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嘘つき

作戦会議が終わった後、本陣に移動した白峰、御堂、藤堂、凛の四人。

会議室の一角に簡易的に設けられた待機スペースで、藤堂が資料を広げながら静かに説明を始めた。

「シーサーの封印は、五方にある祠による強固なものらしいです。本陣を五方の中心に置き、各封印場所に睨みを効かせるのが私たちの役割……ということです」

それを聞いた凛が、すぐに声を荒げた。

「体のいい厄介払いです!」

白峰は慌ててお姉さんモードに切り替え、凛の肩にそっと手を置いて優しく微笑んだ。

「大丈夫だよ、凛ちゃん!

きっと、何かあった時の遊撃なんだよ。

本陣が一番大事な場所だからこそ、私たちが守りつつ、いつでも動けるようにって事だと思うの!」

凛は目をキラキラと輝かせ、期待に満ちた声で返した。

「ほんとうですか!?

遊撃なら前線に出られるんですね! しっかり準備しなきゃですね!」

(……どう? お姉さんっぽいでしょ!)

白峰は内心で小さくガッツポーズをしたが——

藤堂が申し訳なさそうに口を挟んだ。

「いえ……何があっても本陣から離れるな、という指示です」

その言葉に、凛はガクッと肩を落とし、少し恨めしそうに白峰を見上げた。

「……澪さんの嘘つきぃ……

お姉さんぶってカッコつけたのに、結局ただの慰めだったんですね……」

白峰は胸に小さく、しかし深く刺さる痛みを感じ、言葉に詰まった。

「う……うそじゃないよ……?」

顔を赤くして必死に言い訳する白峰を、凛はさらに上目遣いでじーっと見つめた。


そんな掛け合いを、御堂は少し離れた場所で上の空で聞いていた。

視線を落とし、資料を握る手が微かに震えていた。

(「上品なお嬢さんが戦場に立つのは荷が重い」……

渋谷でも、仙台でも、北海道でも、私は肝心な場面で何もできなかった。

牛鬼を呼び出すのが精一杯で、結局は皆に守られるばかり……。

それなのに今度は、本陣で待機?

前線から遠ざけられるなんて……私だけが、いつまでも足手まとい……)

悔しさと無力感、劣等感が胸の中で渦巻き、息苦しさを増していく。

御堂は唇を固く結び、指先が白くなるほど資料を握りしめていた。


様子のおかしい御堂に白峰が心配そうに近づこうとしたその瞬間——


ドンッ!


本陣の外れの方から、激しい爆音とともに不気味な紫色の光が爆発的に広がった。

地面が大きく震え、空気が歪むような重く粘つく妖気が一気に本陣全体を飲み込んだ。

光の中から、ゆらりと姿を現したのは——

「おやおや、特対室の皆様。

またお目にかかれましたね」

芦屋影人だった。

紫色の瞳を細め、口元に薄気味悪い微笑みを浮かべながら、ゆっくりと首を傾げる。

その視線はまるで玩具を値踏みするような、底知れない愉悦に満ちていた。

「無事に富良野から帰れた様で、何よりです。

……ふふ、随分と慌ただしい旅路だったようですね?」

芦屋は軽く笑いながら、懐から禍々しい黒い輝きを放つ魔封じの玉を取り出した。

その仕草の一つひとつに、相手を嘲るような挑発がにじみ出ていた。


白峰は即座に臨戦態勢を取った。

腰を低く落とし、右手で真田丸8式の柄を素早く抜き放つ。

刀身が淡い青白い光を帯び、気を取り込む準備を瞬時に整えた——その一連の動作は迷いなく、以前より明らかに研ぎ澄まされていた。

「芦屋……!」

その鋭い叫びを聞いた凛が、目を丸くして白峰を見た。

「芦屋……? それって、妖栄会の人ですか!?」

凛は慌てて戦闘態勢に入ろうとしたが、初陣の緊張で手がわずかに震え、足運びも覚束なかった。

呪符を握る指先が白くなり、呼吸も乱れている。

一方、御堂はハッと我に返ったものの、動きが遅かった。

九条の言葉やこれまでの無力感がまだ頭の中に残っており、判断が一瞬鈍っている。

牛鬼を召喚しようと呪符に手を伸ばした動作は重く、いつもの鋭さが欠けていた。


しかし芦屋は悠然と笑い、魔封じの玉を高々と掲げた。

「まずは……小手調べ、といきましょうか」

その瞬間——

ビキィィィィッ!!

魔封じの玉が眩い紫光を爆発させ、空間そのものが裂けるような甲高い音が響き渡った。

ガシャァァァァァァン!!

次の瞬間、玉から無数の妖怪が怒涛のように溢れ出した。

鬼、妖狐、骸骨、巨大な蜘蛛、歪んだ人形、得体の知れない影……。

数十体を超える妖の群れが、本陣の周囲を一瞬で埋め尽くし、地面を揺るがすほどの咆哮を上げた。

夜空が紫色の妖気で染まり、凄まじい殺気と血の匂いが一気に広がる。

本陣の結界が軋む音が響き、木々が激しく揺れ、地面がひび割れるほどの圧倒的な妖力が吹き荒れた。

芦屋は満足げに目を細め、優雅に片手を振った。

「では、ご武運を」

光の中にゆっくりと姿を溶かすように消えていく芦屋の笑顔は、最後まで底知れない愉悦に満ちていた。

戦いの幕が、派手に、荒々しく、しかし冷酷に上がった。

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