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沖縄に行け

残暑の厳しい9月上旬。

特対室の地下オフィスは、北海道から帰還して以来、ようやく穏やかな日常を取り戻しつつあった。

白峰澪はデスクで報告書をまとめながら、ふと窓のない壁を見つめた。

あの吹雪の記憶が、まだ胸の奥に鮮やかに残っている。

富良野の神社で見た漆黒の霊虎の咆哮、雪華が光に包まれて姿を変えた瞬間、きみどりの温かい光……そして、最後に白虎が優しい光となって還っていく儚い光景。

激しい戦いの余韻は、体だけでなく心にも薄く影を落としていた。

それでも、白峰はペンを握る手に少し力を込めた。

(……みんな、無事でよかった……)

そんな静かな午後、室長のデスクの電話が、突然、鋭く鳴り響いた。


相楽剛は低い声で電話に応答し、相手の話を聞きながら眉を寄せていた。

電話はかなり長く続き、室長は時折「うん」「ああ」と短く相槌を打つだけだった。

ようやく電話が切れると、室長は受話器を乱暴に置き、深いため息をついた。

その表情が、明らかに重い。

「……室長?」

白峰が不安げに声をかけると、室長はゆっくりと立ち上がり、御堂と白峰を呼んだ。

「御堂、白峰。来い」

二人が近づくと、室長はぶっきらぼうに、しかし少し苛立ちを隠せない声で説明を始めた。

「沖縄へ行け」

御堂の目がわずかに見開かれた。


「本部から連絡だ。

長々と回りくどい話だったが、要するに……

沖縄でシーサーの封印が外れかかっているらしい。

妖栄会の仕業の可能性が高いと。

本部は『周囲に影響が出る前に、早期に鎮圧せよ』と。

現場の判断を尊重するとか言ってたが、結局は『早急に派遣せよ』の一言で終わった。

……いつも通り、現場の事情など知ったこっちゃねえって感じだな」

室長は腕を組んだまま、苛立ったように続けた。

「黒崎と俺はまだ傷が完治してねえ。

安倍はまたフラッと消えやがった。

だからお前たち二人で行け」


その言葉に、黒崎が自席で気だるそうに体を起こした。

「俺は治ってる。

こいつらだけじゃ不安だ」

しかし室長は、それをキッパリと制止した。

「今回はこいつらに行かせる。

お前もたまには下を信頼してみろ」

室長の声には、いつもの厳しさの中に、わずかな優しさが混じっていた。

黒崎は小さく舌打ちしたが、それ以上は言わなかった。

彼は無意識に、白峰の方へ視線を移した。

その目には一瞬、遠い過去の影のようなものがよぎった。


白峰は不安そうに眉を寄せた。

室長は二人の顔を交互に見て、重い声で続けた。

「今回も妖栄会の仕業だろう。

……本部も本気で動く。

本格的な討伐任務だ」


オフィスに、短い沈黙が落ちた。

天井の蛍光灯が、まるでこれからの任務を予感するかのように、チカチカと不規則に点滅していた。

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