ー模擬戦闘ー
ユーグは手に持っていた枝の長剣をハンスに渡す。
「うむ……(この枝から暖かい魔力を感じる。これはやはりそうなのか?)
ありがとうな、ユーグ君。これは大切にした方が良いぞ。魔力の通りも良いし、良い武器じゃな」
「はい!わかりました」
「よし、じゃあ始めるか……アースピラー!さぁどっちから始める?」
ユーグの枝の長剣を見て何かを感じるハンス。そのまま枝の長剣をユーグに返し、武技試験を開始する。
「ぐぅる!」
「うん?ブリューが先にやりたいって?
わかった、じゃあ僕が後でいいよ」
ブリューは魔法の試験では見ていることしかできなかったため、気持ちが高ぶっていた。すでに小型化を解除し大きくなっていたブリューはハンスの言葉にすぐさま反応した。
「ぐる!」
ブリューは土の柱に向かって駆け出し、爪での一撃を加える。その攻撃では土の柱はびくともしなかった。
「ぐるぅぅううう!」
自分の爪撃では威力不足だったことを確認したブリューは爪に魔力を通す。爪に流れた魔力はそのまま氷属性へと変わり、氷爪になる。その氷爪で土の柱へと攻撃を与える。
「凄いのう!土柱を壊すとは!それにもうすでにブリューは属性変換ができるとはのう。
変異種でありながら、種の限界突破をしてるとは、ブラブと合わせて将来有望な従魔たちじゃな。
よし、次はユーグ君の番じゃな。行くぞ……アースピラー」
「はい!行きます!」
ユーグは枝の長剣に魔力を流しながら土の柱に向かう。長剣に流された魔力は枝に反応し光を帯びる。ユーグはその長剣で土の柱に一太刀を与え、そのまま土の柱は一刀両断される。
「……(魔力を流しただけであの威力とは、やはりそうじゃな。これはまた辺境拍様に報告しないといけないことが増えたのう)」
ハンスはユーグが土の柱を真っ二つにした様を見て、何か確信を持った顔をする。そしてユーグの肩にいるソタを見つめる。
「ブリューもユーグ君も凄いな!
魔法でも支部長のアースピラーを貫通させたのに、武技試験でも真っ二つにするなんて。
ブリューも完全に崩壊までいかなくても、一部でも壊せるほどの威力を出すとはな!」
「そうね、でもあれだけ魔力の扱いに長けてるのに何で闘技が出せないんだろう。
普通ならすでに使えるはずなんだけど」
「うーん、今のだけ見てるとおかしな点は見られないんだけどな。
ただまだユーグ君は武器の扱いには慣れてないんだろうな、支部長のアースピラーを両断できたのも魔力操作のおかげだろう」
興奮しながら話すニルスに対してロッテはユーグが闘技を未だに使えないことに疑問を持つ。ユーグほどの魔力操作の技量があれば、通常はすでに使えるようになっているはずであったからだ。そのロッテの疑問にニルスは武技試験をしているユーグの様子から特に何かあるようなことは見えなかったという。ただニルスはユーグが魔法とは違い、武器の力量はそこまでないことを見抜いていた。
「よし!武技試験はこれで終了じゃ!
ユーグ君もブリューも中々の腕前じゃな」
「ありがとうございます!」
「次は模擬戦闘じゃな。
これは試験官のわしとの練習試合じゃな」
「あれ?ソタはいいの試験受けなくても?」
〈ああ、大丈夫じゃぞ。
これはお前たちの試験だと思ってやればいいのじゃ。わしは見ているだけで大丈夫じゃ〉
「うん!わかった!」
「模擬戦闘はユーグ君とその従魔たちとでわしにかかってくれば良い。わしからは一切の攻撃はしないから遠慮せんでいいぞ。
では行くか?」
「はい!じゃあ行きます!」 「ぐるぅ!」 「ゴブ!」
「ぐるぅぅぅああ!」 「……ウォーターアロー×10!」 「……ゴゴゴブ!」
ブリューがハンス目掛けて突撃し、ユーグの頭上に水の矢が10本現れ、ブラブの手の先から闇の霧が出現した。
「ほう?初手からずいぶん攻撃的じゃな。だがこれしき!」
ハンスはブリューの突撃を真正面から受け止める。ブリューの大きさは2メートル近くあり、その巨体を小柄なハンスが受け止める様は想像をはるかに超えるものであった。その受け止めているハンスに向かって闇の霧と水の矢が飛ぶ。
「……アースウォール!」
ハンスはブリューと対峙しながら魔力を練り上げ魔法を放つ。ハンスの魔力が訓練場の土を動かし、土の壁をすぐさま作り出す。闇の霧や水の矢はその壁に当たり霧散する。
「んな、ブリューがあんな簡単に止められるなんて、それに魔法を放つスピードも早い!」
「ぐわぁ!」
「これで終わりか、ユーグよ!まだまだそんなもんじゃないじゃろ、お前たちの実力を見せてみろ!」
ユーグとブラブの魔法がハンスの土の壁に止められていた時に、ハンスと力比べ的な対峙をしていたブリューはその戦いに負け、ハンスに受け返され飛ばされた。
「まだまだです!行くぞ!……ウォーターランス!」 「ゴブブ!」 「ぐるぅ!」
ハンスのあおりにユーグたちは気合を入れなおす。そして再びユーグとブラブは魔法を放つ。ユーグの頭上に水の槍が、ブラブの先に土の矢が次々と生まれ放たれる。ブリューは先の攻撃とは違い魔力を纏い、爪先に氷が生まれる。そのまままたハンスに向かって突撃する。
「うむ、先の攻撃の時とはまた違うが、それではまだまだ足りんぞ」
ハンスはそう言うとブリューの氷爪が当たる前に、自身の魔力を練り上げ体に纏わし俗に言う身体強化の魔法を使った。そして身体強化をしたハンスとブリューの氷爪はぶつかり合う。このぶつかり合いに勝ったのは再度ハンスであった。再びブリューはハンスに飛ばされた。この間ブラブの土の矢はハンスに届いていたが、身体強化を使っているハンスの体には刺さることはなく、全く効いていなかった。ユーグの水の槍はその間ずっと待機状態をしていたが、ハンスがブリューを飛ばした瞬間に水の槍がハンスに届く。
「タイミングはばっちりじゃな。じゃがそのくらいの魔法は効かんぞ」
ユーグの水の槍はハンスの隙を狙って放たれたが、ハンスはその水の槍を拳で迎撃する。態勢を崩しながらも拳で水の槍を的確に捉え、拳はそのまま水の槍を突き抜ける。そして水の槍はそのまま霧散した。
「よし、今だ!……ウォーターバインド!」
ユーグはハンスが水の槍を拳で捉えた瞬間に驚異的なスピードで水の輪を具現化させ、魔力操作で放つスピードも上げ驚きの速さでハンスに水の輪が飛ぶ。
「ほう、やるな!」
拳で水の槍を破壊したあと一瞬の硬直を狙われたハンスは水の輪の直撃を喰らい、水の輪に囚われる。
「ぐるぅぐぅああ!」
身動きが取れなくなったハンスに向かってすでに態勢を直していたブリューは三度突撃を敢行した。その爪には再度魔力が込められ氷爪が生成された。
「うむ、このままだとちぃとまずいか」
まだ水の輪に囚われたままのハンスにブリューの氷爪が届く直前にハンスから膨大な魔力が動き出し、それを纏い始める。それが完成し終えるのと同時にブリューの氷爪が届くが、氷爪は何か堅いものに当たり弾かれる。氷爪を弾いたのは石や土で固められた正しく大地の鎧といったもので、ハンスはそれを纏っていた。
「まさか魔纏まで出させられるとは……むぅ!ハッ!」
「……せぇい!」
ハンスが膨大な魔力を使い始めた時点でユーグはブリューの攻撃が止められると判断し、隠密を使い気づかれずにハンスに近づいていた。そして手に持っていた枝の長剣に魔力を流し、ハンスに一刀を加える。当たる直前に不自然な魔力反応を捉えユーグの存在に気づいたが、すでに枝の長剣は当たる直前で回避するのは難しかった。ユーグのその攻撃は大地の鎧を切り裂き中のハンスの身体にダメージを与えるのであった。
明日も21時に投稿します。
しばらくの間は平日の5日間は投稿で、
土日はお休みさせていただきます。




