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追放された万能薬師は、隣国の冷徹皇帝に溺愛される  作者: La Mistral
第5章:【終末の楽園編】

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第51話:【終末の楽園】虚無への接触と絶望の再定義

いつも本作をご愛読いただき、誠にありがとうございます。

皆様の熱い応援のおかげで、ついに連載は第51話の大台へと突入いたしました!

第5章【終末の楽園編】は、ここからさらに救いのない、それでいて甘美な地獄へと加速していきます。

今回、エルサが直面するのは、かつて自分が愛した世界の「完全なる消滅」です。

五感のすべてをゼノスに支配され、逃げ場を失った聖女の魂がどのように変質していくのか。

1文字1文字に込めた、狂愛の密度をぜひ肌で感じてください。

 ゼノスはエルサを抱き寄せ、バルコニーの端から身を乗り出させる。


 眼下に広がる絶対的な虚無を直視させ、かつての聖女としての使命が物理的に消滅したことを、冷徹な五感の暴力とともにエルサの魂へ刻み込む。


 ゼノスの鉄塊のような腕が、エルサの華奢な肋骨を軋ませながら、彼女の身体をバルコニーの外側――すなわち、存在の許されない「無」の深淵へと強引に突き出した。


 エルサの視界は、急激に傾いだ。網膜を焼くのは、離宮が放つ人工的な魔術光と、それを一飲みにして余りある、宇宙の墓標のような完全なる黒だ。


 彼女の耳孔には、もはや空気が震えることさえ拒絶された、鼓膜を裏側から引き剥がすような「真空の圧力」が侵入した。


 それは一切の残響を許さない冷酷な無音であり、エルサが恐怖で漏らした「ヒッ」という短い悲鳴さえも、唇を離れた瞬間に虚無へと吸い込まれ、自らの耳に届くことさえなかった。


 鼻腔を突くのは、生命の営みが絶たれた場所特有の、極限まで冷却されたオゾンの鋭利な臭気と、隣接するゼノスの首筋から漂う、燃える麝香の重苦しい香りだ。


 眼下には、かつて数百万の民が膝をつき、彼女の祈りに涙した大地は存在しない。


 そこにあるのは、光の粒子一つさえも反射しない、底なしの泥が乾き果てた後の「亀裂」だけだ。


 その亀裂からは、数千年の年月を経て風化した骨粉のような、ザラついた乾死の匂いが立ち上り、彼女の喉の奥をイガイガとした苦味で満たした。


 ゼノスは、エルサの項を太い指で掴み、彼女の顔面をその暗黒へとさらに近付けた。


 彼の指先からは、沸騰する泥のような粘り気のある熱が発せられ、冷え切ったエルサの肌をじりじりと焦がしていく。


「見てごらん、エルサ。君がその身を削って浄化し、守り抜こうとした『愛しき者たち』の成れ果てだ。一粒の砂、一滴の露すら、ここには残っていない。君の祈りは、今やこの虚無を撫でる無意味な震えに過ぎないんだよ」


 ゼノスの声は、彼女の背骨を直接叩く打楽器のような震動となって、全身の細胞に伝播した。


 彼の唇が彼女の耳朶に触れるたび、そこからは冷たい氷の結晶と、焦熱の魔力が交互に流れ込み、エルサの痛覚は白銀の閃光を幻視するほどに狂わされた。


 彼女の指先が、空を掴もうとして虚しく泳ぐ。指先に触れるのは、湿り気も重みもない、ただただ冷徹な「非存在」の感触だ。


 それは、かつて彼女が慈しんだ草花の柔らかな産毛や、民たちの温かい手のひらとは対照的な、魂を凍結させる極寒の拒絶だった。


 口腔内に広がるのは、絶望によって分泌された濃い鉄分を帯びた唾液と、ゼノスの衣類に染み付いた、古い血と薔薇の香油が混ざり合った、吐き気を催すほどに甘美で冒涜的な味だ。


 エルサの網膜の裏側には、かつて自分が救ったはずの村々の残像が、どろどろに溶けた鉛のような色となって浮かんでは、目の前の暗黒に一瞬で塗り潰されていく。


 ゼノスはエルサの耳元で、低く、湿った笑い声を漏らした。


 その振動が、彼女の三半規管を激しく揺さぶり、平衡感覚を奪い去る。


 彼女の身体は、もはや自分の意志では指一本動かせないほどに、ゼノスの圧倒的な質量の前に屈服していた。


「……あ、……ぅ……」


 エルサは、自らの内にあった「聖女」という名の光の核が、目の前の漆黒に吸い出され、粉々に粉砕される音を聞いた。


 それは、彼女が拠り所にしていた最後の尊厳が、物理的な「無」の前に敗北した証左であった。


 ゼノスは彼女をさらに強く抱き締め、その首筋に、所有を刻むかのような荒々しい接吻を落とした。


 彼の歯列が彼女の皮膚を割り、そこから溢れた一滴の鮮血が、冷たい風のない空間で、エルサの鎖骨を熱い線となって滑り落ちていった。

第51話をお読みいただき、ありがとうございました。

今回、あえてエルサをバルコニーの淵へと追い込み、物理的な「無」を突きつける描写を徹底しました。

かつての彼女を支えていた聖女としての使命感は、この漆黒の虚無を前にして、もはや塵ほどの価値も持たないことを骨の髄まで理解させるためです。

「君を汚した世界は、もう塵一つ残っていない」

ゼノスのこの言葉は、エルサにとっての唯一の福音となり、彼女をさらに深い隷属へと誘います。

「エルサの絶望がもっと見たい!」「ゼノスの執着が加速する展開に期待!」と思われましたら、ぜひ**【★評価】や【ブックマーク】**での応援をよろしくお願いいたします!

皆様の反応が、この虚無に浮かぶ楽園を維持する、何よりの魔力となります。

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