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八月の雪

八月も半ばを過ぎた、東京は連日、三十五度を超える猛暑に包まれていた。

特対室の地下オフィスは、いつもより少しだけ冷房が強く効いている。

しかし、その冷えた空気の中にも、どこかざわつくような熱が混じっていた。

蛍光灯の白い光がデスクを照らす中、いつもより静かで、まるで嵐の前のように息を潜めている。

白峰澪は資料をめくりながら、ふとテレビのニュースに目をやった。

画面には、北海道・富良野の街で「季節外れの大雪」が降り積もる様子が映し出されている。

一面の白に覆われたラベンダー畑の残骸が、異様な光景を強調していた。

「わあ……富良野って、八月でもこんなに雪が降るんですね。

珍しい事もあるんですね」

白峰がのんきに呟いた瞬間、部屋の空気が一瞬で張りつめた。


黒崎がコーヒーカップを置く手を止め、めんどくさそうにため息をついた。

「……お前、まだそんな呑気なこと言ってんのかよ。

仙台の件で懲りただろうが」

御堂が優雅に眉を寄せ、藤堂が眼鏡を押し上げる。

室長・相楽剛は奥の席から、低い声で言った。

「……珍しい、じゃ済まねぇな」

その言葉とほぼ同時に、室長の机の電話が鳴った。

室長は一瞬だけ目を細め、受話器を取った。

「……ああ、北海道支部か。……わかった。状況を詳しく」

短いやり取りの後、室長は電話を置き、珍しく重い表情で一同を見回した。

「北海道支部から救援要請だ。

富良野を中心に、各地で雪女の分霊の封印が、一斉に解かれているらしい」

白峰の表情が固まった。

「え……雪女……?」


黒崎が腕を組んだまま、低く吐き捨てるように言った。

「八月に富良野で大雪……しかも複数の雪女が同時に顕現か。

ただ事じゃねぇな」

御堂が静かに、しかし少し探るような声で言った。

「仙台の……女郎蜘蛛たちの件と、関係があるのでしょうか?」

その一言に、白峰はびくりと肩を震わせた。

胸の奥で、紅葉の苦しげな複眼や紫の優しい微笑みが一瞬で蘇り、息が詰まるような感覚が広がった。

(……また、あんなことが……?)


部屋の空気がさらに重くなった。

冷房の風が急に冷たく感じられ、蛍光灯の光がわずかに揺れたように見えた。

室長はデスクに両手をつき、ゆっくりと立ち上がった。

「安倍の奴はまたフラッと消えやがった……

今回は俺も動くか」

室長は珍しく口元をわずかに緩め、しかし目は全く笑っていなかった。

「白峰。お前も本気で覚悟を決めろ。

これは討伐任務だ」

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