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優しさの代償

芦屋影人が消えた直後、本陣の外れから溢れ出した大量の妖怪の群れが、三人を襲った。

ガシャァァァァン!!

地面が激しく震え、紫色の妖気が爆発的に広がった。

鬼、妖狐、骸骨、巨大な蜘蛛、得体の知れない影……数十体を超える妖怪が、洪水のように本陣を埋め尽くす。

咆哮、爪の音、腐敗した臭い、ねばつく妖気が一気に空気を汚染し、視界を暗く染め上げた。


「来ますわ!」

御堂が即座に呪符を展開し、牛鬼を召喚した。

漆黒の巨体が大地を震わせて咆哮を上げ、白峰と凛の前に立ちはだかる。

その動きはいつもよりわずかに重く、九条の言葉がもたらした心の重荷が牛鬼の動作にも影響を与えていた。

それでも、牛鬼は力強く前へ踏み出した。

ドゴォォンッ!!

巨大な角が妖怪の群れを薙ぎ払い、数体を一瞬で吹き飛ばす。

漆黒の体躯が地面を抉りながら突進し、残りの妖怪たちを次々と踏み潰していく。

重い一撃一撃に、圧倒的な破壊力と守護の意志が込められていた。


凛も緊張した面持ちで呪符を取り出し、応戦を開始した。

「五行、火の術!」

彼女の呪符が強く輝き、炎の奔流が妖怪の群れを薙ぎ払う。

次に「風の術!」と叫び、鋭い風の刃が妖怪を切り裂き、「水の術!」で冷たい水流を操って炎と合わせて蒸気爆発を起こし、周囲の妖怪をまとめて吹き飛ばした。

経験は浅いものの、五行を駆使する才能は本物だった。

特に火の術は圧倒的で、彼女の得意分野として妖怪たちを次々と焼き払っていく。


鬼と凛の活躍により、妖怪が次々に倒れていく。

白峰も負けじと真田丸8式を抜き、気を込めて斬りかかった。

半年前に比べ、彼女の動きは明らかに格段に洗練されていた。

刀を構える姿勢は低く安定し、地面を蹴るような力強い足運びで間合いを詰め、純白の光を纏った刃が的確に妖怪の急所を狙う。

しかし、まだ完全に熟練したわけではなく、一振りするたびにわずかな反動で体がブレ、地面に足を取られて踏ん張る瞬間があった。

その拙さの残る動きが、彼女の経験の浅さを物語っていた。

それでも白峰は歯を食いしばり、必死に前へ踏み出す。


その姿を横目で見ていた御堂の胸に、黒い影が広がっていった。

(……私は、東京に来てから……

何も変わっていない……)

白虎戦でも、仙台でも、渋谷でも——自分はいつも、肝心な場面で十分に活躍できなかった。

牛鬼を呼び出すのが精一杯で、結局は皆に守られるばかり……。

そんな劣等感が、御堂の心を重く蝕んでいた。


戦闘が激しくなるにつれ、白峰の耳に、妖怪たちの苦しむ声が大きく聞こえ始めた。

(……苦しい……助けて……)

妖怪たちは、魔封じの玉から注ぎ込まれる強烈な負のエネルギーに無理やり操られ、意思に反して体を動かされている。

その声は痛々しく、怨嗟と絶望に満ち、まるで魂が引き裂かれるような苦痛が、白峰の心に直接突き刺さってきた。

(みんな……自分の意志じゃないのに、苦しんでる……)

白峰の胸が締め付けられる。

敵として自分を襲ってくる妖怪たちにすら、深い同情とやるせなさが込み上げ、刀を持つ手がわずかに震えた。


その思いが募り、白峰は我を忘れて一歩突出した。

(早く……楽にしてあげなきゃ……!)

妖怪の苦しむ声に心を奪われ、冷静さを失った白峰は、咄嗟に前へ飛び出してしまった。

真田丸8式を握りしめ、守るべき仲間や苦しむ妖怪たちを優先するあまり、周囲への警戒が完全に欠けていた。

「澪さん!」

凛が慌てて声を上げ、サポートしようと必死に後を追った。

初陣の緊張を振り切り、小さな体を全力で前へ押し出す。

白峰を守るために無我夢中で追いかけた。

しかし、その死角から別の妖怪が猛烈に襲いかかった。

経験の浅い凛は、咄嗟の反応が間に合わない。


御堂はすぐ気付いたが、白峰の突出のせいで牛鬼の位置が悪く、間に合わない。

「凛!」

御堂の叫びが響く中、妖怪の鋭い爪が凛に向かって振り下ろされた。

ズシャァァァッ!!

血しぶきが飛び、凛の小さな体が土の地面に倒れ込んだ。

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