優しい子
吹雪が少し弱まった富良野の山道を、一行は慎重に進んでいた。
道中、何度も雪女の分霊たちが襲いかかり、激しい小競り合いが繰り返された。
雪華の氷の槍、黒崎のデッドノック、御堂の牛鬼が次々と敵を薙ぎ払う中、白峰も真田丸8式を振るいながら懸命に戦っていたが、雪の中での動きは重く、息が上がっていた。
激闘の連続で体力が確実に削られ、肩で息をする者も少なくなかった。
ようやく目的の神社が近い場所まで辿り着いた頃、吹雪が一段と落ち着いた。
白峰は息を整えながら、ずっと気になっていたことを雪華に尋ねた。
「あの……雪華さん。
倒されて消えた妖怪達はどうなるんですか?」
雪華は扇子を軽く広げ、いつもの派手さとは少し違う、穏やかで優しい声で答えた。
「ふふっ……自然の元の形に帰っていくのよ。
そして、また縁があれば、別の形で現れるの。
妖怪って、そういうものなの」
白峰はその言葉を聞いて、胸の奥が少し軽くなった。
「……そうですか。
よかった……」
雪華は白峰の純粋に心配するような表情を見て、胸の奥で不思議な温かさが広がるのを感じた。
敵として戦っているはずなのに、こんなに妖怪のことを気にかける白峰の優しさに、普段は感じないような柔らかい感情が湧き上がっていた。
(……この子、敵として戦ってるのに……こんなに心配してるんだ……
……本当に優しい子なのね……)
雪華は自分でも意外に思うほど柔らかい笑みを浮かべ、静かに言った。
「あの子たちもきっと、今度は別の形で帰って来るわ」
その安心したような白峰の表情を見て、雪華は思わず小さく微笑んだ。
雪華は自分でも驚くほど、温かい気持ちになっていることに気づいた。
普段なら「可愛い子ね~」と軽く流すところだが、今は胸の奥がじんわりと熱くなっていた。
雪華は自分をからかうように小さく呟いた。
「はぁ……調子狂っちゃうわね……」
その時、黒崎が前方を指差した。
「着いたぞ」
一行はとうとう境内に到着した。
そこは一面の雪に覆われた、荘厳でありながら不気味な空間だった。
古い鳥居や社殿は厚い雪のヴェールに包まれ、提灯のような淡い光が雪の中でぼんやりと揺れている。
夏の富良野とは思えない白銀の世界が、静かで神聖な美しさと、底知れぬ冷たい異様さを同時に湛えていた。
雪の結晶が淡く輝き、風のない空間でゆっくりと舞う様子は幻想的ですらあったが、その美しさの奥底に、ねっとりとした負の気配がまとわりついている。
その中心に、予想通り、仙台で見た不気味な男と、その周りに似たような人間たちが集まり、封印を解く儀式の真っ最中だった。
男たちはぼろぼろのコートをまとい、影に沈んだ顔で奇妙な呪文を唱え続けている。
その動きは機械的で、まるで人形のようにぎこちなく、しかし確実に負の気を祠に向かって注ぎ込んでいた。
低く響く詠唱が雪の中に溶け込み、境内全体を不気味に震わせている。
不気味な男はゆっくりと振り返り、影に隠れた顔で低く笑った。
「……また会いましたねぇ〜」
室長がメリケンサックをはめた拳を強く握りしめ、低く、重く言った。
「邪魔をするぞ」
黒崎はデッドノックを構えながら、短く吐き捨てた。
「今度こそ、まとめて片付ける」
御堂が呪符を手に、静かに息を吐いた。
「スマートに……とはいきませんわね」
雪華は扇子を閉じ、いつもの派手な笑みを浮かべながらも、目は鋭く光らせた。
「ふふっ……派手に暴れましょか~」
白峰は真田丸8式を両手でしっかりと構え、静かに息を整えた。
胸の奥で、静かな、しかし確かな怒りが燃えていた。
(……妖栄会……
紅葉さんや紫さん、きみどり……みんな、心を持ってるのに……
ただの道具みたいに利用して……
そんなの、絶対に許せない……)
仙台で感じた温かい記憶と、今、目の前で妖怪たちが操られている現実が、重く胸にのしかかる。
その怒りは激しいものではなく、静かで、しかし決して消えない炎のように、白峰の心を強く支えていた。
境内を包む吹雪の中で、決戦の火蓋が切られようとしていた。




