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追放された万能薬師は、隣国の冷徹皇帝に溺愛される  作者: La Mistral
第5章:【終末の楽園編】

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第49話:【終末の楽園】虚無に浮かぶ箱庭の日常

いつも本作を読み進めていただき、ありがとうございます。

日間 2,474 PV という驚異的な実績に支えられ、物語はいよいよ「世界の終わり」の先へと到達しました。

第49話では、すべてが消滅した後の、異常なほどに穏やかな「日常」を描いています。

世界を失った代わりに得た、究極の平穏。その中にある狂気を感じていただければ幸いです。

離宮の外に広がっていた「世界」という概念は、ついに完全に消失した。


窓の向こう側にあった黒い泥の海さえも、最後には自らを喰らい尽くし、今やそこには光も音も、時間という概念すら存在しない漆黒の虚無が広がっている。


この宇宙に残されたのは、ゼノスの魔力によって維持され、暗黒の中にぽつんと浮かぶ、この離宮という名の小さな箱庭だけだった。


しかし、その断絶された空間の中では、あまりにも静謐で、狂ったほどに穏やかな「日常」が営まれている。


「おはよう、エルサ。今日も君は、世界で一番美しい」


寝室の窓から差し込むのは、本物の太陽ではない。ゼノスが彼女の目覚めを彩るために、記憶の中から抽出して作り上げた、永遠に色褪せない黄金色の「模造光」だ。


エルサはその光に照らされながら、ゆっくりと瞳を開いた。


かつての彼女なら、目覚めとともに今日救うべき人々の顔を思い浮かべていただろう。


だが今、彼女の思考のキャンバスを埋め尽くしているのは、目の前で微笑む男のかたちだけだ。


「おはようございます、ゼノス様。……今日という日が、また貴方様と共にあることを感謝いたしますわ」


エルサは愛らしく首を傾げ、ゼノスが差し出した手に頬を寄せた。


彼女の動作一つ一つからは、かつての聖女が持っていた「凛とした気高さ」が抜け落ち、代わりに、ただ一人の飼い主にのみ向けられる、盲目的な愛着が滲み出ている。


二人はテラスで朝の食事を摂る。


テーブルに並ぶのは、実在しないはずの季節の果実や、かつての帝国で最高級と謳われた茶葉の香り。


すべてはゼノスの魔力が物質化した「偽物」であるが、今のエルサにとって、彼が与えてくれるものは真実よりも遥かに鮮やかで、芳醇だった。


「エルサ、外の暗闇が怖いかい? もし望むなら、君の記憶にある美しい花畑を、あの虚無の代わりに投影してあげてもいいんだよ」


ゼノスは茶を啜りながら、慈しむような視線を向ける。だがエルサは、緩やかに首を振った。


「いいえ。あの暗闇があるからこそ、この部屋の温もりが、そして貴方様の存在が、これほどまでに愛おしく感じられるのです。……外に何もないということは、私が貴方様以外に心を奪われる心配がないということ。それは、何よりの安らぎですわ」


その言葉は、もはや正常な人間の精神から発せられるものではなかった。


世界が滅びたことを、自分を繋ぎ止めるための「舞台装置」として肯定する。


ゼノスという絶対的な存在に依存し切った結果、彼女の倫理観は完全に溶け、彼の独占欲と同化してしまっていた。


食事を終えると、ゼノスはエルサを膝の上に抱き上げ、彼女の髪を一本一本、丁寧に梳いていく。


この離宮には、もはや二人以外の意志を持つ者は存在しない。


召使いも、騎士も、神官も、すべては泥に還った。今、この空間を動かしているのはゼノスの鼓動だけであり、エルサの身体はその拍動に合わせて呼吸を繰り返す。


「エルサ。君の魂は、今、どこにある?」


「……ここに。貴方様の掌の中に。そして、貴方様が刻んでくださる、この熱の中にございます」


エルサは、ゼノスが自分の髪を梳く指の動きに、うっとりと身を委ねる。


かつて彼女を縛っていた「聖女」という名の責任は、もうどこにもない。


彼女はただ、この永遠に続く閉ざされた日常の中で、ゼノスの愛を消費し、彼に愛されるためだけに存在する「物」へと成り果てていた。


外界の虚無が、この離宮を侵食することはない。


だが、その平穏こそが、世界で最も過酷な拷問よりも深く、エルサの精神を窒息させていく。


彼女はその窒息を「至福」と呼び、自分を殺した男の胸の中で、今日も無垢な子供のように微笑むのだった。

第49話をお読みいただきありがとうございました。

「外に何もないということは、私が貴方様以外に心を奪われる心配がないということ」

この台詞が、今のエルサの精神状態を象徴しています。彼女にとって、世界の滅亡は悲劇ではなく、愛の障害が取り除かれた「祝福」でしかありません。

「エルサの堕落がたまらない!」「ゼノスの支配が完成されていく様をもっと見たい!」という方は、ぜひ**【★評価】や【ブックマーク】**で応援をお願いします。

皆様の熱い反応が、この虚無に浮かぶ箱庭をさらに鮮やかに彩る力となります。

次回第50話。連載の大きな節目となるこの回で、二人の狂愛はどのような「極致」を迎えるのか。どうぞご期待ください。

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