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病院ではお静かに!

病室の窓からは、札幌の穏やかな午後の光が差し込んでいた。


黒崎蓮はベッドに体を預けたまま、天井をぼんやりと見つめていた。

未だに信じられなかった。

あの強大な白虎を、雪華と白峰の二人だけで討伐したという事実が。

確かに雪華の強さは本物だった。

黒崎が出会った妖封士の中でも指折りの実力者であることは間違いない。

だが相手は大妖怪だ。

自分たちも以前、女郎蜘蛛という大妖怪を討伐したことがあるが、あれは特殊な条件下での戦いだった。ノーカウントだろう。


「いつまで気にしてんだ、黒崎」

隣のベッドから、室長・相楽剛の低い声が響いた。

室長はがっしりした体格に厳つい顔立ち、いつもぶっきらぼうで昔気質な男だ。

相楽は落ち着いた口調で続けた。

「事実、各地の雪女は消えた。

かの有名な探偵さんもこう言ってるぜ。

『全ての不可能を除外して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それこそが真実となる』ってな。

要するに、あいつらが討伐したんじゃねーと説明が付かねーのよ」

黒崎は少し驚いた顔で室長を見た。

あの室長が、シャーロック・ホームズの有名な言葉を自然に引用するとは思っていなかった。

「…………意外と博識じゃねぇか」

「うるせぇ。黙ってろ」

室長はぶっきらぼうに言い返したが、どこか照れくさそうに視線を逸らした。


そんな話をしていると、廊下から騒がしい足音が近づいてきた。

ドアが勢いよく開き、白峰、御堂、そして雪華の三人が入ってきた。

「お見舞いに来ました!」

白峰が明るく声を上げ、両手に持った紙袋を掲げる。

御堂は優雅に微笑みながら花束を、雪華は派手な紙袋を提げてにこにこしている。

室長はベッドに体を起こし、いつもの厳つい顔で言った。

「よう、来たか」


白峰がすぐに心配そうに近づいた。

「黒崎さん、室長!

大丈夫ですか? 傷の具合はどうですか?」

御堂も花束をベッドサイドに置きながら、優しく聞いた。

「無理はされていませんわよね? まだ安静が必要な時期ですのに……」

黒崎はベッドに体を預けたまま、面倒くさそうに手を振った。

「心配ねーよ。もうほとんど治ってる。」

室長は小さく鼻を鳴らして、不満げに続けた。

「ったく……こいつと同室ってのが一番の不満だわ。

落ち着いてマスもかけねぇ」

その言葉に、御堂が首を傾げて純粋に聞き返した。

「鱒……? 描く……?

室長は絵の趣味がお有りで?」

白峰は一瞬で顔を真っ赤にし、珍しく声を尖らせた。

「室長! それ、セクハラですよ!」

御堂はまだ状況を理解できていない様子で、首をさらに傾げながら純粋に尋ねた。

「セクハラ……? それはどういう意味ですの?

室長が鱒を描くのが何か問題なのですか?」

黒崎は面倒臭そうにため息をつき、室長は肩をすくめて笑っただけだった。


そのやり取りを、少し離れたところで雪華が眺めていた。

微笑ましいような、どこか寂しげな表情。

人間たちの賑やかで、温かい日常を——自分が少しだけ外側から見ているような、そんな気持ちが胸をよぎる。

(……本当に、いい人たちね……

笑い声がこんなに自然で、温かくて……

私のような存在が、こんな輪の中に入れるなんて……

でも、私はやっぱり……雪女……)

雪華の胸の奥で、静かな葛藤が小さく波打っていた。

人間として生きてきた時間と、妖怪としての本質が、優しくも切なく交錯する。

そんな複雑な想いを、彼女はいつもの明るい仮面の下にそっと隠した。

そんな雪華の心情など知らず、白峰は雪華の手を引いて笑顔で言った。

「雪華さんもこっちに来て、室長に言ってやってください!」

白峰の屈託のない笑顔に、雪華は先ほど感じていた寂しさが、スッと溶けていき、純粋で温かい手が、自分の冷たい手を優しく包み込むように感じられた。


雪華はいつもの派手な口調に戻り、扇子をパチンと開いて揶揄うように言った。

「室長さん、溜まってるのかしらァ〜!」

その瞬間、病室のドアが勢いよく開き、看護師の女性が少し困った顔で入ってきた。

「皆さん……お静かにお願いしますね!」

一瞬の静寂の後、互いの顔を見合わせた面々が、自然と爆笑し出した。

白峰は顔を真っ赤にして手を振り、

御堂は優雅に口元を押さえながら肩を震わせ、

雪華は扇子で顔を隠しつつクスクスと笑い、

黒崎はベッドでため息をつきながら苦笑い、

室長は肩をすくめて「ったく……」とぼやいた。

病室に、明るく賑やかな笑い声が響き渡った。

看護師さんは呆れた顔で頭を振りながらも、結局一緒に微笑んでいた。

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