―挑― 01:サビクとドミニク 前編
ズベン王家の血族の中には、時々不思議なこどもが生まれる。
王家の血筋を気高いと言う者もいる。その特別な血があることが、王の証なのだと。
王は三人の息子たちの中に、その特別な力を持つ者がいないことに嘆いた。
民から羨望を集める王は、国のためにもっともっと、よい王を選びたかったからだ。
しかし王はその『特別』がなんなのか知らない。
王は海の果てにぽつんと住んでいる墓守を城に呼び寄せた。
墓守は蝋燭の入っていない角灯を片手に、王の前に姿を現した。
王は墓守に尋ねる。
選ばれし子どもの特徴を教えて欲しい。
墓守は王に応えた。
おまえたちは、なにも特別ではない。
選ばれし者などではない。
少しだけひとと異なる力があったくらいでなにが変わるというのか。
そんなものがなくともおまえは王だ。
だがおまえたちは尊くなどない。
おまえたちもその辺りに這いつくばる民も、同じ生き物である。
墓守は王の前で不気味に笑う。
血になんの意味がある? 種が遺ればそれでいいのだ。真に選ばれし者は民の中から無作為に現れる。それは世代を超えて、次なるひとになる為に選ばれた存在だからだ。
繰り返し繰り返し、時には劣化し、時には進化し、さらに良いものへと、さらに善きものへとひとの中から生み出される存在が、次へ繋げられる存在が、まことに尊いのだ。
そこで驕るならそれは選ばれし者でなく。
そこで慢心するならばそれは次へ繋ぐ資格を奪われる。
王よ、あなたにはその資格がない。あなたは選ばれていない。王になった時点であなたは選ばれていない。
あなたはここで朽ち、消えていく。
墓守は低く笑い、そしてその声を響かせながら景色にとけるように消えてしまった。
トゥラーザ王国伝承詩『王と三人の王子』より
*****
サビクはドミニクに詰め寄った。
「フィフィさんをどこにやったんですか! なぜ彼女は帰ってこないんです!?」
ルルゥが目覚めた。もたもたしてはいられない。早くフィフィの行方を聞き出さなくては。
両の膝から下の足を、彼女は失った。義足をつけなくてはならないが、あんな姿でまだ戦うと言っており、サビクは心臓が締め付けられる思いだった。
彼女は兵士なのだから、怪我をするのは当然だ。覚悟はしていたし、それほど衝撃を受けるとは思わなかった。…………そう、彼女の姿を目にするまでは。
ぼろぼろの姿で眠り続けるルルゥを見た時、持って行った花束を床に落としてしまった。
狭い病室で点滴を受けながら、彼女は昏々と眠り続けていた。大怪我をして戻ってきた時、サビクはいつも通りに工具箱を片手にしていた。
テラスト連合国に攻め入ったと聞いた時は、指揮官はどうしようもない馬鹿だと思ったほどだ。「国境線の悪魔」と呼ばれる撃墜王がいるということは、下級兵士の間では有名だった。内陸の国であるはずのテラスト連合国の国境の防衛戦にだけ現れる、悪魔の化身のようなマギナ。
識別証がテラストのものであるだけなので、他の機体と性能が変わらないはずなのに、その機体によってどの国の部隊も壊滅させられていた。
噂では、かの国に数年前に現れた死神がそれに乗っているのではとも言われていたほどだ。乗っているのはテラストの正規ハンドラーらしいし、女性らしいので違うようだが。
自国であるトゥラーザは他の国との駆け引きや、度重なる戦いでかなり疲弊していた。帝国ほど人口は多くないし、ヨリルア国ほど豊かでもない。それでも戦えていたのは海路によって97の國から鉱石を輸入していたからだ。純度の高い鉱石は、ハンドラーの接続状態を良くしてくれる。
マギナの性能は、やはりウラノメトリアの含有率だ。だからこそ、満を持して攻め入ったのだろう。準備もして。
しかし戦略も、兵器も、優れたものを用意したところで意味などなかった。
たった一機がすべてを覆すなど、もはや戦争とは言えない。もちろん、そのマギナだけが理由ではない。あまりにもそのマギナが、ハンドラーが目立つから……どうしてもそこにばかり目がいってしまうだけだ。
そしてフィフィとルルゥは、万全の状態で戦いに向かった。
それを、サビクはよく知っている。
それなのに彼女の部隊で生きて戻ってきたのは、ポルックス姉妹だけ。一人は満身創痍だった。こちらの国のマギナはすべて大破し、回収すらできなかった。
いつものように、また作ればいい、さらに純度の高い鉱石を使えばいいと、そうはならなかった。
国一番のハンドラーは無事ではあったが、その補助をしていたラヴァーズがありえない怪我を負ったからだ。彼女はラヴァーズスコアが桁外れだった。どこがどう優れているか、サビクにはさっぱりわからない。人間の身体には詳しくないのだ。
それでも、あんな状態で戻って来るとは思っていなかった。
「あの子の友達でしょ。お見舞いに行ってあげて」
たった一人、どこも失うことなく戻ってきた彼女の姉は、無理に笑顔を作ってサビクにそう言ってきた。「わかりました」と返事をしたが、役立たずな自分を恥じるばかりだった。
見舞いに行けば行くほど、遣る瀬無い気分になった。
ルルゥを標的にしていた男たちは高位貴族ではあったが、ポルックス姉妹が戦場に行けない時間を凌ぐために戦地へ赴いている。あれほど余裕で彼女をいたぶっていたくせに、いざ自分たちが戦場に向かうとなるとそれどころではなかったようだ。
優秀なラヴァーズを手に入れたところで、無事に帰れる保障はない。
ヨリルア国の代表ハンドラーのように、大勢のラヴァーズを連れて戦うのならばいいだろうが、この国はあの国ほど親和性の高いラヴァーズが多くない。
一人の命で一度の出撃。戦闘が長引けば、ハンドラーの命が危険に晒される。
マギナは複雑なマシンではない。量産品のため、ハンドラーでなくとも無理に乗せて出撃させることは可能だ。だが役に立たない兵士は必要ない。せめて敵国の戦力を減らすくらいはしてもらわなければ。
軍部にいる叔父は頭の回転が速く、冷徹な人物だった。サビクが幼い時にものの数回しか会ったことはなかったが、甥だからという理由もあって素性を隠して整備班のほうへ回された。戦場に出ずに生活するのだから、叔父なりの考えがあったのだろう。
ルルゥのことに関して名を伏せて相談をしていたが、叔父はきっと知っていて放置していたはずだ。結局、どんな男が相手でも彼らのスコアは一切上がらなかった。そうなれば、男たちは用済みとして戦場に送り出されるだけだ。
偉そうにふんぞり返っていた者たちが、今や戦地で怯えているかもしれないと思っても感情は揺らがない。
ルルゥ編の捕捉になる、サビクの物語「挑」です。
全4話になります。




