―戦― 05:過去回想 トゥラーザ国軍ー姉のラヴァーズ
きんいろの雨の降る世界。この世界に満ちる、災いのいろ。
マギナに乗り込めば、その感覚がさらに鋭くなり、見たくないもの、知りたくないものまでもを知覚してしまう。
十五で軍の所属になった双子の姉妹。好奇の視線に晒されたポルックス姉妹はトゥラーザの国軍の一員となった。
たった十五年の貴族生活とはまったく違うものに、成った。
軍には男がうじゃうじゃいた。彼らはルルゥの視界には、汚物として映っていた。女の胎を使わねば子孫を残せないのに、人間という生物の中では尊大で傲慢な者たちが多い。
きたない。きたないきたないきたない。
息苦しい生活の中で唯一救われるのは、姉の存在だけ。清涼剤の姉は今日も輝いてみえる。姉を守りたい。姉さえ無事ならいい。姉が幸せならそれでいい。
ルルゥは姉の専用ラヴァーズとしてマギナの動力となった。
ラヴァーズには代わりがたくさんいる。ハンドラーと違って、適性水準は低い。けれどその中に、一握りの優秀なラヴァーズがいる。
「ルルゥ」
名を呼ばれて、ルルゥは振り向いた。
軍にとって大事なのはハンドラー。ラヴァーズは使い捨ての動力。
ハンドラーにとっては、優秀なラヴァーズは喉から手が出るほど欲しいものだ。自分の専用ラヴァーズは、能力を底上げしてくれる。
ルルゥはトゥラーザ軍でも稀有なラヴァーズだった。ラヴァーズスコアはこの国でも最高値を叩き出すほどに。
妬みは姉のフィフィに向けられていた。姉妹というだけで自然と二人は組んでいたのだから。
紫色の軍服の男たちが不快な笑みを浮かべた表情でルルゥを見ていた。能力の低い男たちは、動力の女たちに目をつける。トゥラーザ国は五大国の中でも一番弱い。国の領土は砂漠が多く占めているため、紛争は他国に比べると少ないほうだ。貧しい国であっても、五大国のひとつと呼ばれるほど領土は広い。まだマシな国とされている。
ルルゥは他の国へ行ったことはない。どうせ他国も同じようなものだろう。貧しく、資源の奪い合いをし、階級制度に従う人々は優劣をわざわざつけて矜持を守る。
こうしてこちらを見る男たちは貴族だ。平民は貴族の家名を持ったままの女性軍人に声をかけない。
貴族とはなにか。家門とは、家名とは本当に人間社会に必要なのだろうか。
誰かと比べて、見上げては羨み、見下ろしては蔑む。ルルゥにとっては男はみな、不愉快な存在に過ぎないのに。
立ち止まっているルルゥに彼らは近づいてくる。あぁ、本当にどこにでもこういう男たちはいるものだ。
馴れ馴れしく肩に手を回してくる者もいれば、逃げないように囲いの役目をしている者もいる。逃げれば姉のほうを狙うと脅すくせして、どこまでも狭量なものだ。自分よりも弱い存在にはどこまでも尊大で鬱陶しい。
「また愉しもうぜ」
みんなで。
(みんな? ワタシはまったく、たのしくない)
おまえたちにワタシはどう見えている? 行為を愉しんでいるように見えるなら、どこまでもめでたい頭をしている。それともそういう妄想を常にしているのかもしれない。
(ハァ……人間て本当にいつでも盛ってて節操がないってことを自覚できないのかしら)
生物としてどうなのかと疑問になってくる。でも。
(生きてる意味をわざわざ考えなければ、生きられないって人もいるくらいだし……こういう奴らも最低限必要なのかもしれないわね。汚らしい自覚のない、軽蔑すべき人間が)
汚いものがあるからこそ、美しいものの存在がより尊くなる。
ああ、本当に……姉が彼らの目につかなくてと良かった。こいつらはワタシを手に入れれば優秀なハンドラーに近づけると思っている愚か者たちだから。
色んな人間がいるように、色んなハンドラーがいる。ルルゥはゆっくりと瞬きをした。その目に映っていた黄金の光が見えなくなる。
感覚を閉じてしまえば、このような芸当もできる。
ルルゥは男たちに促されて歩き出す。ひと気のない場所はいくらでもある。姉に気づかれないなら、それでいい。下卑た笑い声に囲まれるのも初めてではない。
星歴3001年、軍に配属されてからまだ一年と経ってはいない。




