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―挑― 02:サビクとドミニク 後編


「発注していた義足が届いたが、どうだ?」

 どうだと、問われても。

 無骨な義足はマギナの装甲よりも遥かに安っぽいものだった。もっといいものが作れただろうに、彼女の価値はその程度ということだった。

 いっそ、父親に言ってみるべきだろうか。それくらいなら許して欲しいが、きっと受け入れてもらえないだろう。だが大事な友人のことなのだから、もっと純度の高い素材を使えばと思ってしまう。


 結局、自分にはなんの力もない。


 ただ流されるまま。自分の父親が国王だと言われてもピンとこなかったのに、そのまま勝手に軍に所属させられ、肩身の狭い生活を強いられることになった。

 誰も恨んでいないが、無力感に(さいな)まれる。

 サビクの素性を知っている軍医のドミニクの指示によって、フィフィは一時的に戦闘に出さないことになった。元気な姿を見ているので安心していたが、彼女は妹の見舞いに一度も姿を現していない。

 おかしいと思って探ったが、たかが整備班の下級兵士たちにはどうにもできなかった。面会を申し出ても、迷惑そうに断られるだけだった。

 ドミニクが指示をしたということだからと、サビクは検診のたびに彼女に尋ねた。

「フィフィさんは元気なんですか?」

「元気だよぉ?」

 かかかと笑うドミニクのことが、サビクは苦手だった。ルルゥを放置していた一人でもあるので、嫌悪感すらある。

 ハンドラー適性があることを隠すために、ドミニクだけがサビクの健康状態を診ていた。秘密を握る彼女はいつも上機嫌で、確かに話しやすい。

「フィフィさんはどこにいるんですか?」

「ポルックス妹の敵討ちだ~って騒いでたから、安静にしてもらってるよ」

 違和感がずっとあった。




 そして。あの、曇天が真っ二つに割れて蒼い空を見た日を境に、サビクは自分が変化したことに気づいた。

 人間でありながら、今までの人間とはまったく違う感覚。これ以上、ソチラに踏み込めば、戻ってこれなくなるという危機感。

 だが鋭くなった感覚で、ドミニクの異常性に気づいてしまった。あの女はやはりまったく信用ならない。

 できるだけ調べたが、ドミニクは巧妙だった。実際の年齢すら誤魔化しているだろうに、こんな軍の中に平然と潜り込んでいる。

「フィフィさんをどこにやったんですか! なぜ彼女は帰ってこないんです!?」

 調べた彼女の素性の欠片が記載された書類を手に詰め寄った。自白させられないのは承知していた。彼女の方が上手(うわて)だ。

 サビクは素性が明かされてはいけないこともあり、深夜に訪ねることもある。こうして、夜間の時間にも。

 ひと気のない時間帯を見計らっていたのだが、ドミニクはいつもの調子では……なかった。


「しつこいなあ」


 彼女はそう言ったのだ。

「あんなニセモノのことを毎回毎回、飽きないってのがすごいよ感心するさ。ポルックス妹のほうと仲が良いって聞いていたから、さっさと交尾してくれないかな~って思ってたんだけどさ」

「…………」

 血の気が引いた。

 こんなにあからさまに態度が変わるということは、もうすでに。

 どくどくと己の心臓の音がうるさい。

 机に向かっていたドミニクが、回転椅子を動かしてサビクのほうを身体ごと向いた。憎悪というよりは嫌悪の瞳だ。

「ポルックス姉よりもハンドラー適性が上なんだからさぁ、ポルックス妹を支配下に置けるんじゃないかな~って思ってたんだけど、簡単にはいかないもんだよ残念残念」

「……フィフィさん、は」

「あの豚のこと? 殺そうかと思ってたんだけど買い手が見つかったから売ったよ~」

 あっけらかんと言われて、思考が追いつかなかった。

 呆然と突っ立っているサビクの手から、ドミニクに関する書類が落ちて床に散らばる。想像以上の相手に、サビクは冷汗が出た。

「あ~、でもヨリルアが横槍入れてきたから、今頃もう燃料として死んでるかもなあ」

 かかか、と、高く笑う。

「テラスト国のハンドラーを手に入れる為の前準備なのかもしれないがねえ、あのハンドラーには強力な護衛がついててわしらも手を焼いてるから捕まえてくれるなら助かるんだがねえ」


 逃げるべきだ。

 本能が告げている。

 逃げるべきだ。

 でも。


(オレは、)

 オレは。


(ルルゥみたいに、なりたい……! 挑む勇気をここで、使うべきだ!)


 友情なのかそれとも恋慕なのか曖昧な気持ちだが、彼女を尊敬している。大切なひとに相応しくあろうと、己を高める向上心がとても眩しいから!

「ぶんぶんぶんぶんと、嗅ぎまわって満足したかね? 妹のほうも出荷の準備は進めてるからね。あんたはやっぱ」

 ひゅ、と風切り音がした。

 頭に衝撃が走り、痛みに視界が機能しなくなったと同時に勢いよく(そば)の壁にぶつかってから床にそのまま崩れ落ちた。


 なぐられた。


 うまくみえない視線を動かす。

「やっぱりその目、あの方に似てて殺さないと無理だわ。むりむりむりむり。似てもないのに、なんでこうも既視感があるのかねえって調べたんだけど、他人の空似みたいだったし。

 うるさいから、もう死んでいいよお」

 振り下ろされる金槌(かなづち)。後ろ手に隠していたそれで容赦なく殴ってきたようだ。

 抵抗らしいものもできずに、二撃目を頭に食らってしまう。しぬ。これはしぬ。

 いやだ。いやだしにたくない。なにものこせずに、なにもやくにたてずに、しにたくない……!

 渇望と恐怖の入り混じった中、サビクは三度目の殴打に意識を失った。



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