雪に舞う獅子
彼女の体が淡い光に包まれ始めた。
光が強さを増すと、雪華の姿が大きく変化していく。
銀色の髪が雪のように純白に染まり、四肢が優雅に伸び、気品ある雪獅子の姿へと変わった。
現れたのは、先ほどの白虎にも引けを取らない、美しい白の毛を纏った雪獅子だった。
その姿は、吹雪の中でひときわ輝いていた。
純白の毛並みは激しい雪の中でさえ神々しく光を反射し、雪の結晶がその周囲だけ幻想的に舞う。
しなやかな筋肉が雪の下で力強くうねり、長い尾が風を切り裂くように優雅に揺れる。
冷たく澄んだ青い瞳は、底知れぬ強さと静かな威厳を湛え、氷の冠のような角が淡い光を放っていた。
吹雪の白い渦の中で、その雪獅子だけがまるで別世界の存在のように際立ち、圧倒的な気品と力を感じさせる。
その姿は、冬の化身そのものだった。
白峰は目を大きく見開いた。
「雪華さん……!?」
雪獅子は白峰の驚いた顔を見て、静かに、しかし力強く言った。
「詳しい話は後にします。
今は……戦います」
途端にオネエ口調が無くなり、落ち着いた、しかし確かな力強さを帯びた声になった。
その声には、長年封じ込めていた本当の自分を解放した、揺るぎない決意と、守るべきものを守り抜くという強い意志が宿っていた。
雪獅子の青い瞳は冷たく澄みながらも、白峰に向ける視線には優しさと頼もしさが溢れていた。
純白の毛並みは吹雪の中で神々しく輝き、しなやかな体躯は圧倒的な力と気品を湛えている。
その姿は、ただそこに立つだけで周囲の雪女たちを威圧し、白峰に「この人となら大丈夫」と感じさせるほどの存在感があった。
白峰は少しだけ違和感を覚えつつも、強く頷いた。
「はい……!」
雪獅子は即座に霊虎に飛び掛かった。
第一撃——鋭い牙が霊虎の肩に深く突き刺さり、苦しむ咆哮が吹雪の中に響き渡る。
霊虎は引き離そうと、爪による一閃と氷柱による攻撃を繰り出したが、雪獅子は軽々とそれを避け、第二撃を放つ。
巨大な前肢が霊虎の側面を強烈に薙ぎ払い、黒い体が大きくよろめく。
隙が出来た霊虎に、今度は白峰が飛び込んだ。
「やあっ!」
真田丸8式の強烈な一撃が霊虎の背中に叩き込まれる。
霊虎から雪女が排出される度に、白峰の気が強まっていくのを感じた。
(……この力……雪女さんたちの……
仲間を助けたいという想い……?)
雪獅子は白峰の攻撃に合わせ、第三撃を放つ。
素早い身のこなしで霊虎の背後に回り込み、強靭な後肢で蹴り上げる。
霊虎の巨体が浮き上がり、雪の上に激しく叩きつけられた。
第四撃——雪獅子は容赦なく追撃を加える。
白い牙が霊虎の首筋を狙い、鋭く食い込む。
霊虎は苦痛の咆哮を上げながらも、必死に抵抗するが、雪獅子の動きは圧倒的に速く、的確だった。
一撃を叩き込まれ、また叩き込む度に分霊を排出し、弱体化していく霊虎。
白峰と雪獅子の連携は、互いの攻撃の隙を完璧に埋め合うものだった。
白峰の真田丸8式が正面から圧力をかけ、雪獅子が側面と背後から的確に追撃を加える。
そのコンビネーションは、見事なまでに息が合っていた。
しかし、やはり本霊。
本来なら正式に討伐隊が組まれ、綿密な作戦のもとで戦うべき大妖怪だった。
そこまでしても多大な被害を及ぼす存在を前に、白峰と雪獅子は徐々に追い詰められていく。
霊虎の動きは重く、しかし圧倒的だった。
一撃をかわしても、次の爪が容赦なく襲いかかり、雪獅子の白い毛並みに赤い傷を刻む。
白峰が真田丸8式で援護しようとしても、霊虎の尾が雪を巻き上げて視界を奪い、氷の槍が雨のように降り注ぐ。
「くっ……!」
雪獅子が低く唸りながら後退し、白峰も息を荒げてその横に並ぶ。
連携はまだ崩れていないが、霊虎の攻撃は一瞬の隙も許さない。
雪獅子の動きが徐々に鈍くなり、白峰の足は雪に取られてよろめく。
霊虎は低く唸りながらゆっくりと距離を詰めてくる。
その赤い瞳には、一切の慈悲がなく、ただ獲物を仕留める冷たい光だけが宿っていた。
白峰は息を荒げ、真田丸8式を構え直しながら、心の中で歯を食いしばった。
(……まだ……負けられない……!
雪華さんも、室長さんも……みんなのために……!)
しかし、霊虎の次の攻撃は容赦なかった。
巨大な爪が雪を抉り、二人を同時に狙う。
雪獅子が身を挺して白峰を守ろうとした瞬間、強烈な衝撃が雪獅子の体を吹き飛ばした。
「雪華さん!」
白峰の叫びが吹雪の中に響いた。
傷つきながらも尚、立ち上がる雪獅子だが、圧倒的な力の前に息も絶え絶えだった。
白峰に至っては、慣れない雪の中、ましてや猛吹雪の中での戦い。
体力はほぼ限界に近づいていた。
それでも、白峰は諦めなかった。
(……みんなを守りたい……
室長さんも、黒崎さんも、御堂さんも、雪華さんも……
雪女さんたちも……私がやらなきゃ……!)
胸の奥から溢れ出す強い想いが、ボロボロの体を無理矢理動かしていた。
肩から流れる血が雪を赤く染め、息は荒く、足は雪に埋もれて震える。
視界がぼやけ、膝が折れそうになるたび、彼女は歯を食いしばり、必死に体を支えた。
痛みと恐怖が全身を蝕む中、それでも白峰は真田丸8式を握りしめ、再び飛び込もうとする。
その時——
フワッと、温かい空気が流れた。
白峰の横に、懐かしい黄緑色の少女が立っていた。




