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正しさ

藤堂は異様な空気を察知し、慌てて二人の間に割って入った。

「ちょっと、二人とも!」

彼は白峰と御堂を無理矢理引き剥がすようにして距離を取らせた。

穏やかな声とは裏腹に、動作は少し大袈裟なくらい慌ただしく、両手を広げて必死に間に入る姿が印象的だった。

このチームの中で、誰かが感情的になった時に仲裁できるのは、いつも冷静で優しい藤堂だけだった。

「私は他の黒子班と連絡をしますので、くれぐれもケンカはしないでくださいね」

彼はあえて「喧嘩」という軽い言葉を使い、場の空気を少しでも和らげようと気遣っていた。


凛は白峰に近づき、申し訳なさそうに深く頭を下げた。

「足を引っ張ってごめんなさい…

私のせいで奏さんにも怒られて…

私がもっとしっかりしていれば……」

その言葉に、白峰の胸が強く締め付けられた。

白峰はすぐに凛の肩に手を置き、慌ててフォローを入れた。

「私の方こそごめんなさい。

私が守ってあげなきゃなのに…」

凛の処置された怪我を見て、白峰は泣きそうな顔になった。

年端も行かない少女にここまで気遣わせてしまったこと、そして何より、自分の判断ミスで凛を傷つけてしまった事実に、深い後悔が胸を抉る。

(……私が不用意に突出したせいで……

凛ちゃんが……こんな目に遭うなんて……

私が守るって言ったのに……)

小さな傷口が、胸にずしりと重くのしかかり、白峰の視界が再びぼやけた。


その間、藤堂は各黒子班と連絡を取り、状況を確認していた。

連絡を終えた藤堂は3人を呼んだ。

「各地では予定通り、再封印の儀式に取り掛かったそうです。

早くても明日の朝まで掛かります。

今のうちに休みましょう。

私が見張りを行います」

3人は藤堂の提案に甘え、テントで仮眠の準備をした。


規則正しい寝息が響く気まずい空気の中、御堂は白峰に静かに言った。

「私は間違った事は言っていません…

でも、叩いたのはやり過ぎました、すみません…

スマートでは無かったわね…」

御堂の声は穏やかだったが、その瞳の奥には複雑な葛藤が渦巻いていた。

自分の信念——戦場では甘さは許されないという厳しさを、白峰に叩きつけたことへの確信と、

感情に任せて白峰の頰を叩いてしまった自分自身への後悔が、胸の中で激しくぶつかり合っていた。

優しい白峰を傷つけてしまった罪悪感が、彼女の心を静かに苛んでいた。

その言葉に、白峰も少し震える声で答えた。

「私の方こそ考えが甘かったのかもしれません…

でも、何が正しいのか私にはわからないんです…」

白峰の声はか細く、心の迷いが色濃くにじみ出ていた。

頭では御堂の言う「戦場での厳しさ」を理解できても、耳の奥にまだ残る妖怪たちの苦しむ声が、繰り返し反芻されていた。

あの痛々しい叫び、助けを求めるような響き……。

それが、白峰の心を迷子の状態に陥れていた。

優しさと現実の狭間で、どうすれば良いのか、答えが見つからずに苦しんでいた。

歩み寄りを見せた言葉の裏側では、二人の考えはまだ根本的に相容れていなかった。

御堂は「戦場では甘さは許されない」という現実的な厳しさを、

白峰は「苦しむ存在を救いたい」という優しさを、

それぞれ譲れない信念として胸に抱いたままだった。


白峰は夢を見た。

柔らかな黄緑色の光が、静かに満ちる不思議な空間。

しかし、その光はどこか不安定で、時折ゆらゆらと揺らぎ、影が不規則に伸びては消えていた。

まるで白峰の心の迷いを映すように、空間全体が微かに波打っている。

そこに、ふわりと小さな影が現れた。

黄緑色の着物を着た、幼い少女。

きみどりだった。

白峰の胸に、懐かしくて温かい感情が一気に広がった。

久しぶりの再会。

「きみどり……」

白峰が小さく声を漏らすと、きみどりはぱっと笑顔になって駆け寄ってきた。

「おねえちゃん! 会いたかったよ!」

きみどりは白峰の腰にぎゅっと抱きつき、顔を埋めた。

夢の中なのに、その小さな体温や柔らかい髪の感触が、はっきりと伝わってくる。

白峰は思わず微笑みながら、きみどりの頭を優しく撫でた。

「私も……会いたかった……」

きみどりは白峰の胸に顔を埋めたまま、くすくすと笑った。


「おねえちゃん、どうしたの?」

苦しそうな表情を浮かべる白峰を不思議に思ったきみどりは尋ねる。

その無邪気で優しげな声が、白峰の心の壁にそっと触れた。

白峰の表情が曇った。

胸の奥に溜まっていたものが、ゆっくりと表面に浮かび上がってくる。

「きみどり、私、どうすれば良いのかな?」

泣きそうな声で尋ねる白峰に、きみどりは少し困ったように首を傾げた。

その瞬間、白峰の心の壁が、少しずつ決壊し始めた。

御堂に叩かれた頰の痛み、凛を傷つけてしまった後悔、妖怪たちの苦しむ声、戦わなければならない現実……。

行き場の無い思いが、きみどりの温かい声に触れて、堰を切ったように溢れ出そうとしていた。


すると、空間に別の声が響いた。

「カカカッ、迷うてるな人の子よ」

白峰ときみどりしかいないはずの空間に、突然、低く野太い笑い声が響き渡った。

その声はどこからともなく反響し、空気そのものが震えるような不可思議さがあった。

光の揺らぎが一瞬強くなり、影が不自然に蠢いた。

そこには、燃える様な赤色の髪をした逞しい青年が、涅槃のようにゆったりと転がっていた。

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