長い髭。


「目覚めたか、佐藤トシオ(47歳 独身 会社員)よ…」


 名前まで承知な上に、このパブリックイメージまんまのお爺さん。

 聞かなくてもわかっているが、確認の為、俺は一応聞いてみる。


「神様…ですか?」


「左様…ワシが神じゃ」


 まんまじゃねえか、と思わず口から出そうになった声を押し殺し、俺は神様の声に耳を傾ける。


「君は今、生と死の狭間に立っている。このまま放っておけば死に流れる公算が高い。」


「…あ、俺、信号無視のトラックに跳ねられたんだっけ?」


「否、それは回避したがその先で転倒をして、植木の垣根に頭をぶつけて、現在昏睡しておる。」


 それを聞いて、俺は少し安堵した。


「よ、よかった…。トラックの運転手さんに過失責任は発生してないんですね?」


「そこ? そこ聞く?」


「あ、でも待って、不注意だった可能性はあるものの、信号無視と歩行者の見落としは重大な過失に問われるんじゃ…」


 そこで俺は閃いた。そうだとっとと目を覚ませば、トラックの運転手さんの過失割合が減らせるかも。

 そんなに大怪我じゃなければ示談も視野に入れてもいい。


「残念じゃが、トラックは走り去った。

 あと、はいそうですかと魂を戻す事もできん。」


 全てお見通しの神様がピシャリと言い放った。

 んじゃ最初から言ってくんない?と思ったが、そこも我慢した。


「君の魂を現世に戻す前に、ひとつ頼みたい事がある…」


 俺は「はぁ…」と気のない返事を返した。


 神様のお願いって事は「ファミマ行ってファミチキとモンエナ買ってきて」レベルじゃ済まない話なんだろな、きっと。



「頼みと言うのは、君の住む世界では無く、違う世界の魔王を退治してもらいたいのじゃ」


 ほら来た、アニメやラノベでよくあるテンプレ展開じゃん。もっと捻ろうぜ、目配せとかせずにさ。



 しかし神様は眉一つ動かさずに淡々と続けた。


「無論、誰にでも頼める事では無い。

 君程『勇者適正』の高い魂は、なかなか現れないんじゃよ」


 まあ納得がいくか?と問われたら、現在10%程納得しかけている。


 けれど重要な事を聞かなければ、話は先へは進めない。


「断ったらどうなります?」


「明日にでも肉体は呼吸を止め、魂は行き場を無くし彷徨うじゃろうな」


「それってお願いじゃなく、脅迫ですよね?」


 神様が少したじろいだ気がした。

 と言うより表情が「あ、ちょっと面倒くさいヤツだな」って顔に一瞬なった。


 依頼を受けなければ死亡確定。


 受けてもたぶん相当悪条件。


 選択肢の余地が無いのであれば、せめて好条件を引き出さないとだ。


 後から聞いてたのと話が違うなんて事にならないように。


「わかりました。魔王討伐、これからの確認事項と条件次第で善処します」


 神様の顔が本当に曇ってる。

 普通チート能力貰って、ホイホイ転生するじゃろ?とでも思っているのだろう。

 ま、確認は大事だ。


「まずその魔王と言うのは、どのような存在なのですか?」


「魔王は、ワシの作った世界の外側から湧いて出た、君らの世界でいう『バグ』みたいなものじゃ。

 放っておけば、周囲は瘴気に侵され世界は滅びるじゃろう。

 ワシが手を出せるのは、ワシが作った理の範囲内だけで、外からの不具合は君のような外部の力を借りねば駆除できぬのじゃ」


 要するに修正パッチになるか、そのまま死ぬかの二択って訳だ。


「魔王に知性は無く、あるとすれば破壊衝動だけじゃ。アレのおかげで、人類達は少しずつ生息域を狭めておる」


 なるほど、生きてる災害のような物と考えれば対処できなくは無いと、俺は考えた。

 少なくとも知性があって、徒党を組んで侵略してくるタイプより、シンプルでありがたい。


「わかりました。

 次にその『世界』というのは、どのような世界ですか?」


 もういちいち神様の表情など追ってはいられない。どんな小さな情報からでも勝ち筋を探さなければならないのだから。


「君たちの世界でいう『異世界ファンタジー』とほぼ同等と考えてくれて結構じゃ。後は現地で確かめてくれ」


 よかった、予想の範囲内だ。


 たとえば、近代兵器を備えた一個師団を指揮して魔王討伐に挑めとかの話になると、まず転生先での人生は、軍内での内政と昇進努力にほぼ振る事になっただろう。

 それこそ難易度が桁違いに上がる。


 だが、俺の思うファンタジー寄りな世界なら、最悪身一つでなんとかなるかもしれない。



「では次に『勇者』とは?

 称号ですか? 能力ですか?」


「能力じゃ」


 さすがの神様でもイライラし始めてるようだが、俺は聞かねばならない。


「もちろん着の身着のまま行ってらっしゃいとは、ワシも思っとらん。

 魔王を倒すための特別な力を付与して送り出す。

 基本的身体機能の優秀さ、経験や成長に伴う各種機能の上昇率の大幅アップ、精神的な事案にも柔軟に対応できる精神耐性などじゃ」


「容姿についても条件を追加でお願いできますか?

 可能なら『上の中』以上でお願いします。」


「よ…容姿か…?」


「はい、容姿は交渉や信頼関係に少なからず影響をします。相手に圧力をかける、油断させる、とにかく生き抜く選択肢を広げると考えます」


「あと、モラトリアム期間に青春を謳歌し、恋をして、あわよくばエッチな展開にでもなればと思っています。

 …モテたいですぶっちゃけ。


 これは人生経験をより多く積み上げ、いかなる局面でも判断を鈍らせない為にです」


 神様からいよいよ「はぁ」とため息が漏れた。


 まあ神様相手に隠し事をしても正直意味は無いだろう。ならば、思ってる事を正直に伝える事こそ、この場での誠意だ。


「わかった、全て条件を飲もう。

 ではそろそろ送ってええかの?」


「まだです! まだやるとは言ってません!」


 神様は沈黙し、少し天を仰いだ。

 どこが天なのかわからない真っ白い空間だが、とにかく仰いだ。


「最後にこれだけ、転生先の家庭環境を選べるのであれば、一般的な家庭でお願いします。

 いきなり王族だ領主の息子だになると、早い段階で国家中枢に囲われて身動きが取れなくなる場合が、あるかもしれませんので」


「あと、もちろん性別は男子で。

 美少女スタートで女の子同士キャッキャする展開も捨てがたいのですが、男性を受け入れるまでもしかしたら相当な年月がかかってしまうかもしれない…。

 ですので、今回は美少女TS転生案は却下です」


「それと、この意識と記憶が目覚めるのも、10歳ぐらいから、グラデーションで覚醒するよう設定お願いします。

 産まれてすぐ神童扱いされるのも良いかと思いますが、首も据わらぬ期間から意識と記憶があるのは暇すぎて精神が保たない可能性があります。

 それに2〜3年程のオムツ生活にも、耐えられない可能性を考慮した上です」


 神様はまた天を仰いだ。

 今度は少し長めに、真っ白い空間で天を仰いだ。


「もう、いいかな?」


 神様の問いかけに、俺は少し悩んだ。まだあるような、でもまあこのくらいで、後は現地で考えよう。


「あ、やさしくて美人な母親と、可愛い双子の妹も追加でお願いします!」


 もうこの言葉が神様に届いているかはわからない。しかし、このくらいの特典付けて貰っても、まだ足りないのが本音だ。


「わかった。では行ってもらえるな『異世界』に?」


「了解です。ちなみに魔王討伐の成功率何%くらいとお考えですか?」


「正直、現在は5〜10%じゃ。

 頼むぞ勇者よ。君の努力次第では100%成功も夢では無い。」


「そうですか。でも成長などを考慮すれば伸びしろはまだまだあるって事ですね。

 あ、あと前任者などはいるのですか?」


「数年ごとに、適正者を一人ずつ送り込んではいる。

 だが皆、無理じゃった。」


 んじゃ0%じゃねーか。どっち選択しても、死ぬのが早いか遅いかの違いじゃねーか。


 ま、でもやって死んだほうがポジティブでいいかもしれないな、と俺は思う。



「そうそう、勇者特性の他に一つスキルが付与できるが、何を所望する?

 例えば魔力の限界突破やら、相手へのダメージ2倍、弱点特効など一つ付けれるんじゃが。」


 俺は「うーん」としばらく考えた。

 何が旅に1番必要か、剣か、魔法か…。


 そして「はっ」と閃いた。

 情報だ、見ず知らずの世界で対象の事がわかりやすい情報スキルが欲しい。

 特に前衛で戦う気はたぶん無いし。


「神様、でしたら情報スキルをいただければと思います。

 今目にしてる物の情報が、アニメや映画みたいに小さい画面として空間にポワっと浮かんでくるアレみたいなヤツです」


「え、え、え、普通攻撃とか、そういうのにバフかけるんじゃないの?

 それに、そのスキルは、その世界じゃ鑑定スキルと言われとって、まあまあよくあるスキルじゃよ」


 もう少し考え直せと神様の態度は言っていた。しかし俺の中ではこれしかない。

 情報こそが一番の武器なのだ。


「それでは『神様製の特別な鑑定スキル』でお願いします。」


 神様もやっと折れて、渋々承諾したみたいだった。


「では、佐藤トシオ(47歳 独身 会社員)よ、世界を託したぞ…」


 視界が少しずつ狭まり、少しやつれた表情の神様の顔がどんどん遠くなっていくのがわかった。




 段々と薄れゆく意識の中で、とてつもなく重要な事を思い出してしまった…。






 幼馴染のお節介焼き美少女をお願いするの忘れとったァ!!

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