第50話:【終末の楽園】唯一の神、唯一の生
いつも本作を読み進めていただき、誠にありがとうございます。
おかげさまで、日間最高 2,474 PV という驚異的な実績を背に、連載第50話という大きな節目を迎えることができました。
物語はいよいよ、外界が完全に消失した「無」の宇宙で、二人の狂愛が完成される瞬間を描きます。
聖女が「唯一の神」と呼ぶ存在に、魂の最後の一片まで捧げる姿を見届けていただければ幸いです。
虚無に浮かぶ離宮の中、時間の流れはもはや意味をなさなくなっていた。
外の世界を覆っていた漆黒は、いまや一つの確定した「無」へと完成し、この箱庭を包む静寂は、耳の奥で疼くような重圧となってエルサを支配している。
「……ゼノス様、外の景色が、また一段と澄んできましたわ」
エルサはテラスの手すりに身を乗り出し、何一つ存在しない暗黒を眺めて、うっとりと呟いた。
そこにあるのは、かつての帝国を飲み込んだ泥ですらない。
光も、物質も、重力さえもが等しく消滅した、絶対的な虚無。
だが、ゼノスの愛によって精神を再構築された彼女の瞳には、その「無」こそが、二人を永遠に引き裂くことのない完璧な障壁として、美しく映っていた。
ゼノスは背後からエルサを抱き寄せ、その華奢な肩に顎を乗せた。
「そうだね、エルサ。もう、私たちが愛し合うのを妨げる余計なものは、この宇宙のどこにも存在しない。かつて君が救おうとした『世界』という名の重荷は、すべて私が噛み砕き、虚無へと還してあげたからね」
ゼノスの手のひらが、エルサの腹部を愛おしげになぞる。
そこには、かつて聖女としての魔力を宿していた神聖な文様があったはずだが、今やゼノスの魔力が刻み込んだ、黒く、歪な、しかし彼だけが読み解ける「所有」の紋章が妖しく脈打っている。
「……はい。あの頃の私は、なんて不自由だったのでしょう。数えきれないほどの人間の声を聞き、その一人ひとりの命に責任を感じ、自分の心さえも切り売りして……。でも、今は違います」
エルサは、自らの自我がゼノスの存在に溶け込んでいく快感に、全身を震わせた。
今の彼女にとって、自身の心臓を動かしているのは、自分自身の意志ではない。
ゼノスが「生きて、私を愛せ」と命じているからこそ、血は巡り、肺は呼吸を繰り返す。
彼女にとっての生とは、ゼノスの欲望という名の鋳型に、自分の魂を流し込む作業そのものであった。
ゼノスは彼女を反転させ、その潤んだ瞳を真っ向から見据える。
「エルサ。もし私が、今ここで君に『死』を命じたら、君はどうする?」
残酷な問いかけ。
だが、エルサの顔に迷いや恐怖の色は微塵もなかった。
彼女は、最愛の神に最高の供物を捧げる信徒のような、至福に満ちた微笑みを浮かべた。
「喜んで、その仰せに従いますわ。……貴方様が私の死を望まれるのなら、私の存在はその瞬間に完成されるのです。貴方様がいない天界など、私にとってはただの虚無と同じ。貴方様の手で終わらせていただけるのなら、それは何よりの救済です」
その答えを聞いた瞬間、ゼノスの瞳に、狂おしいほどの情熱が灯った。
彼はエルサを押し倒すように抱きしめ、その首筋に顔を埋めて、獣のような低い呻き声を漏らす。
「ああ……エルサ、私のエルサ! 君だけだ。君だけが、私の狂気を完全に理解し、受け入れてくれる。……壊してしまいたい。君を、私の手で。そして、その亡骸すらも私の魔力で永遠に固定し、この宇宙に唯一残る結晶として愛で続けたい……!」
「……ええ、どうぞ、お好きなように。私は貴方様の箱庭に咲く、摘み取られるのを待つだけの花ですもの」
エルサは、ゼノスの激情を受け止めながら、意識が遠のくほどの悦楽に身をゆだねた。
彼女にとって、ゼノスの支配は「圧迫」ではなく「充填」であった。彼に奪われれば奪われるほど、彼女の空っぽな心は、彼の執着という名の猛毒で満たされていく。
外界の虚無の中で、離宮の光だけが、最後の一粒となって輝いている。
それは、正義も、慈悲も、神も、すべてを等しく殺し尽くした後に残った、たった一組の男女による、終わりなき自滅への賛歌だった。
「愛しているよ、エルサ。君の最後の一息まで、私のものだ」
「はい、ゼノス様。……貴方様が、私の、唯一の神様……」
重なる唇。
混ざり合う魔力。
二人の狂愛は、もはや後戻りのできない極致へと辿り着いた。
第50話をお読みいただきありがとうございました。
ついに世界が消滅し、二人だけの「閉じた円環」が完成しました。
「貴方様が私の死を望まれるのなら、私の存在はその瞬間に完成されるのです」
かつてのエルサからは想像もできないほど、彼女の精神はゼノスの色に染め上げられ、壊れきっています。
「節目にふさわしい狂愛っぷり!」「エルサの依存が限界突破している!」と思われましたら、ぜひ**【★評価】や【ブックマーク】**で、この狂った祝祭を応援してください!
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