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第16景 飯盒の肉を勧める兵隊

 その兵隊さんの毛布には『日高清介ヒダカ・セイスケ軍曹』と書いてありました。


「肩の貫通銃創」で筋肉が破断して左腕が動きません。

日高さんも鳴海さんと同じ様な経験をしたそうです。

それは、獣道ケモノミチで出会った『井上』と云う兵隊さんの話でした。

その兵隊さんは奇妙な事に、いつも日高さんより前を歩かなかったそうです。


 小休止した時のお話しです。


井上は腰にぶら下げた飯盒の蓋を開けて、肉の塊りを日高さんに見せてくれたそうです。

そして、


 「これは野豚の肉です。柔らかくて美味いですよ」


と言って日高さんに勧めたそうです。

肉は桃色でとても旨そうな肉だったそうです。

暫く肉などにお目にかかった事の無い日高さん。

生唾を飲み込んだと言ってました。

遠慮なく早速、バナナの葉で包み、蒸し焼きにして食べたそうです。

井上が、


 「どうです? 旨いでしょう」


と聞くので、


 「うん! 久しぶりに本物の肉に有り付けた」


と答えたそうです。

すると井上が、


 「ここが一番、ウマイい所です。食べてみて下さい」


と言って指をさしたそうです。

日高さんは遠慮なく食べてみたそうです。

すると井上が、


 「これは『レバー(肝臓)』です。ここも旨いですよ。獲れたてだから生でも食えます」


小刀コガタナで切って日高さんに勧めて来たそうです。


 「レバー?」


日高さんは、井上の肉の部位の話が少しずつ変化して行くので、変だなと思いながら井上の入隊前の仕事を聞いたそうです。

すると、


 「自分は内地で西洋料理のコックをやっていましてね。これはブタと同じ味です」


と言ったそうです。


 『ブタと同じアジ?』


日高さんは一瞬、井上の顔を凝視して、蓋の上に置かれた肉を見たそうです。


 「ブタと同じ? 『ブタとオナジ』・・・? 」


日高さんは井上を見て、


 「これは野ブタの肉では無いのか」


と聞いたそうです。

すると井上は日高さんの顔を見て、不気味な笑いを浮かべたそうです。

日高さんは蓋の上の肉を放り投げて、一目散に井上の前を走り去ったと言ってました。

井上は暫く日高さんを追いかけて来たそうですが、諦めたのかジャングの中に消えて行ったそうです。


 『ニューギニアのジャングルの獣道ケモノミチには人の肉を喰らう日本兵(獣)が沢山、居る・・・』


日高さんは、


 「あれは兵隊では無い。人間の皮を被った化け者だ」


と話してくれました。

化け者と化し、地獄の山中を彷徨サマヨミジメめ極まりない兵隊さん達。

私はその化け者に変わり果てた『壊れた兵隊』さん達は、その後どうなってしまったのか・・・。

 もう、やめましょう。こんな話。


 日高清介 陸軍軍曹(昭和十九年東部ニューギニアにて戦死)

 井上正吉 陸軍上等兵(昭和十九年東部ニューギニアにて行方不明)

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