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男のグルメ紀行

ある日の昼下がり。


特対室には、珍しく男四人だけが揃っていた。

白峰と御堂は今日がオフで、六本木でショッピング中らしい。

相楽室長がデスクから顔を上げ、ぶっきらぼうに言った。

「昼飯、どうする?」

藤堂司の目が、ぱっと輝いた。

「実は、六本木の裏側に最近できた和食のお店が気になっていまして……

今日は僕のおすすめでどうでしょうか?」

黒崎は面倒くさそうに肩をすくめ、ぼそりとつぶやいた。

「……和食ねぇ。まあ、藤堂が言うなら外れはねえだろ」

安倍零はにやりと笑いながら、黒崎の方をチラリと見て言った。

「へえ、黒崎ちゃんも素直じゃないねぇ。

『藤堂が言うなら外れはない』って」

黒崎は即座に舌打ちした。

「うるせえよ」

室長は「好きにしろ」とだけ言い、立ち上がった。

こうして、男四人による六本木ランチ巡りが始まった。


藤堂の足取りは軽やかで、どこか自信に満ちていた。

しかし、目的の店に着いた瞬間——

店の前にはすでに長蛇の列ができていた。

しかも、行列の長さから見て、明らかに回転が悪そうだった。

「……」

藤堂の笑顔が一瞬で凍りついた。

黒崎がぼそりとつぶやいた。

「……読み、外したな」

安倍零はサングラスを軽く押し上げながら、楽しそうに言った。

「ツカッちゃん、今日の混雑は予想外だったみたいだね。

このペースだと、待ったら確実に昼休憩の時間をオーバーしちゃうよ?」

室長は腕を組んだまま、無言で藤堂を見た。

その視線が妙に重く、藤堂の背中に冷たい汗が伝う。


藤堂は慌ててスマホを取り出し、額に汗を浮かべながら真剣に考え始めた。

(自分の気分は一旦置いて……今、みんなのお腹の空き具合はかなり高いはず。

このままここで待てば、明らかに昼休憩の時間を大幅にオーバーする……!

普段この辺りの店は12時を過ぎると急に混むから……回転率の良い店に切り替えるべきか……)

「最適解は……ここで待つか、5分歩いて別の店に行くか……

でも歩く時間も考慮すると、往復で10分……さらに注文から提供までの時間も……」

藤堂の声は徐々に小さくなり、指がスマホの画面を必死にスクロールする。

額の汗が一筋、頰を伝って落ちた。

一方で——

黒崎は深いため息をつき、面倒くさそうに首を回した。

「どうでもいいだろ、そんなの」

安倍零はくすくすと笑いながら、サングラス越しに藤堂を眺めている。

「ツカッちゃん、限られたランチタイムに命かけてるね。かわいいよ」

室長は無言で近くの自動販売機に向かい、缶コーヒーを買って飲み始めた。

その姿勢は完全に「もう好きにしろ」という、ゆるくて温度の低い態度だった。

初夏の昼の陽射しのように熱く焦る藤堂と、

すでに夜の冷たい風が吹いているかのような、残り三人の緩い温度差がそこにあった。


藤堂はまだ真剣にスマホを睨みながら、額に汗を浮かべたまま呟いた。

「皆さんの空腹度を優先すると……回転の早い定食屋が無難かと……

いや、でも味のバランスも考慮すると……ここから一番近いのは……あ、でも混雑状況が……」

藤堂の指がスマホの画面を何度も往復し、声がどんどん小さくなっていく。

完全に迷いの渦中にいて、結論が出せずにいるのが丸わかりだった。

黒崎がとうとう限界を迎えた。

「おい、藤堂。

飯を食うのにそんなに頭使わなくていい。腹減ってるんだから、適当に入れ」

安倍零がにやりと笑ってフォローした。

「黒崎ちゃんの言う通りだよ。

俺たちはただ腹を満たせればそれでいいんだから」

室長はコーヒーを飲み干し、短く言った。

「決まらねぇなら、俺が決めるぞ」


結局、四人は室長の案内で、近くの少し小汚い定食屋に入ることになった。

席に着くなり、黒崎がメニューを見ながらぼそりと言った。

「藤堂、次からは『おすすめ』って言う前に、混雑具合だけは調べておけよ」

藤堂は肩を落としながらも、どこか楽しげに笑った。

「はい……反省します」

そう言いながらも、藤堂の目はすでにメニューに釘付けになっていた。

数秒後、突然目が輝き、声が少し大きくなった。

「あ……! この店、夏限定の冷やしトマトと揚げ茄子の定食がある……!

しかも、付け合わせに自家製の浅漬けと……おお、味噌汁が冷や汁スタイルで……!」

藤堂はメニューを指差しながら、さっきまでの反省などすっかり忘れた様子で興奮し始めた。

安倍零は珍しく呆れた顔をして、目を細めた。

「……ツカッちゃん、さっきまであんなに焦ってたくせに、もう完全にスイッチ入ってるね。

呆れるを通り越して、ちょっと感動するよ」

黒崎がため息混じりに突っ込んだ。

「ほら見ろ。反省してねえじゃねえか」

室長はただ一言。

「早く注文しろ。腹が減った」

四人はそれぞれの定食を注文し、

いつものように、適当で、でもどこか心地いい昼飯の時間を過ごした。

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