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―戦― 09:過去回想 トゥラーザ国軍ールルゥとサビク 後編


「お姉さんのことが大事なんですね」

「……姉さまに手を出したら殺すから」

「滅相もない。オレなんて相手にもされてません」

 確かに、姉の理想の男と真逆ではある。いまだに姉はサビクの名前を間違えているし、憶える気もない。

 道具を全部片づけてから、サビクが姿勢を正した。

「お待たせしました。ラヴァーズを収納する箇所ですが、点検終わってますので確認をお願いします」

 すべての道具が揃っているのを確認したから安全だとでも言わんばかりの顔だ。

「……ワタシの数値って、あなたから見てどうなの?」

「どう? とても高いと思います。ラヴァーズスコアも、シンクロリンクもかなり高いですよね」

「姉さま以外のハンドラーとだと、こんな数値が出ないみたいだけど」

「当然じゃないですか? あなたより能力が低いわけですから」

「姉さまはあいつらより能力が高いってことよね?」

 尋ねると、サビクは戸惑ったように瞳を泳がせた。

「どうしたんですか?」

「べつに。姉さまは優秀なのにと思っただけよ」

 ルルゥの返答にサビクは柔らかく微笑んだ。

「お二人は相性がいいから、いい数値なんですよ。自信を持ってください」

 数値。

 マギナに乗せるラヴァーズのことも考えれば、整備の者たちが自分たちの数値を知っていてもおかしくはない。おそらくサビクは、あの男たちの数値も全部把握しているのだろう。

 ハンドラースコア、ラヴァーズスコア、そしてハンドラーとラヴァーズの相性の数値である、シンクロリンク。どれも十段階で分けられているものだが、クラス・(テン)の者など見たこともない。

 姉はかなり高めではあるクラス(ファイブ)だが、魔女のアネモネの記録は(セブン)だ。そして七の数値を出した者は、彼女以外にいない。あの数値まで行けば、だれも姉を(あなど)らないのに。


「相性ね。双子だからかしら」

「双子だからという理由はないと思います。その理屈が通れば血縁関係ならシンクロリンクが全員高くなりますよ」

「それもそうね」

 ハンドラー適性が、一族全員にあるわけではない。しかしこの男、やはり詳しい。

(ドミニクが教えてくれないことも、知っているかもしれないわ)

 姉の数値を上げられるかもしれない。でもそんなことが、本当に可能なのだろうか?

 下がることはあっても、上がることなど……。

 ルルゥがマギナを一瞥(いちべつ)する。すっかり修復されているマギナに、嘆息してしまう。

「あの、どこか変ですか?」

「いいえ。あなた、腕はいいのね」

「まだ勉強中です」

「……マギナが好きなのね」

 サビクは少し驚き、それから視線を伏せた。

「嫌いでは、ないですね。戦う以外のことにも使えそうだし」

「戦う以外?」

「これほど大きいなら、色んな用途に使えると思います。長距離の移動とか、運搬、それに有効活用すればもっと色々あるはずなので」

 ぱっと明るく笑うサビクに、思わず少し()()る。こんな反応をされるとは思わなかった。


「そんなことできるわけないでしょう? 動力のことがあるもの」

「そうなんですけどね。動力の問題さえなんとかすればとは思うんです」

「ハンドラーに運搬作業をしろと?」

「ち、違います! それにマギナは軍の管理下にありますから……思ってるだけです」

 古いマギナは解体されて、新しいマギナへと転用されるらしいけど……軍の目を(のが)れて使っている連中はいる。紛争地での戦闘や、略奪に使われることもある。

 軍用以外で使用の許可はないので、フィフィとルルゥたちは要請があると制圧のために出撃をする。マギナという巨大なマシンに対抗できるのは、マギナだけだ。

 ハンドラー適性のある人間が勝手に乗っているが、軍のハンドラーのほうが能力が高い。しょせんは烏合の衆に過ぎないのだ。野生のハンドラーなんて相手にもならない。


「ならいいわ。ワタシたちが普段、なにをしているのか忘れているのかと思った」

「あぁ、遠征にはさすがについて行けませんから……」

 遠征場所から近い基地に留まる為、そこの整備士に全面的に任せることになる。サビクのような新人は、この本部に居残りになるのだ。

 鎮圧に出て行って、戻らないハンドラーも中にはいる。ラヴァーズは九割の確率で戻らないが、ハンドラーだって全員が無事に戻って来るとは限らない。

「なにを他人事な……。あなたはワタシたちの専属なのでしょう? いつかは一緒に遠征先に行くのよ?」

「…………そ、そうですね」

 苦いものを()み込んだような、悲痛な笑みだった。

「なによその顔」

「いいえ、光栄なことだと思っただけです」


 絶対に嘘だ。


 そう思ったが、口には出さない。もしや、遠征に行きたくないとか? ルルゥだって遠征に行くのは好きではない。

「そうですね。そうなった時のために、もっとたくさん勉強しておかないといけませんね」

「そんなに勉強することがある?」

「ありますよ。遠征先に修理できる部品が必ずあると保障されているわけじゃありませんから、そういう時はオレたち技師の腕の見せ所になりますしね」

「……部品?」

 マギナは中が空洞だ。外側だけ組み上げればいいのだから、そこまで複雑な作りにはなっていないはずなのだが。

 納得できないルルゥの態度にサビクは「ふふ」と笑った。

「マシンほど複雑ではありませんけど、マギナは特殊なんです。同じマシンですけど、修理をするのもコツが必要なんです」

「…………そう」

 興味がない。

 ドミニクが自慢していた小さなマシンのことを思い出した。確かにあれは、どういう仕組みなのかさっぱりわからなかった。

「あなた、マギナより、小型のマシン作りのほうが仕事に向いているのではなくて?」

「あはは。あんな複雑なもの、少し勉強したくらいじゃ仕組みはわかりませんよ。高価なものしか使われていないから、まずは組み上げる部品を集めるのに時間がかかります」

「そうなの」

「代用できるものも限られていますからね。マギナの装甲をつくったほうが、儲けになります」

「現実的ね」

「みんな資源不足で悩んでいますから。オレにもそういう方面で才能があれば良かったんですけど」

「ワタシから見れば、才能があると思うけど?」

 他意はまったくなかった。

 ルルゥはマギナの(てのひら)に足をかけた。だから見ていない。

 サビクは作業着の胸元を軽く握り、嬉しそうにはにかんだのを。




 星歴(せいれき)3002年の、万朶(ばんだ)灰簾(かいれん)。出会った頃は互いに十五歳くらいだったのに、と思い返すほどには共に過ごした。

 サビクはこちらとの距離を詰めてくれた。呼び方も、姉には相変わらず「ポルックスさん」ではあったが、ルルゥのことは「ルルゥ」と呼んでいた。

 いつまでも同じ「ポルックスさん」だと、どちらを呼んでいるのかわからないからそれでいいと思っていた。


 姉は彼の名前をいまだに間違える。もう三年ほどになるだろうに、と呆れてしまうが興味のない相手に対してはそうかもしれない。

 なにも変わらない日々のはずだった。

 消えていくハンドラーの数。けれども一定の時間が過ぎれば補充される。

 だから。

 戦争が始まると聞いて、驚いた。

 世界会議に姉と一緒に出席した際に、物珍しいものはないと判断していた。息苦しい奇妙な島ではあったが、集まった者たちは全員、敵になりそうな者はいないと(あなど)ってしまった。

 ()()、べきだった。

 そうすれば、テラスト連合国のハンドラーがいかに危険なものか、判断できたはずだ。いつものように、感覚を閉じていなければ。

 しかし「見た」ところでなにか変わっただろうか? あのハンドラーを避けたいと言ったところで、誰が聞き入れてくれるだろう?



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