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雪に咲く花

札幌・北海道支部の会議室は、張りつめた冷たい空気に包まれていた。

蛍光灯の白い光が長机を照らし、壁にかけられた北海道の地図が、静かに影を落としている。

エアコンの低い唸り声だけが響く中、誰もが息を潜めているような重苦しい沈黙が漂っていた。

支部長が疲れた顔で、しかし声に力を込めて説明を続ける。

「富良野を中心に、異常な吹雪が急速に拡大しています。

八月中旬だというのに、積雪はすでに五十センチを超えています。

解かれた雪女の分霊が、まるで何かに呼ばれているように富良野方面へ集結しているんです」

現地の黒子の一人が、硬い表情で補足した。


「富良野の山奥には、雪女の本霊が長年封印されている古い神社があります。

現在、本霊の封印はなんとか保たれていますが……時間の問題でしょう。

雪女は本来、一つの魂を複数の分霊に分けて存在しています。

本霊あるいは分霊の意思により、分けられた魂が再び一つに戻る『融合』を目指している可能性あります。

本霊が目覚め、分霊と融合してしまえば、手がつけられなくなります。

最悪の場合、富良野全域が永遠の雪に閉ざされる可能性もあります」

その説明を聞いた瞬間、白峰の目が大きく見開かれた。

「ゆ……融合……?」

白峰は思わず声を漏らした。

今まで妖怪が「分霊」として存在し、それが本霊と一つになるという話を、彼女は一度も聞いたことがなかった。

頭の中でその言葉がぐるぐると回り、背筋に冷たいものが走る。

(分霊が……本霊と一つになる……?

それって、雪女が完全に力を取り戻すってこと……?

そんなことが本当に起こるの……?)


部屋に重い沈黙が落ちた。

室長・相楽剛が低い声で聞いた。

「他の支部の援護は?」

支部長は苦々しく唇を歪めた。

「京都には連絡しましたが……『東のことは東で解決しろ』の一言だけでした。

他の地方支部にも要請しましたが、どこも『人手が足りない』『現在対応中の案件がある』と断られました。

結局、駆けつけてくれたのは東京の皆さんだけです」

その言葉を聞いた白峰は、胸の奥がざわついた。

(……また……仙台の時と同じ……)

仙台の女郎蜘蛛の件でも、他の支部からの援護はほとんど期待できず、結局特対室のメンバーだけで対応せざるを得なかったことを思い出す。

組織全体が慢性的に人手不足で、どこも自分の管轄のことで精一杯なのだという現実が、改めて白峰の胸に重くのしかかった。

(……みんな、いつもこんな風に……ギリギリで戦ってるんだ……)

部屋の空気が、さらに重く沈んだ。


その時、会議室のドアがノックされ、派手なヒールの音と共に一人の女性が入ってきた。

純白のコートを肩から羽織り、銀色のロングヘアを優雅に流した長身の美女。

派手なメイクと自信たっぷりの歩き方が目を引くが、その瞳の奥には、冷たい雪のような鋭い光が宿っていた。

支部長が彼女を見て、軽く頭を下げながら紹介した。

「こちらは当支部所属の妖封士、氷川(ひかわ) 雪華(せっか)です」

雪華はにっこりと笑い、扇子をパチンと開いて軽く一礼した。

「はーい、みんな初めまして~!

あたしが北海道一のいい女、雪華ちゃんだよ。よろしくね♪」

しかし、その笑顔とは裏腹に、部屋の温度がさらに下がったような気がした。

支部長は苦笑しながら続けた。

「雪華は……その、少々個性的ですが、腕は確かです。

特に雪女関連の事象については、北海道支部で一番の経験と実績を持っています」

雪華は扇子を優雅に閉じ、得意げに胸を張った。

「ふふん、そうなのよ~。

あたし、雪女の気配には敏感なんだから。

まあ、性格はちょっと派手ですけど、仕事はちゃんとやるわよ?」

白峰は雪華の顔をじっと見て、胸の奥がざわついた。

(……この人……紅葉さんや、紫さんに、なんだか雰囲気が似てる……?

優しそうな笑顔の裏に、冷たい何かを感じる……)


室長が低く、しかしはっきりと言った。

「状況は理解した。

俺たちで富良野へ向かう。

雪華、お前も同行しろ」

雪華は目を細めてにやりと笑った。

「了解~。

久しぶりに本気で遊べそうね」

会議室の空気は、まるで吹雪が吹き荒れる直前のように、重く冷たく張りつめていた。

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