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痛む頬

「凛!」

御堂の叫びが響く中、妖怪の鋭い爪が凛に向かって振り下ろされた。

ズシャァァァッ!!

血しぶきが飛び、凛の小さな体が土の地面に倒れ込んだ。

その場にうずくまる凛の姿を見て、白峰はハッと我に返った。

心臓が激しく鳴り、視界が一瞬白く染まるほどの衝撃が走る。

喉が締め付けられ、息が詰まるような焦りが一気に込み上げた。

「凛ちゃん!」

白峰の声は震え、ほとんど悲鳴に近かった。

彼女は咄嗟に真田丸8式を握りしめたまま、地面を蹴って凛のもとへ駆け寄ろうとした。

頭の中が真っ白になり、ただ「凛ちゃんが傷ついた」という事実だけが、激しく胸を抉っていた。

傷は浅いように見えるが、予断を許さない。


御堂も牛鬼を操りながら、凛の周囲の妖怪を最優先で薙ぎ払っていった。

「牛鬼、凛の周りを守りなさい!」

漆黒の巨体が咆哮を上げ、凛の小さな体を背後に庇うように位置を取る。

牛鬼の巨大な角が弧を描き、凛に近づこうとする妖怪たちを次々と弾き飛ばした。

一撃で鬼を吹き飛ばし、妖狐の群れを踏み潰し、骸骨を角で貫く——その動きは重く見えながらも、確実に凛を中心とした守備範囲を死守していた。

大妖怪との激戦を経験した御堂と牛鬼にとって、この程度の数の雑魚はもはや敵ではなかった。

ただ、凛を守るという一点に全神経を集中させ、一切の隙を作らない。

その隙を突いて、白峰も真田丸8式を振るいながら凛の近くに移動した。


程なくして討伐を終えた瞬間、藤堂が慌てて駆け寄ってきた。

「凛さん!」

彼は膝をつき、凛の傷を素早く確認しながら応急処置を始めた。

包帯を巻き、止血をし、冷静だが迅速な手つきで処置を進める。

その表情には、いつもの温和さの中に、強い緊張と心配が浮かんでいた。

「安心してください。大きな傷ではありません。ただ、念のため安静に……」

その言葉に、白峰は大きく息を吐き、ホッと肩の力を抜いた。

胸の奥で、激しく高鳴っていた心臓が少しずつ落ち着いていくのを感じた。

凛が無事だという安堵が、戦いの緊張と妖怪への同情で張りつめていた心を、優しく解きほぐしてくれた。

(……よかった……本当に、よかった……)


その顔を見るや、御堂が静かに、だが確かに怒りを孕んだ声で言った。

「何故、突出したのですか」

白峰は言葉に詰まった。

誰にも聞こえないはずの、妖怪たちの苦しむ声が、まだ耳の奥に残っていた。

あの一瞬、あの声に突き動かされて、つい前に出てしまった。

でも、その結果——幼い凛が傷ついた。

胸の奥が、激しく痛んだ。

(私が守ってあげなきゃって……なのに、私のせいで……)

誰にも理解してもらえない理由で突出してしまった自分自身への後悔と、凛を傷つけてしまった罪悪感が、白峰を強く苛んだ。

絞り出した答えは、か細く震える声だった。

「……妖怪達が…苦しんでいたんです…」


その返答を聞いた瞬間、御堂は白峰の頰を強く叩いた。

パァン!

乾いた音が、戦いの余韻が残る本陣に響いた。

「甘い考えは捨てなさいと言った筈よ!

ここは戦場なの!

油断が命取りになるのよ!」

御堂の声は震えていた。

怒りだけではない。

自分自身への激しい苛立ちが、声の奥底から溢れ出していた。

北海道でも、仙台でも、いつも肝心な場面で役に立たず、今度も白峰を止められなかった——

自分がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったという後悔と自責の念が、胸の中で激しく渦巻いていた。

叩いた自分の手が、微かに震えていることに気づき、御堂は唇を強く噛んだ。

白峰を傷つけてしまった後悔と、自分への苛立ち、そして優しさを貫こうとする白峰への複雑な想いが、胸の中で激しく混じり合っていた。

その瞳には、怒りと自責の念が、複雑に絡みついていた。


白峰は頰を押さえ、呆然と御堂を見つめた。

今まで一番優しく、頼りにしてきた御堂に叩かれた衝撃が、胸を強く締め付ける。

優しかった御堂を、ここまで激しく怒らせてしまったという事実に、白峰の頭は真っ白になった。

後悔と罪悪感が一気に押し寄せ、言葉が出てこない。

ただ、胸の奥が激しく痛み、視界がぼやけていく。

藤堂が慌てて二人の間に割って入った。

「御堂さん、落ち着いてください……!

白峰さんも、まだ動揺しているんですから……」

しかし2人の間に流れる沈黙は途切れることは無かった。

御堂の声に意識を取り戻した凛が、弱々しく言った。

「……私は無事ですので…2人とも喧嘩しないでください…」

傷が痛むのか、苦しそうな声で二人を案じる凛。

空はどんよりと曇り、二人の心を映すように重く垂れ込めていた。

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