祭り開演
雪華は扇子をパチンと勢いよく閉じ、にやりと笑った。
その笑みは明るいのに、どこか冷たく、底知れない強さを秘めていた。
「さあ、始まるわよ~。
あたしたちの、夏の雪祭り♪」
その言葉と同時に、吹雪が一気に激しさを増した。
風が獣の咆哮のように唸り、雪片が刃物のように鋭く舞い上がり、視界を真っ白に塗りつぶす。
雪華は左手を軽く掲げ、明るく叫んだ。
「まずはあたしからね~!」
瞬間、周囲の雪が異常な速度で凍結し、巨大な氷の槍が何十本も雪華の背後から浮かび上がった。
「いっくよぉ~!」
彼女が右手を振り下ろすと、氷の槍が一斉に射出された。
ズガガガガッ!!
空気を切り裂く鋭い音とともに、氷の槍が雪女の分霊たちに突き刺さる。
一瞬で数体が氷の塊に閉じ込められ、動きを封じられた。
雪華は優雅に髪を払い、扇子を広げて笑った。
「ふふん、どう? あたしの『氷の舞』は派手でしょ?」
御堂が優雅に一歩前に出て、いつもの決め台詞を吐いた。
「私たちもスマートに、参りますわ」
彼女が呪符を掲げた瞬間——
地面が激しく震動し、大量の雪が爆発的に舞い上がった。
ドゴォォォンッ!!
重低音が吹雪を切り裂き、地面から漆黒の巨体が噴き出すように出現した。
牛鬼。
その巨体は雪を吹き飛ばし、周囲の木々をなぎ倒さんばかりの威圧感を放つ。
漆黒の角が雪明かりを反射し、赤い瞳が戦場を睨みつける。
しかし、その召喚の衝撃は想像以上だった。
牛鬼の重い足が地面を踏みしめた瞬間、周囲の建物や木々に積もっていた大量の雪が一斉に崩れ落ち、巨大な雪崩となって面々に向かって襲いかかってきた。
「っ……!」
白峰が思わず身を固くしたその時——
「危ないわよ~!」
雪華が左手を軽く振る。
瞬間、大気中の水分が一瞬で凍結し、透明で分厚い氷の壁が三人の前に展開された。
ガガガガガッ!!
雪の塊が氷の壁に激突し、凄まじい音を立てて粉々に砕け散る。
衝撃で地面が揺れ、細かな雪の粒子が舞い上がって視界を白く染めた。
雪華は扇子をパチンと閉じ、得意げに言った。
「雪華ちゃんは、こういう事も出来るのヨォ~!」
御堂は牛鬼の巨体を操りながら、わずかに息を弾ませて微笑んだ。
「ふふ……派手にやりますわね」
しかし、次の瞬間——
牛鬼が咆哮を上げ、雪女の群れに向かって突進を開始した。
ドゴォォンッ!
その一歩ごとに大地が激しく震え、積もっていた大量の雪と氷柱が爆発的に飛び散った。
「きゃっ……!」
白峰が思わず身を縮め、顔を腕で覆う。
飛び散った氷の破片が頰を切り、雪崩のような雪の塊が足元を襲う。
黒崎が舌打ちしながら身を翻した。
「くそっ……このデカブツ、味方にも迷惑かけやがって!」
御堂の表情がわずかに歪んだ。
(……思うように動けない……!
この雪の量では牛鬼の力も半減ですわ……)
彼女は歯を食いしばりながらも、優雅さを崩さず呪符を握り直した。
「少し……我慢なさい!
今、調整しますわ!」
牛鬼の巨体がもう一歩踏み出すたび、周囲の雪が再び崩れ落ち、白峰たちを襲う。
戦場は一気に混沌と化し、味方同士の連携すらままならない状況になっていた。
その直後——
室長が無言で雪の中を歩み出した。
メリケンサックをはめた両手を軽く振り、雪女の一体に肉薄する。
ドンッ!!
重い打撃音が響き、雪女の胴体が大きく凹んだ。
室長の拳はシンプルだが、重く、容赦ない。
一撃ごとに雪女の鱗が砕け、氷の破片が飛び散る。
黒崎が横からデッドノックを構えながら、低く言った。
「室長、相変わらず無茶苦茶だな」
室長は雪女を殴り飛ばしながら、短く返した。
「うるせぇ。動けるうちに動くだけだ」
白峰は真田丸8式を握りしめながら、二人の戦いぶりに息を飲んだ。
(……室長さん、すごい……
雪華さんも……本当に強い……)
雪華は再び手を振り、笑い声を上げた。
「黒崎ちゃんも負けないでよ~!
あたしが派手にやるから、ちゃんとフォローしてね♪」
黒崎が舌打ちしつつ、デッドノックを連射した。
ドン! ドン! ドン!
御堂も牛鬼を操り、巨体で雪女を弾き飛ばしながら叫んだ。
「澪ちゃん! 無理はしないで!
私たちが前衛を務めますわ!」
しかし、牛鬼の動きは明らかに鈍かった。
大量の雪と氷が巨体の動きを阻み、思うように踏み込めない。
御堂の眉がわずかに寄り、苛立ちが顔に浮かぶ。
白峰はそれを横目で見て、震える手を強く握りしめた。
(……みんな、強い……
でも、私も……ちゃんと戦わなきゃ……)
彼女は怖さを無理矢理抑え込み、一歩前に出た。
「私が……行きます!」
その言葉に、黒崎が即座に突っ込んだ。
「牛鬼、役に立つどころか足手まといじゃねえか。
何がスマートだ」
御堂の顔が一瞬で真っ赤になった。
「うるさいですわ! この状況では仕方ないでしょう!」
雪華はそんなやり取りを聞きながら、クスクスと楽しげに笑った。
しかしその笑みの奥には、どこか距離を置いた冷たさがちらりと覗いていた。
「みんな仲良しねぇ~。
あたしも混ぜてよ~!」
戦闘は刻一刻と激化していく。
牛鬼の重い足音が雪を抉り、黒崎のデッドノックが連続して轟く。
白峰は真田丸8式を両手で強く握りしめ、震える足を無理やり前に踏み出した。
指が白くなるほど柄を握り、息を荒げながらも、決して後ろには下がらない。
雪女の分霊が飛びかかってくるたび、彼女は歯を食いしばって刀を振り、純白の光を纏った斬撃を放つ。
まだ刀の扱いはぎこちなく、刃が雪女の鱗を浅く切り裂くのが精一杯だった。
それでも、白峰は一撃ごとに声を上げて踏み込み、必死に前へ前へと進もうとする。
(怖い……でも、動かなきゃ……!
みんなが戦ってるのに、私だけ……!)
震える腕に力を込め、もう一度真田丸8式を振り上げる。
雪女の爪が肩をかすめ、鋭い痛みが走るが、白峰は顔を歪めながらも目を逸らさず、刀を振り下ろした。
雪女の分霊たちが次々と姿を変え、吹雪の中で白い牙と氷の爪をむき出しにする中、白峰は小さく、しかし確かに自分の足で戦場に立っていた。




