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悪役令嬢はお姉様と呼ばれたい!  作者: 春乃春海
第二章 悪役令嬢は次期当主を目指す
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48. 婚約④


「このタイミングで婚約とはね……」


 翌日、勉強部屋にセドリックを呼び出した私は机に頬杖をつきながら盛大なため息を吐いていた。


 予定を狂わされたお陰で、今後の運営について計画を練り直ししなければいけなく、朝早くから勉強部屋に篭っていた。

 ちなみに午後はパーティに着ていくドレスについて商人との打ち合わせの予定となっている。

 幾ら時間があっても足りないくらいやることがあり、婚約話を持ってきたお父様達を恨むしかない。

 

「イルダが奥様の侍女から聞いた話ですが、どうやらグレースお嬢様が領地運営を学ばれていることが奥様の耳に入ったようです。事業のどこまで関わっているまでは知らないようですが、少なくともハインツと組んでいることは知られているようです」

「……そう」

「気をつけてはいたのですが、申し訳ございません」


 セドリックが謝るが彼の所為ではない。


「いいのよ。遅かれ早かれ、こうなることは予期できていたもの。ただ、思っていたよりも早かっただけのことだわ。婚約についても、元々、お継母様は私やミラを外に出そうと考えていたみたいだったし」


 私の言葉にセドリックは顔を顰めて頷いた。


「私もまさかこんなに早く婚姻のお話が来るとは思ってもみませんでした。そもそも、奥様が屋敷に来た当初はグレースお嬢様をルイ様と結ばせて、ルイ様を正式な跡継ぎにと考えていると聞いておりましたし」

「例の使用人たちの噂話ね。まぁ、実際そういう考えもあったでしょうね。それが一番外聞が悪くないもの。でも、私が領地運営に関わっていると聞いて、舵を変えたのでしょう。領地や屋敷のことで私にとやかく口出しされるのを嫌厭したのね」

「恐らくは」

  

 そうさせないためには、私が文句の出ない相手に嫁がせるのが一番手っ取り早い。

 パトリシアの戦略は見事なものだった。


「……婚約相手がどこぞの下級貴族なら打って出る余地があったかもしれないけれど、相手が王族となれば断ることもできないものね」


 たまたま王子に繋がる縁があったのか、それとも王宮側から打診があったのかわからないが、王族を結婚相手に持ってくるなんてそうそうできるものではない。


 運が味方をしたのかわからないが、パトリシアにとってはこの上のないチャンスだ。お父様を言いくるめ、婚約の話を勝手に進めて、その上支度金を懐に入れた。

 さぞかし気分の良いことだろう。

 ここ数日の彼女の上機嫌さを思い出し、私は眉間の皺を濃くした。


 ーー本当、憎たらしい相手だわ。


 心の中で憤慨していると、ドアがノックされ、侍女のマリアが顔を覗かせた。


「お嬢様。そろそろ、商人の方が来られる時間です」

「わかったわ。ちょっと待ってちょうだい」


 マリアに廊下で控えているように命じると、改めてセドリックに向き直った。

 

「とりあえず、計画していたお茶会は中止。当分の領地事業についてはセドリックとハインツに任せるわ。何かあったら知らせてちょうだい」

「お忙しくなりますな」

「本当よ! 幾ら時間があっても足りないわ!」


 私はセドリックに後のことを頼むと、廊下で控えていたマリアと合流した。


「衣装部屋でいいのかしら?」

「はい」


 屋敷の中を歩いていると、あちらこちらから人の掛け合う声が聞こえてくる。

 何だか屋敷全体が慌ただしい空気に飲まれているようだ。


「はぁ、本当急なことで嫌になっちゃうわ」


 何度目になるかわからないため息を吐くと、後ろを歩いていたマリアが不思議そうに言った。


「……お嬢様はため息ばかりですね。婚約者が王子様と聞いて、嬉しくはないのですか?」


 率直なマリアの質問に私は目を瞬いた。


 確かに婚約相手がこの国の王子と聞けば、大抵の令嬢は小躍りして喜ぶことだろう。伯爵家の立場としても王族と繋がりを持つこの上ない機会だし、お父様やパトリシアのように浮き足立つのが普通だ。

 私だって前世の記憶がなければ喜んだことだろう。

  

 しかし、ゲームのシナリオ通りならば、相手は私を破滅に導く死神のようなものだった。


 ――アルフレッド王子はグレースではなく、ミラの攻略対象者。

 ゲームの中では結ばれることのない相手であり、そして、私を断罪する婚約者でもあった。


 そんな王子と関わりを持つのは危険すぎる。

 だから何としても婚約は避けたかったのだけど……。


 しかし、そんな未来を知らないマリアは、私が浮ついていないのが不思議なようだった。


「あら? 相手が王子なら私が喜ぶとでも? 政略結婚よ? 親が勝手に決めた結婚に喜べって言うの?」

「でも、王子様ですよ? 女の子なら一度は想像する理想の相手じゃないですか?」


 マリアはうっとりと想像して目をキラキラと輝かせた。


「マリアは夢見がちなのね。王子と結婚すれば幸せな未来が待っているなんて、おとぎ話の中だけよ」

「まぁ、お嬢様ったら、いつからそんなに現実的になったのですか? あ、わかりました。ナーバスになっているのですね。そうですよね。突然、婚約だなんてビックリですものね。流石のお嬢様でも不安になりますよね。ウフフ。お嬢様も可愛いところありますね」

「……」


 後ろで好き勝手に言い出すマリアに私はこめかみの辺りをひくつかせる。


「……マリア? あんまりうるさいと側付きを外すわよ。お城には別の侍女を連れて行こうかしら?」

「そんなっ!黙ります。黙りますから、連れて行ってくださいぃ」

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