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雪女は嫌い

白峰の横に、懐かしい黄緑色の少女が立っていた。

きみどりだった。

2体の大妖怪の完全顕現により霊的濃度が極端に上昇したことで、ひと時だけ形を得られたのだ。

淡い黄緑色の光の粒子が雪の中で優しく舞い、まるで森の精が降り立ったかのように幻想的に輝いている。

その姿は吹雪の中でひときわ柔らかく、温かく、白峰の疲れた心をそっと包み込むようだった。


雪獅子も座敷童の登場に驚きを隠せない。

青い瞳を大きく見開き、雪の上で一瞬体を硬直させる。

普段の冷静で力強い佇まいが崩れ、雪華の本音が露わになったような、珍しく動揺した表情だった。

そんな雪獅子をきみどりは少し疎ましそうに見て告げた。

「雪女はきらい。みんな冷たいもん」

頰を可愛らしくぷくっと膨らませてそう言うきみどりに、雪華と白峰は唖然とした。


その言葉と同時に、雪華は優しげな黄緑色の光に包まれた。

その光に吸い寄せられるように、散っていった雪女の分霊のカケラたちが集まっていく。

淡い黄緑色の光の粒子が雪の中で優しく舞い、雪獅子の純白の毛並みを幻想的に照らす。

光は雪獅子の体にゆっくりと染み込み、傷ついた体を癒し、力を増幅させていく。

雪獅子の青い瞳がより深く輝き、毛並みが雪の結晶のように美しく光を反射する。

その姿は神秘的で、神聖な冬の守護者のように、吹雪の中で荘厳に輝いていた。

白峰は息を飲み、目を大きく見開いた。

(……雪華さんが……光に包まれて……

きみどりの光が、雪華さんを強くしてる……

なんか、すごい綺麗……)

胸の奥が温かくなり、疲れた体に新しい力が湧き上がるのを感じた。


霊虎は雪獅子の力が上がっていることに気づき、急ぎ阻止しようと動いた。

巨大な体躯を雪を抉りながら猛然と突進し、容赦ない爪の一閃を雪獅子に叩きつける。

「危ない!」

白峰は残り少ない体力を振り絞り、真田丸8式を構えてその一撃を受け止めた。

ガァァァンッ!!

凄まじい衝撃が全身を襲い、白峰の腕が激しく痙攣する。

息も絶え絶えで、視界が白く霞む中、彼女は歯を食いしばり、必死に刀を支えた。

雪の上に膝をつきながらも、倒れまいと踏ん張る姿は痛々しくも必死だった。

その瞬間、光が収まった。

そこには、先ほどよりも壮健で、圧倒的な存在感を放つ雪獅子の姿があった。

純白の毛並みが雪の中で神々しく輝き、傷は癒え、力強いオーラが全身から溢れ出している。

雪獅子は低く、しかし力強く言った。

「今ならいけます!」

雪獅子は即座に霊虎に強烈な一閃を叩き込んだ。

鋭い爪が霊虎の側面を深く抉り、黒い体液が雪上に飛び散る。

よろめく霊虎は更に雪女の分霊を排出する。

排出された雪女たちは、そのまま雪獅子の元に集まった。

白峰も雪獅子に続いた。

息を荒げ、血まみれになりながらも、彼女は真田丸8式を振り上げ、霊虎に向かって飛び込んだ。

霊虎は雪獅子と白峰の反撃に、初めてたじろいだ。

巨大な体を後退させ、低く唸りながら警戒の姿勢を取る。

その赤い瞳に、初めて動揺の色が浮かんだ。


(きみどりが近くにいる……

そう思うと、不思議と力が湧いてくる……

いや、本当にきみどりが力をくれているんだ!)

白峰はきみどりの温かい光に支えられ、心を強く持った。

震える手で真田丸8式を握りしめ、涙を堪えながらも前へ踏み出す。

雪獅子の一閃が霊虎の側面を深く抉る。

霊虎は苦痛の咆哮を上げながらも反撃に転じ、巨大な爪を雪獅子に向かって振り下ろした。

ガァァァンッ!!

雪獅子は素早い身のこなしでそれを避け、逆に前肢で霊虎の首筋を薙ぎ払う。

しかし霊虎もただやられるわけではない。

黒い体を捻り、鋭い牙で雪獅子の肩に食らいつき、氷の槍を無数に生成して白峰を狙う。

「危ない!」

白峰はきみどりの力を感じながら、必死に真田丸8式を振り上げて氷の槍を弾き返した。

衝撃で体が後ろに滑るが、彼女は歯を食いしばって耐える。

その隙に雪獅子が霊虎の背後に回り込み、強烈な一撃を叩き込んだ。

霊虎は大きくよろめき、最後の分霊を苦しげに吐き出した。

白峰はその光景を見て、胸が締め付けられるような痛みを感じ、涙が溢れ出した。

(……苦しんでる……

霊虎さんも、雪女さんたちも……

自分の意志じゃないのに、こんなに痛そうに……)

きみどりの温かい光が、そんな白峰の心を優しく支えてくれている。

恐怖と悲しみの中で、それでも白峰は刀を構え直した。

雪獅子と白峰の連携した攻撃が、再び霊虎に襲いかかる。

霊虎は最後の抵抗として黒いオーラを爆発させ、氷の嵐を巻き起こすが、雪獅子がそれを正面から受け止め、白峰がその隙を突いて決定的な一撃を放つ。


最後の一撃を受けた霊虎は、大きくよろめきながらゆっくりと倒れ込んだ。

漆黒の肢体が、雪の上で静かに震えながら白く染まっていく。

黒い毛並みが雪のように純白に変わり、赤く燃えていた瞳が穏やかな青白い光へと戻っていく。

その姿は、まるで闇から光へ還るように幻想的で、美しく、儚かった。

吹雪の中で、白虎の体は淡い光の粒子を放ちながら、ゆっくりと元の優美な姿を取り戻した。

白峰はその光景を、涙でぼやけた視界で見つめていた。

(……やっと……解放された……

でも……こんなに苦しんで……消えていくなんて……

私、守れなかった……救えなかった……)

胸の奥がやるせない痛みで締め付けられる。

敵として戦ったはずの存在が、苦しみながら光となって消えていく姿に、言葉にできない悲しみと無力感が込み上げてきた。

涙が止まらず、雪の上に落ちてすぐに凍りつく。

雪獅子は静かにその白虎の姿を見つめ、優しく呟いた。

「本当に優しい子ね……」

白虎に戻った雪女の本霊は、ゆっくりと光となり、雪獅子の元に吸い寄せられていった。

優しい白い光が雪獅子の体に溶け込むように吸収され、雪獅子の純白の毛並みが一瞬、淡く輝いた。

雪獅子は目を閉じ、静かにその力をその身に受け入れた。

雪女の分霊たち、そして本霊を、ようやく一つに還すことができた——

その想いは、静かで、しかし深い充足と、ほんの少しの寂しさを伴っていた。

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