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ハジメテダヨネ

戦況は悪化の一途を辿っていた。


黒崎は不規則に飛来する無数の爆発を、身を翻しながら辛うじて避け続けていた。

しかし、百目鬼の巨躯が再び猛烈に突進してくるたび、黒崎の動きは明らかに鈍くなっていた。

紙一重で横に跳び、着地した瞬間、黒崎の左肩が爆風に掠られた。

肉が裂け、血が噴き出す。

それでも黒崎は歯を食いしばり、晋介25号を握り直した。

「っ……この化け物……!」


最初の晋介25号はすでに大破し、熱くなった残骸が地面に転がっていた。

黒崎は血を吐きながらも、ジャケットの裏に手を滑り込ませ、次の晋介25号を掴み出した。

「まだ……あるぞ……!」

もう一本の晋介25号を握りしめ、黒崎は血まみれの顔を上げ、百目鬼の本体に向かって突っ込んだ。

無数の目からの爆撃が雨のように降り注ぎ、地面を抉り、黒崎の体を何度も吹き飛ばす。

左腕が動かなくなり、右足が引きずるようになる。

それでも黒崎は這うように、這うように前へ進み続けた。

ようやく、ゼロ距離。

黒崎は血まみれの顔を上げ、晋介25号を百目鬼の胸元に突きつけた。

「食らえ……!」

渾身の力を込めた一撃が、ゼロ距離から放たれた。


しかし、肝心なところで何も起こらなかった。

カチッ。

「……は?」

高出力の氣を注ぎ込みすぎたせいで、簡易退魔銃の内部回路が一瞬で破損していた。

弾が出ない。

黒崎の目が見開かれた。

血まみれの顔が、一瞬、呆然と凍りつく。

(……嘘だろ……?)

必死の思いで、這うように、這うようにゼロ距離まで辿り着いた。

左腕は動かず、右足は引きずり、息をするたびに血の味が口いっぱいに広がっていた。

それでも最後の力を振り絞って突きつけた一撃が——

何も起こらない。

カチッ、カチッ。

無情な空音だけが響く。

黒崎の胸に、底知れぬ虚無が広がった。

希望が、目の前で粉々に砕け散る音が聞こえた気がした。

「…………くそ……」

その僅かな隙を、百目鬼が見逃すはずがなかった。

巨大な腕が横殴りに振り下ろされ、黒崎の体を直撃した。

「ぐあっ……!」

黒崎の体が吹っ飛び、境内の木々に激突して地面に叩きつけられた。

肋骨が折れる嫌な音がして、口から大量の血が噴き出す。

さらに空に浮かぶ無数の目が一斉に光り、黒崎に向かって爆撃を浴びせかける。


ドン! ドン! ドン! ドン!


爆発の連鎖が黒崎を襲い、彼の体はボロボロに引き裂かれていく。

肉が焼け、衣服が溶け、地面に赤黒い染みが大きく広がる。

黒崎は地面に倒れたまま、血を吐きながらも、なおも手を伸ばそうとした。

指先がわずかに動くが、もう力が入らない。

(……まだ……

まだ……終われねえ……)

しかし、体はもう言うことを聞かなかった。

絶望が、黒崎の意識をゆっくりと飲み込んでいく。


「黒崎さん……!」

白峰の声が震えた。

百目鬼はとどめを刺すように、ゆっくりと黒崎へと歩み寄った。

その単眼が凶悪に輝き、無数の目が一斉に光を増す。

死の気配が、冷たく、容赦なく、境内全体を覆い尽くしていた。

その時——

白峰の体が、勝手に動いた。

恐怖で凍りついていたはずの足が、震えながらも一歩、前に出ていた。

心臓が激しく鳴り、息が詰まり、頭の中は真っ白だったのに——

黒崎さんが血を吐いて倒れている姿が、胸の奥に焼き付いて離れなかった。

(……黒崎さん……死んじゃう……

私が……何もできなかったら……本当に死んじゃう……)

恐怖で体が動かないはずなのに、指が勝手に晋介25号を握りしめていた。

使い方もろくにわからないはずなのに、自分のものではない大量の氣が、温かく、優しく、流れ込んでくるのを感じた。

耳元で、さっきと同じ不思議な声が、優しく、しかし力強く響いた。

『ハジメテダヨネ、イッショニイコウ』

不快に感じた森の風が優しく白峰を包み込む。

温かい、柔らかい、でも確かに強い力が、体の奥底から溢れ出してくる。

白峰は無我夢中で引き金を引いた。


バァァァンッ!!


晋介25号から、これまで誰も見たことのないほど強烈な光と衝撃が迸った。

退魔の弾は白い光の奔流となり、百目鬼の巨体に直撃した。

百目鬼が大きくよろめき、後退する。

その一撃は、簡易退魔銃とは到底思えないほどの威力だった。

しかし、代償は大きかった。

白峰の晋介25号は高出力に耐えきれず、内部から激しく破損し、大破した。

握っていた部分が熱くなり、手から滑り落ち、地面に転がる。

白峰の右腕が激しく痺れ、指先まで感覚がなくなった。

熱い痛みが肩から肘、指先まで駆け巡り、まるで腕が燃えているような錯覚に襲われる。

体がふらつき、視界が一瞬ぼやけた。

(……あ……痛い……

でも……当たった……?

私が……撃った……?

あの怪物に……私の手で……)

胸の奥が熱くなり、息が荒くなる。

恐怖で凍りついていたはずの体が、今度は別の理由で震えていた。

自分が放った光の奔流の残像が、まだ網膜に焼き付いている。


その隙に、ボロボロになった黒崎が地面から這い上がった。

左腕は動かず、右足を引きずり、口からは絶え間なく血が溢れている。

それでも黒崎は牙を剥くように歯を食いしばり、ジャケットの裏に手を滑り込ませ、最後の晋介25号を掴み出した。

「……ったく。やるじゃねぇか、新入り」

血まみれの顔で、黒崎は小さく、しかし力強く笑った。

その笑みは痛々しくも、どこか誇らしげで、戦い慣れた男の執念がにじみ出ていた。


「大破上等だ……この野郎!」

黒崎は片膝をついたまま、体を支えるように左腕を地面に突き、右腕だけで晋介25号を構えた。

血が滴り落ちる指で引き金を引き絞り、百目鬼の胸元に銃口を突きつける。

渾身の力を込めた一撃が、ゼロ距離から放たれた。

バァァァンッ!!

白峰の一撃を上回る、轟音と共に強烈な退魔弾が百目鬼の体を貫いた。

光の奔流が巨躯の胸を突き破り、剛毛が焼き焦げ、厚い筋肉が裂け、単眼が激しく明滅する。

百目鬼は最後に低い、苦しげな唸りを残し、その巨体をゆっくりと崩れ落ちさせた。

地面が大きく揺れ、土煙が上がる。

黒崎は晋介25号を握ったまま、片膝をついた姿勢で荒い息を吐いた。

血まみれの顔に、疲労と満足が混じった笑みが浮かぶ。

「……ようやく……沈黙したか」

その声は掠れていたが、確かな勝利の響きを帯びていた。

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