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悪役令嬢はお姉様と呼ばれたい!  作者: 春乃春海
第二章 悪役令嬢は次期当主を目指す
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47. 婚約③


 スンと澄ました顔で、さも当然と言うようにパトリシアはミラに冷たい視線を向けた。


「……えっ」

「あら? ルイは私の子だから当然連れて行きますけど、貴女は婚約とはなんの関係もないでしょ? 部外者は連れて行けません」

「そんな……」


 青ざめたミラは、お父様に助けの目を向けるが、お父様はそっとその目を逸らした。


「――っ」


 ――な、なんてこと!?

 シンデレラの話のようなことが起こっているわっ!


 私は目の前で繰り広げられている光景にドン引きしつつ、確かゲームの内容にも継母に虐められてきた供述があったことを思い出していた。


 なるほど、こうやって事あるごとにミラを蔑ろにしてきたわけね。

 まさにパーティに連れて行ってもらえずに、一人で留守番をするシンデレラじゃない。

 もっともゲームでのグレースは、継母に加担し、一緒になってミラを苛めていたわけだが……。


 ――残念ながら、今の私は意地悪な姉じゃないの。そんなこと絶対しないんだから!寧ろ、ミラの為ならなんだってするわ!

 可愛い妹の為のなら、一肌でも二肌でも何枚でも脱ぎましょう!


 私は茫然とするミラの代わりに、パトリシアを睨んだ。


「お継母様。お言葉ですが、ミラも立派な伯爵家の一員です。部外者なんかではありませんわ。伯爵家の血筋を受け継いだ私の妹です」

「――半分だけね。もう半分は田舎貴族の血じゃない」


 きぃ! この女っ!

 よくもまた可愛いミラを侮辱してくれたわね!

 少し前まで平民だった女がよくもぬけぬけと!

 

 頭に血が昇ったが、しかし、ここでそんなことを口にしてパトリシアを逆上させるのは非常にまずい。口から暴言が飛び出しそうになるのを堪え、私は自分の意見を主張した。


「ミラだけ仲間外れなんて嫌です。主賓は私のなのですから、私の要望は通されるべきですわ」

「でもねぇ。ドレスとか出費もあるし、この子にそこまで使う余裕なんてないわ」


 ――その懐に入れた支度金を返してから言え!


 少し前の私だったなら、手を出していただろう。

 私は怒りに震える拳をギュッと握り締め、なんとか堪える。


「ドレスが何だと言うのです? そこまで言うならドレスは私のものを貸します。それで文句はないでしょう?」

「でもねぇ」

 

 ――ぐぬぬ。


 それでも渋るパトリシアはよっぽどミラを除け者にしたいのだろう。なかなか首を縦に振ろうとはしなかった。


 私は考えを巡らせた。

 正攻法ではダメだ。

 なら、次の手よ。


 私はふっと体の力を抜くと、これみよがしにため息をついて見せた。


「……ふぅ。わかりましたわ」

「あら、わかってくれた?」


 嬉しそうにほくそ笑むパトリシアに、私は鷹揚に頷く。


「ええ。お城でのパーティなのにミラを連れて行けないなんて、本当に残念ですわ。折角、伯爵家に嫁いだお継母様の評判を上げるチャンスでしたのに」

「あら、どういうことかしら?」

 

 聞き捨てならないと言わんばかりにパトリシアの眉がピクリと動いた。


「だって、貴族の方々って噂好きでしょう? ただでさえリリーお継母様の葬儀から、それほど月日が経ってない中での再婚。もしミラだけ連れて行かなかったら、どんな風に見られるかしら? お継母様にどんな悪評が立つかわかりませんわ。ましてやそれが王室の方々の耳に入ったらと思うと……。私、とても心配ですわ」


 私の言葉にパトリシアの顔色が悪くなっていく。


「――でも、ここでミラを連れて行けば、どうでしょう? 前の伯爵夫人の子供も大事にする素晴らしい母親という目で見られますわよね」

「……」

「パーティに参加できれば私もミラもお継母様がいかに素晴らしく優しい母親か皆さんにお伝えできると言うのに、その機会をみすみす棒に振るなんて、本気に残念ですわ」


 大袈裟にため息を吐き、ちらりとパトリシアに目を向ければ、苦々しい顔を浮かべていた。

 そして。


「……確かに、貴族の目は大事よね。ありえない噂が広まって、私について変な誤解が流れるのは良くないわ。ーー仕方ないわね。今回は、特別にミラも連れて行くことにしましょう」

「あら、よろしいのですの?」


 私の勝ち誇った顔がよっぽど憎たらしかったのだろう。

 パトリシアはフンっと鼻を鳴らすと、そのままスッと立ち上がって、吐き捨てるように言った。


「連れて行くんですから、その分、しっかりと私の評判を上げるのよ?」

「ええ、もちろんですわ。お継母様。ミラも良いわよね」

「は、はい!」


 ミラが力強く頷く。


「……旦那様。お話は済みましたし、そろそろお開きにしましょう」

「そうだな」


 お父様とパトリシアが部屋から出ていき、私はふっと肩の力を抜いた。


 ――ふぅ。良かった。これでミラも除け者にならずに済んだわ。


 ホッと一息つくと、横から服の裾を引っ張られる。


「?」


 振り向くと、目を潤ませたミラが天使のような笑顔を私に向けていた。


「……お姉様。ありがとうございます」


 その可愛い顔といったら!

 くうぅ! 私の妹、天使っ!

 お継母様を説得して良かった!


 お姉様、ミラを守る為ならなんだってするからねっ!


「良かったね。ミラ」

「うん。ありがとう、ルイ」


 お互いホッとした様子で喜び合う妹義弟を眺め、私も口元を綻ばせた。


「さぁ、私達もそろそろ部屋に戻りましょう。明日から忙しくなるわよ」

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