女子会よォ〜!
室長に「もう帰れ、邪魔だ」とぶっきらぼうに追い出されるような形で外へ出された三人。
病院の廊下を歩きながら、白峰は少し照れくさそうに、しかし期待を込めて提案した。
「あの……せっかくだし、暇な時に調べて気になっていたカフェに行きませんか?
アフタヌーンティーが楽しめるお店なんですけど……」
御堂が優雅に微笑み、満足げに頷いた。
「スマートな提案ですわ。
行きましょう」
雪華は目を輝かせて両手を叩いた。
「女子会ねェ〜! 最高じゃない!」
三人は病院を後にし、札幌の街中へと繰り出した。
戦いの疲れがまだ体に残る中でも、午後の柔らかな陽光と、久しぶりの自由な時間が、彼女たちの足取りを自然と軽くしていた。
白峰の提案で向かった先は、札幌の落ち着いた街並みにある、隠れ家のようなオシャレなカフェだった。
店内に入ると、木の温もりを感じさせるインテリアと、柔らかな照明が三人を迎えた。
窓際の落ち着いた席に座り、テーブルに置かれた三段のティースタンドには、色とりどりのサンドイッチ、ふわふわのスコーン、小さなケーキが美しく並んでいた。
紅茶の香りと甘いお菓子の匂いが、穏やかに混ざり合っている。
白峰は紅茶にこれでもかと砂糖とミルクを入れ、満足そうにスプーンで混ぜていた。
カップの中で白い渦がゆっくりと回り、甘い香りがふわりと立ち上る。
彼女は一口飲んで、ほっとした表情を浮かべた。
その光景を、御堂がとても嫌そうな顔で見つめていた。
「……スマートでは無いわね……」
御堂自身はストレートティーを優雅に口に運び、茶葉の香りを静かに楽しんでいる。
細い指でカップの取っ手を優しく持ち、湯気の向こうで目を細める仕草は、まるで絵画のように上品だった。
雪華はどこか気品のある仕草でブラックコーヒーを嗜みながら、にこにこしていた。
カップを軽く傾け、香りを味わう様子は優雅だが、目が常に楽しげに輝いている。
白峰はカップを両手で包み込み、幸せそうに息を吐いた。
「ん〜……甘くて美味しい……
こういう時間、久しぶりです……」
御堂が小さくため息をつきながらも、口元を緩めた。
「澪ちゃんの甘党ぶりは相変わらずですわね……
でも、こういうのも悪くないですわ」
雪華はコーヒーカップを置き、扇子をパチンと開いて笑った。
「ふふっ、たまにはゆったりした時間も良いものよね♪
これが女子会の醍醐味〜♪」
カフェの柔らかな光の中で、三人の笑い声が静かに、しかし温かく響き渡っていた。
おもむろに雪華が、悪戯っぽい笑みを浮かべて切り出した。
「ねえ、特対室のメンバーで気になる人とか居ないのォ〜?」
突然の質問に、白峰は紅茶をむせそうになり、慌ててナプキンを口に当てた。
「急に何を言い出すんですか!」
雪華はケタケタと笑いながら扇子を広げた。
「女子会と言ったら恋バナよォ〜!」
御堂は変わらず優雅に紅茶を一口飲んでから、淡々と、まるで天気の話でもするような軽い調子で答えた。
「あの面々に特別な感情を抱くなど……考えたこともありませんわ」
「つまらないわねェ〜」
雪華は口を尖らせて拗ねたように言い、今度は白峰に向き直った。
白峰はカップをそっと置き、ふと目を伏せた。
……今までのことを、ゆっくりと思い出す。
最初はぶっきらぼう過ぎて恐怖すら感じた黒崎さんだった。
でも、いつも自分を守ってくれた。
危ない場面で背中を見せてくれた。
今でもちょっぴり怖いけど、でもすごく頼れる人だな……。
室長は厳つい顔でいつもぶっきらぼうだけど、部下の命を本気で心配してくれている。
藤堂さんは几帳面で失敗しても一生懸命で、なんだか可愛いところがある。
安倍さんは胡散臭くてからかい上手だけど、どこか底知れなくて、気になる存在……。
白峰は自然と微笑みながら、ゆっくりと御堂の方を見て、屈託なく言った。
「皆さんの事、大好きです!」
その言葉に、御堂は同性ながら少しだけ胸がざわつくのを感じ、頰をほんのり赤らめた。
その笑顔は、戦いの疲れを忘れさせるほど自然で、誰に対しても素直に好意を伝えるような、人を和ませる魅力があった。
同性から見ても「可愛いな」と思わず頰が緩むような、無邪気さと温かさが混じった笑顔だった。
雪華が目を細めて、からかうように笑った。
「あらあら、気が多いのネェ〜」
白峰は慌てず、雪華の方にも笑顔を向けた。
「もちろん雪華さんの事も、大好きです!」
雪華は一瞬目を丸くし、それから大袈裟にため息をついた。
「罪作りな子ねェ〜」
三人で顔を見合わせ、くすくすと笑い合う。
穏やかな北海道の午後は、優しくゆっくりと流れていった。
新千歳空港の出発ロビーは、穏やかな喧騒に包まれていた。
特対室の面々はそれぞれ検査ゲートへと向かっていた。
黒崎と室長は先に通り、御堂も優雅に振り返って軽く手を振る。
白峰だけが、少し名残り惜しそうに足を止め、雪華の方を向いた。
「雪華さん……本当に、ありがとうございました。
また会えるといいな」
雪華はいつもの明るい笑顔で、でもその瞳には確かな優しさを湛えて答えた。
「ふふっ、いつでも呼んでねェ〜!
この先、あなたが生まれ変わっても、雪華ちゃん達はあなたの味方よォ!」
白峰は胸がじんわりと温かくなるのを感じ、精一杯の笑顔で頷いた。
「はい……!」
ゲートをくぐりながら、白峰は振り返った。
雪華は相変わらず派手に手を振り続けていた。
北海道の地に出来た、確かな絆を胸に——
白峰たちは、夏の空へと飛び立っていった。




